第104話 サイドチェンジ
『右は短いが、困難が多い道。左は長いが、困難が少ない道』
普通は、片方の道しか選ぶことはできないが。
私たちは絆スキル『すり抜け』を使って、両方の道を進む。
「宝箱があるな」
本当だ。
道の先に、赤い箱。
しっかり閉まってるところから見て、まだ中身もありそうだ。
たしか、赤い箱は武器のことが多いんだったか。
「開けようぜ」
「ちょっ、前に出すぎ」
ボオオオオオウウ!
突然、横から炎が噴き出した。
「うおっ、危ねぇ」
かなり高温の炎だ。
レッドは間一髪で避けられたものの、けっこうスレスレ。
覗いてみると、何かいる。
オレンジ色の皮膚をしたトカゲだ。
「ありゃあ、なんだ」
「プチサラマンダーだね。火属性のトカゲ。その小型タイプ」
頬をぷっくりと膨らませた。
ヤバいな。また、吐き出すぞ。
壁に密着して、回避する。
ボオオオオオウッ!
「面倒なモンスターだな」
こいつは特殊な能力は持っていないが、まっすぐ火を噴き出す。
そうすることで、冒険者の進行を阻害しているのだ。
「ステラちゃん。前にも三つぐらい火の手が上がってる」
うむ。熱いのはイヤだ。
火傷、怖い。
「ブラック」
「……ん……」
我らがタンク、ブラックさんが参陣。
大きな盾を構えつつ、前に踏み出した、
ボオオオオオオウッ!
プチサラが火を噴き出した。
同時に、彼女は赤いオーラを纏った。
この状態では、炎状態を無効化できる。
「向こうから回り込んでくれる?」
「……ん……」
ブラックは通路をまっすぐ進んでいき、突き当りを右に曲がる。
数分ほど経過した。
「……おい。あれ」
魔物が私たちから、そっぽを向けた。
あさっての方向に火を噴いている。
「ブラックが挑発で向きを変えてくれたみたい」
よし。今の内だ。
「……終投刃!」
キョウのスキルで、魔物にナイフを命中させる。
背後から撃てば、敵を戦闘不能にできる。
ザクザクッ! 一匹、二匹と退治していく。
お宝まで近づいてきた。
「アンロック!」
――カチッ!
私の開錠スキルで、鍵を外した。
中身は……。
「……ふむ。斧か」
しかも、投げ斧。トマホークだ。
山賊なんかが、よく飛ばしてくれるから、うっとおしい武器。
「あたしが投げるぜ……よっと」
「……ん……」
投げて遊んでいるが。
使い手がいない。意味がない武器だぞ。
「いや、まだ奥が……」
すり抜けだ。
壁を通り抜けて、中に進むんだ。
「アンロック!」
――ガチャッ!
奥の箱には……石か。
「転移石か」
効果は消費することで、ダンジョンの外に一瞬で出られるというもの。
キョウが、石を取り上げた。
「そろそろ帰るとしよう」
「え? いいの? 全部、回ってないけど」
「攻略して欲しいのは、このダンジョンじゃないんだ」
「そうなの?」
「うん。転移石で、外に出よう」
☆
「会長。私に魔法を教えてください」
「はい?」
「パーティー戦術の幅を広げたくて」
「ふむふむ。向上心があって関心ですわ」
会長は、書斎を漁って本を取り出した。
「差し上げますわ」
「ありがとうございます」
ぺらぺら。本をめくっていく。
すると、ピンクの頭がポカポカしてきて……。
≪サイドチェンジ≫
難度 ★×6
属性 地
使用回数 15/15
成功率 100%
説明 味方の立ち位置を、入れ替えることができる。
「……え? あの……」
「絆パワーです」
「違います! 私は攻撃魔法を覚えたくて」
「そうだったのですか? パーティーの戦術レベルを引き上げたい。そう言うので、わたくしはてっきり……」
何かピンクと会長で、食い違いがあったらしい。
「あわあわ。魔法? 全体魔法? それなら、何がいいかしら。こっち。それとも、こっち」
「あわわわ。会長。そんなに渡されても」
バタバタしている。
まあ、二人に任せておけばいいか。
「ところで、キョウ。私に頼みたいことって、いったい何なの?」
「その件についてなんだけど……これを聞いて欲しい」
キョウは装置を取り出すと、ボタンを押した。
「とあるギルドに届けられたメッセージなんだけど」
すると、音が流れる。
『あーあー。テス! テス! マイクテス』
「こ、この声は……」
幼い女の子のような声色。
聞き覚えがある。
「知ってるの?」
「うん。前にちょっと戦ったことがあって」
音声はまだ続いている。
『ミストメイズ 本日、開園! このミスト博士の自信作! 冒険者はぜひ挑戦してみて欲しいのだ! 以上なのだ』
プツン! そこで音声は途切れた。
「え? どういうこと?」
何故、魔族がこんなメッセージを?
あいつら、悪い奴らじゃないの?
「魔王に認められた者だけが、『魔族』を名乗ることができる。彼らにとっては、悪名とは誇らしいことなんだ」
そう言えば、奴らはいつも自分の名前を声高に叫んでいる。
まだ三体しか会ってないが、みんな自信に満ち溢れていた。
「もう分かると思うんだけど、ボクと一緒にミストメイズに挑戦して欲しいんだ」
「……えっと……どうして?」
「ボクは博士を追っている。その魔族の手がかりを探しているんだ」
「難しいことなの?」
「うん。正体を見たものは誰もいない。少なくとも、ボクは会ったことない」
私もゴーレムの通信で、声を聞いただけだ。
本当の姿は、知る由もない。
ただの幼女なのかと思ってたけど。
実はカースメイカーよりも、危険人物だったのか。
「キョウさんにとって、大切なことなんだよね?」
アサシンは、コクリと頷いた。
「今は言えないけど」
「……よし」
それならやろう。
書物なんて関係なく、キョウさんのために。
さっそくダンジョンに行って、博士をとっちめてやる。
「どこにあるの?」
「あっ、ごめん。手がかり、これだけなんだけど」
「……え?」
ミスト博士。
メッセージを残しておいて、場所を言っていないぞ。




