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第48話  戦いの後の平穏

「フォード! 無事で良かったのです!」


 バザリーとの戦闘が終わり数十分後。森の屋敷へと意識を戻らせたフォードは、先に帰還していたリリカ王女らに出迎えられた。

 芳しい匂いと共に金髪をなびかせて、リリカ王女がフォードの胸に飛び込む。


「本当に、本当に良かったのです! フォード自身は心配ないと聞いていても、気がかりで……」


 フォードの胸板に顔を埋めるように、そう語るリリカ王女。

 傍らのルルカ王女も同様だ。

 その表情には、信頼はしていてもそれ以上に彼を案じていた様子がありありと感じられる。


「……俺の方は問題はない。ルルカ王女、リリカ王女……そちらこそ無事だったか?」


 今回の作戦は王女たちの方にこそ危険があった。大丈夫だと思っていても、やはり無事で、ほっと内心で思うフォード。


「ええ、大丈夫だったわ、何もかもフォードさんの思惑通り」

「それなら良かったが」


 バザリーへ奇襲するフォードとは別に、彼女らには人質の救出に《迷宮》へ出向いてもらった。

 その途中、傭兵の襲撃や自爆の攻撃などあって、フォードは顔には出さないが上手くいった形だ。


 身代わりの魔導具、『暴竜の業円環』は渡していたが、万が一のこともある。こうして無事に抱きしめられていることで、安心感を得られた。。

「……というかリリカ王女。いい加減その、離れてほしいのだが……」

「嫌なのです!」


 リリカ王女がしがみつきながら言う。

 彼女の、大変育った双丘と言うかそのボリュームある『それ』が、いつまでも押し付けられている。

 そう思うと、居心地が悪い。

 具体的には同じ部屋にいる親衛隊カルキノスの視線がや父親王イルサールの親心の混じった視線が大変心苦しい。


 ほのかに香るリリカ王女の甘い香り。流れる金髪と暖かな胸の感触は、金貨千枚の枕より価値があるのだが、それを差し引いてもちょっとこの後どうかるか心配。


〈ふふ、我が主よ、約得じゃな〉

「(約得と言えるか? まあある意味平和だが……)」


 フォードにしか視えない悪霊王エリゼーラの言葉に軽くぼやく。


 何はともあれ、無事に帰還出来た。その喜びをあらわにするリリカ王女に、フォードは優しく語っていく。


「ひとまず、無事に全て行ってよかった。敵が思ったより傲岸で助かったな。付け入る隙が多い令嬢は対処する側としては楽だった」

「そうなのですか? リリカたちはフォード達の方こそ危険がいっぱいで心配だったのです。こうして無事でいて本当に良かったのですよ」


 抱きつきながら、切実な心情を語るリリカ王女。

 確かに、今回は客観的に見てフォードが一番危険が高かっただろう。王女らは《憑依》の実態は知らない。それに知っていても精神攻撃やその他悪辣な手段を懸念していたに違いない。

 バザリーとは、ルザ一族とはそういう一族だ。何をしてくるか判らない相手を敵に、生還出来たフォードを王女が心配するのは当然だった。


「大丈夫だ、俺は誰にも負けないし、どこにも行かない。誓ったからな……王女たちに」

「うん」

「ええ……」


 リリカ王女とリリカ王女、言葉少ななに頷く。

 心配はしたが、無事でいて嬉しい――それが判る彼女らの安堵の表情。


「ともあれ、バザリーは無力化出来たこれでさらなる手駒は増えた」


 実際、バザリーは強敵ではあったが精神面で未熟な点、そしてルザの一族であるがゆえの高慢さもあって油断もあったのだろう。

 冷静さを欠いてからの彼女は手玉に取りやすかった。

 リリカの姉妹であり、彼の身を案じていたルルカ王女が、傍らに立ちフォードの手を握る。


「ええ、そうね。戦いは終わったわ、今日は祝宴ね」


 頃合いだと思ったのだろう、様子を伺っていたイルサール王も暖かく声をかける。


「さて積もる話はあると思うけれど、今日はもうゆっくりするといいフォードくん。今日はご苦労だったね。ルルカも、リリカも。久々に迷宮深く進み、疲れただろう? ――皆、強敵相手の戦いだった。今日はもう休みたまえ」

「うん! そうするのです父上!」

「ええ、わたしも今日はゆっくりするわ」


 王女たちが揃って笑顔になる。親衛隊もやれやれと表情を和らげた。


「あ、そうだフォード! この後一緒にお風呂はどうです? リリカが背中を洗ってあげるのですよ!」


 リリカ王女のその一言で場が凍りついた。


「いやリリカ王女。その……気遣いは嬉しいが、あまり笑えないのだが」

「そうなのです? 大丈夫、大丈夫、割と本気なのです」

「いや余計にたちが悪いな……。平気だ、俺は一人で風呂に入れる」

「そんなこと言わずに。あ、水着着るのです。たまにはフォードと一緒に汗を流したいのです。ねー、お願い」

「いや、その……そのだま。――ルルカ王女、なんとかしてくれ。あなたの姉妹が爛々と目を輝かせて困るのだが……」


 けれどルルカ王女も何やらほほえみ顔。


「ふふ、それじゃあわたしも一緒に入ろうかしら? フォードさんを労う意味でもお背中洗ってあげるわ」

「おい、待て。冗談でもそれはやめてくれ」

「フォードくんはもてもてだね。いやー、父親として誇らしいね」


 目が笑っていないイルサール王。

 王女たちが笑った。ロブやネイラも。

 カルキノスだけはやや本気じみた眼光も見せていたが。

 それでも、こうして無事に皆の顔が見れたのは、フォードとしては本望だと思えたのだった。



お読み頂き、ありがとうございます。


次回の更新は2月1日、20時頃を予定しております。

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