3 勇者、賢者と出会う
「って、ドラゴン!?」
いやいや、ここはトサカ平原。
初心者向けのダンジョンなんだけど。
と、とにかく、落ち着こう。
まずは仲間の安全確認を。
「ロディさん……っていない!」
「ひいい。ドラゴンだあああっ! 逃げろおおおっ!」
みんなドラゴンが出てきたから、一目散に逃げだしたのか。
もう、いいや。
よくわからないけど、目の前にいるモンスターを倒そう。
「ガアアアアッ!」
ドラゴンとは何度か戦ったことがある。
体力が高くて、すごくタフ。あと魔法が効きにくい。
目立った弱点はない。
というか、今の私は一人なので、やれることは力押しぐらいだけど。
「はああっ!」
切りかかる。
まずは先手必勝。先制で相手の頭部に攻撃を当てる。
ゴツンッ!
鈍い音がした。
私の手もちょっと痺れる。
「ガアッ?」
どうやら無傷。ダメージもないようだ。
やっぱり硬い。ドラゴンの鱗は鋼のような硬度らしいけど、本当に金属みたいだ。
うーん。『聖なる牙』を追放されたとき、ついでに装備を置いてきたのが悪かったかもしれない。
あの中には、ドラゴンのような硬い相手にもダメージが与えられる武器もあったのだ。
どうしようかな。
魔法は効きにくいから、状態異常も入りにくいし。
全力で殴るって方法もあるけど、痛いから嫌だし。
いや、でもここは……。
「……スキルでいこう」
スキルとは、いわゆる特殊技能のこと。
今回はその中から、『剣術スキル』というものを使ってみようと思う。
もともとは体格差のあるものにもダメージを与えられるように考案されたものだ。
ドラゴンのような大型モンスターを相手するにはぴったりのスキルである。
≪ブレイブスラッシュ≫
難度 ★★★
属性 無
使用回数 10/10
命中率 100%
説明 安定してダメージを稼げる勇者の主力技
これで行こう。私もよく使うスキルだ。
あと、ついでに魔法も使っておこう。
攻撃力を上げる『パワーアップ』と、クリティカル率を上げる『ラックアップ』。
「準備できた。それじゃあ、いっくよー」
私はドラゴンの背中を駆け上がって、ジャンプした。
それから、トカゲのような頭をめがけて、剣を打ち込む。
「ブレイブスラッシュッ!!」
ガンッ!
よし。入った。
表皮は切れてないけど、問題ない。
ブレイブスラッシュは切るんじゃなくて、衝撃で倒す技だ。
このままの勢いで地面に押しつぶす。
「ガアアアアッ!」
ドッシ――――ン!!
「いたあああああいっ!」
あれ? なんか今、変な声が聞こえたな。
空耳かな。
「いたああああいっ!」
いや、「痛い」って言ってる。
人間の言葉だ。どういうこと?
「……まったく、いきなり殴りかかって来おって。わしじゃなければ死んでおるぞ」
フレンドリーに話しかけてきた。
私にドラゴンの友達なんていないはずだけど。
「あなた、私のこと知ってるの?」
「わしじゃよ、わし」
「いや、わしって言われても」
「……仕方ないの」
ドラゴンは立ち上がると、口から白い煙を噴き出した。
それから、ボフッっと音を立てて、姿を変えた。
――ドロドロン!
どうやら人間が魔法を使って、姿を変えていたようだ。
しかも、この人、私のよく知る人物だった。
「カルネ先生じゃないですか」
「そう、わしは大賢者カルネ。おまえに魔法のいろはを叩き込んだ者じゃ」
★
カルネは私が勇者として生活していくうえで、さまざまなサポートをしてくれた。
私にとっては恩師に当たる人物である。
魔術師としての実力は伝説クラス。
それだけでなく、新しい魔法をいくつも作り出してきた。
本当にすごい人なんだけど、その代わりに性格はひねくれている。
いたずら好きで、人の慌てる顔を見るのが娯楽の一つ。
さっきも私を驚かしてやろうと、ドラゴンに変身して近づいてきたのだ。
この人は、昔からこういうことばかりする。
本当にめんどくさい。
「わし、かわいい?」
「……え?」
「だから、この姿のことじゃ」
一言で表すなら、6歳ほどの幼女。
本当は300歳を超えているらしいけど。
「まあ、かわいいんじゃないでしょうか」
「やっぱりね!」
……う、うざい。
面倒だから流そう。
「こちらが冒険者ギルドです」
「ほう。これか。でっかいのう」
ギルドに入ると、カルネは受付嬢を呼びつけた。
彼女はギルドマスターに会うために、わざわざ山里から降りてきたのだそうだ。
「すみません。ただいま出払ってまして」
「なぬっ! 自分から呼び出しておいて仕方のないやつじゃ」
「代わりに、これを渡しておくようにと」
「ふむ」
渡された書状を開いて、中を読む。
「ふむふむ。なるほどね」
「何が書いてあるんですか?」
「ああ。おまえには関係ない話よ。気にするな」
カルネは書類をクシャクシャと丸めると、その場で燃やした。
めちゃくちゃ気になるんですけど。
といっても、私はそれどころじゃないか。
まずは仲間を探して、新しいパーティーに入らないと。