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2 勇者、仲間を探す


  

 名前 ステラ・レイラント

 職業ジョブ 勇者


 攻撃   SSS

 防御   SSS

 素早さ  SSS

 技量   SSS

 魔力   SSS

 魅力   SSS


 備考:完全無欠

    弱点? なにそれ?



「えええええええっ! 勇者さま凄すぎですぅぅぅぅぅッ!」


 ギルドに登録していれば誰でも受けることができる能力診断。

 初めて受けたんだけど、これやっぱり高いんだろうか。

 それにしても、リアクション大げさだな。


「あれあれ? おかしいですね。これやると冒険者さんは喜ぶんですが。もしかして、外しちゃいました?」

「いえ。それはどうでもよくて」

「わかってます。仲間を探してるんですよね。どんな方をお探しなんですか?」

「どんな?」

「いろいろあるじゃないですか? ゴブリン顔とか、オーク顔とか」


 そうか。なんでもいいと思ってたけど。

 よく考えたら、それではダメだ。追放されたばかりなんだから、もっと慎重に選ばなければならない。

 ロイドはたしか……。


『自分の実力に見合った自分にふさわしい仲間を探すんだ』


 と言っていた。


「私と同じぐらいの強さで」

「またまたあ。勇者さまと同じ実力なんて、そんな人はいませんよ。いたとしても伝説クラスです」

「じゃあ、一段下で」

「それもいません」

「二段下」

「いません」

「……三……四……五」

「五段下ならギリいるかもしれませんね。探してみましょう」

 

 サラサラと手元の資料をめくっていく。


「ああ。いました。二件あります。コボルト顔のショタか、オーク顔のおじさんですね」

「資料を見せてもらってもいいですか?」

「いいですよ」


 受け取った資料を見てみる。能力診断の結果はどちらも変わらない。五段下ということで、B級上位ぐらいの実力を持ったパーティーのようだ。


 少し考えてみた結果、オーク顔のおじさんの方を選んだ。

 理由は魔法使い、盗賊、重戦士と、パーティーの構成が『聖なる牙』に似ているからだった。


 前のパーティーに未練があるみたいで、ちょっと嫌だけど。

 でも、得意なフォーメーションも似通ってるし、新しく考えなくてもいいからけっこう楽だと思う。


「ふむふむ。勇者さまは、ブタ顔で年上が好みと。メモメモ……」

「あの……」

「はははっ。冗談ですよ。軽く流してください」

 

 ☆


「……ブヒ」


 ああ。たぶん、この人かな。

 似顔絵で見るより、ずっとオーク顔だ。


 これ、遠くからだと、オークと間違われそうだな。

 そして、冒険者に追い回されたり。


「おはようございます」

「ああ。君が例の新人だね。たしか、名前は……」

「ステラ・レイラント。職業は剣士です」

「ステラくんね。今日はお試しみたいなものだから、気楽にいこうね」


 よかった。

 受付嬢さん、私が勇者なことは伏せてくれたようだ。

 いつもとは髪型も変えてきたから、これで私が勇者だって気づかないだろう。


 あんまり騒がれたり、変に身構えられるとやりにくい。

 勇者と言ったって普通の人間と変わらないし、別にだましたことにはならないはずだ。


「僕はロディ。こっちのがランド。そっちのがブラウン」

「よろしくお願いします」

「よろしく。ところで、これからどこに行くか聞いてる?」

「はい。トサカ平原です」

「そうだね。予習はしてきた?」

「はい。全体マップは頭に入ってます。出没するモンスターの種類、ドロップアイテムについてもチェック済みです」

「おお、優秀だ。それなら、先頭を歩いてもらおうかな」

「任せてください」


 うん。ばっちり。

 体調もしっかり整えてきたし、装備の手入れも済ませてる。


 とにかく今回の私の目標は、足を引っ張らない。迷惑をかけない。

 そして、私もみんなも楽しく冒険する。

 これ、とても大事。




 というわけで、目的地までやってきた。

 トサカ平原。代表的な草むらエリア。


 町から近くて、すぐに帰れる。

 見晴らしがよくて敵に囲まれる心配がない。

 状態異常を多用するような厄介なモンスターがいない。


 といった理由により、安全で初心者向けと言われている。

 手慣れた冒険者なら、ピクニック気分でモンスターを狩りに来たりもする。


「僕、ポークソテー好きなんだよね。タレがダルダルにかかってる奴」

「……」


 でも、だから油断していいというわけではない。

 草むらのどこにモンスターが潜んでいるのか分からないのだ。


 闇雲に散策していたら、背後から攻撃を受けてしまう。

 いわゆるバックアタックは通常よりも大ダメージを受けてしまう確率が高い。


 先頭にいる私が、しっかりとカバーしないと。

 

「生姜焼きもいいよね。トンテキも。あと、それから……」

「……あの、気が散るんで黙っててもらえませんか」

「ごめん」


 私は目を閉じて、耳をすませた。

『感知』と呼ばれるモンスターの位置を探る方法だ。

 訓練すれば、かなり正確に敵の位置を割り出すことができる。


「…北に4、東に5。西に7」


 こっちに近づいてきてる。

 たぶん匂いで私たちのことをかぎつけてきたのだろう。


「歩幅が私たちとだいたい同じ。ということは人型。たぶん、ゴブリンかな」


 残り数メートルというところまで迫ってきている。


「ステラくん。どうしたの? 急に剣を抜いたりして」

「……」


 呼吸を整える。

 それから、ロディたちに指示を出した。


「そこで固まって、じっとしていてください」


 みんなを怪我させるわけにはいかない。

 ここは私が率先して前に出て。


 あと一メートルもない。

 鳴き声が聞こえてきた。


「ゲギャッ!」


 モンスターが顔を出した。

 緑色の表皮で、頭からは角が生えている。


 ゴブリン。有名なモンスターだ。

 このトサカ平原では出現率60%ほどで、もっとも遭遇しやすい。


「ゲギャゲギャッ!」


 すでに『感知』で位置は分かっていた。

 わざわざ顔を出すまで待っていたのは、間違えて人間の子供を切ったりしないようにだ。


「はあっ!」


 私はほとんど反射的に、ゴブリンを切り伏せた。


「なっ。ゴブリン? ゴブリンが倒れた!」


 ロディが慌てている。

 ゴブリンの死体が消えていき、アイテムが落ちる。


「ロディさん。ドロップアイテムを拾ってくれませんか」

「……あ、ああ」


 そう言えば、忘れていた。

 付与魔法『ラックアップ』をかけておこう。


 これは使用者の幸運をアップさせる魔法で、同時にアイテムのドロップ率をアップさせる。

 一回の使用で、1.5倍。約50%アップするので、ドロップ率がまったく違う。


 他の能力アップをかけてもいいけど。


 いや、やめておこうか。

 さっき戦ったのは、ゴブリンの中でも弱い方。

 おそらく、他のモンスターもたいした差はないはずだ。

 

 あと何匹だったか。

 なんでもいい。とにかく、顔を出した奴を切り捨てて行こう。





「……念のために、もう一度、感知」


 よし。全員を倒したようだ。

 これで、一安心。 


 剣をしまって、振り返った。


「みなさん。怪我はありませんか?」

 

 ロディ。ランド。ブラウン。三人とも私を見て、口をあんぐりと開いている。

 いったいどうしたんだろう。


「もう全部、君一人でいいんじゃないかな」


 ロディが言った。


「すごかったよ。いきなり、ゴブリンたちがバッタバッタと倒れていくんだ。正直、何が起きたかわからなかったが、あれは君がやったんだろう?」

「はい。そうですけど」

「やっぱりか。いやあ、どこの世界にもいるんだね。桁違いのレベルの人って」

「私はそんなんじゃ……」

「いいんだ。無理しなくても。今の身のこなしは明らかに、S以上の実力だった」


 これって、『聖なる牙』を追放されたときと同じ流れだ。

 私の馬鹿。学習能力がないのか。


「でもさ。はっきり言うと、僕たちは普通でいいんだ。平凡なクエストを受けて、平凡な暮らしができれば、それで満足なんだ。君みたいな高レベルな人とは、住む世界が違うんじゃないかな」


 ダメだ。泣きそうになってきた。

 仲間から冷たくされたときの感覚が蘇る……。


「お願いします。一日だけでも一緒にいませんか。頑張るんで」

「え~」

「お願いします」

「それじゃあ、ステラ先生にいろいろ教えてもらおうかな」

「はい。それでもいいので」


 切り替えだ。物事は切り替えが大切。

 今日は失敗しちゃったけど、明日はきっと……。


「……ん?」

 

 私は耳をすませた。

 今、変な音がしたな。地面が小刻みに揺れた。


 ドドドドドッ!


 何か巨大なものが動く音。


 ドッドッドッドッドッ!


 どんどん速くなっている。


 ドッ!

 

 私たちの手前で止まる。

 そして、草むらから姿を現した。


「……」

  

 その姿は絵本でよく見たりする。

 トカゲのような顔と、大きな翼を持った大型モンスター。


 そう、ドラゴンだ。

 

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