第105話 ゴーストボディ
私とキョウは、町にある酒場までやってきた。
「ほう。おまえ、魔族とやりあってるのか? ついに、来るところまで来たって感じだな」
キョウが私に耳打ちしてきた。
「この人、誰?」
「地図作成士のおじさん。私に仕事をくれる人」
「へえ。ステラって顔が広いんだね」
ダンジョンというのは、定期的にマップが更新される。
中には、雨後の筍のように生えてきたり、唐突に消滅したりなんてことも。
そのため、冒険者ギルドでも、その全てを把握することはできていない。
女神や会長でも無理だろう。というか、門外漢だと思う。
「餅は餅屋。蛇の道は蛇」
「ダンジョンの情報なら、地図作成士だと」
「その通り。実際、細かいことにも詳しいしね」
というわけなので、おじさんに聞いてみる。
「そのミスト博士ってのは、クリエイト能力持ちだな。魔族の中でも、希少な能力だと聞いたことがある」
頭に思い浮かべたものを形にできる。
魔法の起源と言われる能力か。
大昔に、古代人が、その能力で怪物を生み出した。
それが今で言うところのモンスター、魔物、魔族なんだとか。
「その能力でダンジョンを作ったってことですか?」
「おそらくな。実際は、そこまで便利なものでもないらしいが」
「場所は分かるんですか?」
「ミストメイズだったよな。情報は入ってるぜ」
実は、これが最初ではないそうだ。
過去に何度か『ミストメイズ』は出現しているのだと。
「マップもある。トラップは作らないタイプみたいだな」
まあ、博士がいじってる可能性もあるので、参考程度に。
「ありがとうございます」
「ああ。気を付けてな」
今度、地図作成の仕事を受けるとしよう。
☆
メンバーは変わらず。
レッド、ブラック、ピンクで。
「いいのかよ。ブルーやグリーンはいなくても」
「何度も言うけど、人数が多ければいいわけではないからね」
で、ミストメイズに着いたわけだが。
「これは……館か」
霧の濃い森の中。
そこには、洋館がひっそりと佇んでいる。
「うーむ」
寂れた洋館で雰囲気を出そうとしてるみたいだが。
まず、森の入口からここまでずいぶんと歩かされた。
「ぜひ挑戦してくれって言ってたけど」
わざわざ、こんな場所まで好き好んでくる奴はいない。
というより、探し出せる人も少ないんじゃ……。
「先客いるみたいだぜ」
「ほんと?」
「ああ。見ろよ」
本当だ。洋館の前に足跡が。
それも一つだけでなく、いくつも。
すでに何人もの挑戦者が出たり入ったりしてるってことか。
――バタバタ!
館の中からだ。物音と人の声が響いている。
「きゃあああっ!」
「あんなのムリだあっ!」
――ガタン!
扉が勢いよく開いて、人が飛び出てきた。
「……はあ……はあ」
戦士の男と治癒術師の女か。
ずいぶんと息が上がってる様子だが。
「何かあったの?」
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ」
「何? お湯?」
「幽霊――――っ!」
幽霊だって?
「ははははっ! まさかっ!」
「いやいや、マジなんだよ」
二人は両手を振り上げて大騒ぎしている。
しかし、私は以前に吸血鬼とも戦ってきたのだ。
今更、幽霊なんぞ出てきたところで。
「余裕だね!」
どのみち、ミストメイズは攻略しないとならない。
中に入ってみることにしよう。
「待って。もう一人、中にいるの。モカって娘で、職業は魔法剣士」
あまり見かけない職業だ。
それなら、一目見れば分かるはず。
「探してみるね」
「お願い。私たちはここで待ってる」
扉を開けてみるが、中には誰もいない。
「見間違いじゃねーのか?」
「そうかもね」
キョロキョロと周りを見渡してみる。
今、私たちが立ってるところは玄関口なのだが。
「特に怪しいところはないね」
もっと壁から槍がビュンビュン飛んできたりするものかと。
「そうかなあ」
キョウは玄関口をグルリと周り、横にある置物に目を留めた。
大男の石像が脇を挟むように、鎮座している。
「これとか、いかにも動き出しそうだよね。それに向こうの通路に並んでいる甲冑とか」
「……しー! ダメだよキョウさん。そう言うのは、気づいてても、言わないお約束」
目の前には、大きな扉がある。
おじさんにもらった地図を確認したところ。
この扉を開けてまっすぐ進めば、ゴールに辿り着くことができるようだ。
――ガチャガチャ!
当たり前だが、開かないか。
「ステラちゃん。見て」
「……ん? これは……」
怪しい装置が付いている。
「この端にある黄色いボタンを押せばいいのかな」
ブイン! 起動すると、音が鳴り響いた。
『パスワードを入力してください』
「ピンク。知ってる?」
「知るわけないよ」
「普通はダンジョンを探して、集めるものなんじゃない?」
まあ、そういうものか。
しかし……。
「この壁は薄い……」
ちょっと思ってしまったのだ。
これ『すり抜け』を使えば、通り抜けることができるんじゃないかと。
そうしたら、楽勝でクリアできてしまう。
ミスト博士って抜けてるところがあるし、意外といけそうな気がする。
レッドとブラックにやってもらおう。
「すり抜け!」「……ん……」
私たちの体が透明になっていく。
「さあて、サクッと進んじゃおうか」
私は壁の前まで行くと、
「……よいしょっと」
特に警戒することもなく、体を半分まで通した。
すると――。
プルルルルルルルルルルッ!
館全体にサイレンの音が響き渡った。
『ズルなのだ! そういうことやっちゃダメなのだ!』
え? いけないの?
『ズルをしたから、罰を与えるのだ……ポチっとな』
ブイン! 石像の目が赤く光った。
「ゴゴゴゴッ!」
ゴーレムのような鳴き声を出し、私たちに襲い掛かってきた。
「ステラちゃん。大変。石像が!」
「うわあ! 本当だあ!」
やっぱり動くのか。
しかし、同時に様子がおかしいと思った。
こいつらの体、なんか透けてるように見えるんだけど。
「炎月斬り!」
――スカッ!
レッドの攻撃が通っていない。
まるで『すり抜け』したときのように、彼女の体はすり抜けてしまった。
≪ゴーストボディ≫
難度 ★×8
属性 闇
使用回数 ∞
成功率 100%
説明 その体は、精神の塊である。ゆえに、あらゆる攻撃を無効化する。
「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊だああああっ!」
「ゴゴゴゴッ!」
鉄球を振り回し、地面に叩きつけてきた。
ガッシャーン!
向こうは私たちに攻撃できるのか。
精神体じゃなかったのか。
「どうやら、特殊な攻略を要するモンスターみたいだね」
「ズルい! ミスト博士はズルい!」
とりあえず、この場から退散しよう。
石像の倒し方は、パスワードを集めながら考える。




