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第17話  支配する者、される者

 フォードが探索者となってから3ヶ月余り。

 その日、彼は悪霊王エリゼーラと共に森へと足を踏みれていた。


 鬱蒼と茂った木々が、眼前へと広がる。

 流れるのは清涼な空気、踏みしめるは若々しい草木の枝、柔らかな土。


〈ふむ、妖精どもが住み着きそうな森林じゃな〉

「まあな、実際は迷宮に挑む探索者だらけだ。情緒もへったくれもないが」


 フォードは『リベラの森』という森林に立ち入っていた。

 この森の中にある第五迷宮《岩窟》で救難を魔術で送ったパーティがいたためである。初心者の一団が勇みすぎて奥へと進出、しかし魔物の大軍に囲まれ、救難の魔術を使った――。

 その救援のため、フォードたちは森を進んでいた。

 

 一口に《迷宮》と言っても様々な種類が存在している。

 灼熱の炎に覆われた第一迷宮《紅蓮》。

 絶対零度にさらされる第二迷宮《氷河》。

 茫漠な海が広がる第六迷宮《水殿》。 

 万物が入れ替わり立ち変わる第七迷宮《流転》。 

 無限の砂が立ちはだかる第八迷宮《砂楼閣》。

 死と絶望を振りまく屍のはびこる第九迷宮《冥府》。

 ――いずれも難攻、入れば命すら危うい難所だ。


 しかし第五迷宮《岩窟》は、その名の通り迷宮の中では普遍的な洞窟だった。ただの岩の道ばかりが続くこの洞窟は、初心者の探索にはうってつけの迷宮。

 ただ、その迷宮で無理をしたパーティがいたらしかった。


〈ほう、我らの他にも救援に向かう者どもがいると見える〉


 エリゼーラの興味深げな声に、フォードが応える。


「ああ、救難を送ったのは金持ちのパーティらしいからな。まあ貴族の坊やが無茶をしたのだろう」

 

 そのおかげで魔物に囲まれては世話ないが。


 森の中、フォードとエリゼーラの眼前には幾多の人々がいた。

 長剣を携えた戦士、短槍を担ぐ青年、戦斧を下げた老人、杖持つ少女、重い鎧を着る大男――全て、『探索者』である。

 いずれも第五迷宮《岩窟》へ救援へ向かう『掃除屋スイーパー』だろう。あるいはたった今探索を終えた者達もいるかもしれない。

 鬱蒼と茂った木々の合間に無骨な鎧や壮麗なローブが見え隠れする。


 精悍な壮年から明らかに初心者ルーキーと判る若者まで。武装も名剣からなまくらまで様々。

 多種多様な『修羅に身を置く者』たちの圧巻なる光景。

 

〈いつもながら壮観な眺めよな。強者、弱者、曲者。様々な人間がおる〉


 走りながら、エリゼーラとの会話にフォードは淡々と答える。


「ああ、第五迷宮《岩窟》は比較的易しい迷宮だからな。ベテランからルーキーまで訪れる人は様々。おまけに、探索者相手に商売をする商人や踊り子、地図師や武具屋もある。これほど壮麗な光景となるのは当然だ」


 《迷宮》からは基本的に、魔物は出てこない。

 この理由は専門家の間でも諸説あり、迷宮の奥にある宝を守るため、外界に興味がないため、気候が合わないため、魔物自体が迷宮の構成因子の一つのため等――。

 数千年間、未だ定説は生まれていない。

 学者達には大いなる探求の元だが、いずれにせよ、安全な迷宮の付近では、探索者を相手に商売する人間で溢れかえっていた。


「《迷宮》は一つの入り口だけではない。初心者に最適な経路から、一流でなければ即死する危険な経路。この周囲では、じつに二十五種類ものルートが存在している。俺たちが向かうのは第15入口。どれも三百層は下らない大迷宮――その15番目に見つかった洞窟だ。……そのため、各種品物を取り揃える人間も絶えないのはいつもどおりだな」


 《迷宮》とは、古代の謎の潜む大いなる神秘。人類の欲望や羨望が集まる魔窟だ。

 命がけで挑む彼らのため、商売人は今日も集う。

 人類の過去を掘り返す者、彼らの武装と日常を支える者。様々な人種で《迷宮》ははびこっている。

 

「さて、おしゃべりはこの辺だ。そろそろ目的の場所に着く頃――」

 

 そんな矢先だった。

 森の外れに向かうフォードの耳に、小さな悲鳴が聞こえてきたのは。


「……エリゼーラ、今の聴こえたか?」

〈ふむ、女の悲鳴だな。数は一……いや二か〉


 フォードは方向を転換し、悲鳴の元へと駆ける。

 他にも掃除屋スイーパーの探索者はいる。フォードが別行動を取っても問題はないだろう。


 《迷宮》は基本的に人が立ち入らなければ危険はないが、稀にだが魔物が外に出てしまう事もある。

 はぐれ魔物と呼ばれるものだ。さほど多くはないが、万一出現したら大変な被害が出る。

 ある意味、迷宮で人が襲われるより厄介だ。

 過去にはオーク数体が村に紛れ込み虐殺が起きた『ポエラ村壊滅事変』、ハーピーの群れ三十匹が海賊を壊滅させた『南西海の事変』、一国の王女がさらわれた『レフィーナ王女誘拐事変』など。


 近隣の街や村、上級の魔物ならば複数の里が襲われる可能性もあった。


 それは好ましくない――フォードは冥王臓剣を鞘から抜き放ち、草木の間を駆け続けた。

 森の雑草を切り払い、一目散に進む。悲鳴のもとへと急ぐ。


「――きゃああぁぁ!」


 また聴こえた。大きな茂みをフォードはが抜けると、木々に囲まれた広場に出て――。

 

「いやっ、来ないでください、退いて!」

「ひゃははっ! 逃がすな! 逃がすなぁ! 何としても捕まえろ!」


 女性の乗った馬車が、荒くれどもに追いかけられているのを視認する。


 追手の男はいずれも武装している。

 人数は二十以上、全員が弓を持ち、馬を駆り、罵声を上げて矢を射掛けている。

 馬車の方は幌がついているのだが所々壊れていた。男たちの矢で破壊されたのだろう。その隙間から綺麗な女の金髪が見え隠れしていた。


 ――野盗!

 フォードの内側に、憎悪と怒りが噴き出す。

 他人の財産を奪い、命を奪い、平然と日常を脅かす悪辣なる者。


「ひゃはははっ! 回り込め! 仕留めろ!」


 男たちは馬車の護衛――馬を操る戦士たちへ矢の雨を降らす。

 馬車の護衛たちは懸命に振り払うが、矢の数は膨大過ぎる。たちまち一人射られ、二人射られ、その数を減らしていく。


「ひゃははははっ!」「ざまあみろや!」「それ、追い詰めろ!」


 追手の男らから歓声が上がる。口笛が盛んに吹かれる。


 壮麗な幌つきの馬車の車輪に矢が当たった。魔術の矢だ。強烈な一撃の矢は車輪を砕き、体勢が崩れ、馬車が横転する。

 下卑た笑いを浮かべ、男たちが馬車に近寄っていく。幌の窓から綺麗な金髪が見えた。怯えた女性の顔。野盗どもはにやにや笑って、馬車の幌に手をかける。


 それを見たフォードの眼に、憎悪の闇が宿った。

 ――倒す!

 ――他人を不幸に陥れる者は容赦しない。絶対に助ける。

 フォードは冥王臓剣を構えると、渾身の力を込め、投擲した。


「なっ!?」

「ぎゃあああっ!?」


 いきなりの奇襲に野盗たちは混乱する。青天の霹靂。野盗の一人を貫いた冥王臓剣は、瞬く間に別の野盗をも貫き、切断し、血の雨を降らせる。

 さらにフォードは冥王臓剣を引き寄せ、第二撃、三撃と繰り返していく。


「敵襲だ! 敵襲だ!」「野郎っ、矢を放て!」


 しかし対応が遅い。馬車を襲い獣欲にまみれた野盗たちは傍目にも動きが悪かった。

 矢が放たれるも散発的、フォードは冥王臓剣を振り回し、片っ端から迎撃する。


 暗黒に煌めき、邪気をまとう魔剣は、その瘴気だけで矢をどろどろに溶かしていく。

 かすっただけで矢はボロクズと果て、地面に落ちる。

 妖気が空間ごど黒く染め上げ、瘴気が周囲の木を、地面を溶かしていく。

 野盗たちがフォードを強敵と踏んだのだろう、確固に木々の中へ散開、そこから矢を連射する。


「甘すぎる、軌道も練度もまだまだだ、そんなもので俺は倒せない」


 フォードは投げた冥王臓剣を振ると、思いっきり右へ薙ぎ払った。

 暗黒色の刃が、立ち並ぶ木々ごと野盗たちを斬り捨てる。


「ぐあああ!?」「な、馬鹿な!」

「かわせ、ぐっ」


 次々と、地面に倒れ伏す野盗たち。

 散開していた残りの野盗たちが青ざめた。その顔にありありとした恐怖が芽生える。


「なんだ今の剣は……」

「人を、紙切れみたいに……」


 野盗どもが怯え、恐怖を穿つように、矢を放ってくる。

 フォードは左手のリバースソード改を、思いっきり地面に叩きつけた。


 吹き上がる土砂の壁が、全ての矢をを吹き飛ばす。衝撃に耐えきれずリバースソード改の刃が砕け散る。その隙に野盗が突っ込んでくるが、しかしそれは計算のうち。

 リバースソード改の残骸がたちまち修復され、刃が復活すると、フォードは飛び掛かった。野盗たちへ次々斬撃をお見舞いする。


「うああああ!?」

「馬鹿な!?」

「くそ、距離を取れっ」

「手強い! 狩られるぞ!」


 名にし負う名剣にも匹敵するリバースソード改の銀刃が、野盗たちを斬り刻む。

 リバースソード改で近寄る野盗を迎撃し、離れた野盗を冥王臓剣の投擲で仕留める。


 流星のごとく迫る魔剣と、破壊しても再生する名剣。

 二つの脅威の剣に、野盗たちは為す術なくその数を減らしていった。

 だが森の奥で控えていた首領リーダーらしき男が、にやりと笑った。


「なかなかやるじゃねえか! 俺が仕留めてやるよぉ!」


 赤髪をゆらりとさせ、その手には細く美しい装飾剣。馬の背から跳躍し、首領はなんとフォードへと斬りかかってきた。


「げははははははっ! 死ねやぁ――――――っ!」


 その声に、フォードは瞠目した。

 その笑い。

 その赤髪。

 それは、信じられない光景だった。

 認識したとしても、認めたくはなかった。


 それでも視界に入ってくるその顔。

 それは、その男の正体は、まさか――『ルザ』!



 ――かつて、同じギルドで切磋琢磨し、養成所で最後に会話した粗野な男。

 宝物庫に忍び込み、金銀財宝を盗もうと誘った張本人。

 フォードにとって(この時点ではおそらく、冤罪で嵌めた首謀者と目している)――悪辣なる男。


 それが、野盗に成り果て、刃を振り、襲い掛かってきた。


「馬鹿な……っ」


 フォードはあまりの事態に反応が遅れた。冥王臓剣を弾かれ、あわや斬撃を胴にもらいそうになるところを、リバースソード改で凌ぐ。

 だがルザの装飾剣はなかなかの業物のようだった。リバースソード改が腹に斬撃を受けると一発で砕け散り、返す力で振り下ろされたルザの一撃をフォードは背後へ跳躍してかわす。

 ルザが狂気を帯びた瞳で突っ込み、束の間、フォードははルザと斬り結ぶ。


「よく生きていたなぁ! フォード! 会えて嬉しいぜ!」

「ルザっ! なぜお前が!? 野盗など、どういうつもりだ!」

「決まってんじゃねえか! 暇つぶしだよ暇つぶしぃ! 綺麗な女がいるって聞いたからよぉ! 俺のモノにするため襲ったんだよぉぉ!」

「――ゲスが!」


 あまりの身勝手な言葉に束の間フォードの体が硬直する。その隙、ほんの僅かな空白を縫うようにルザが三段突きを放つ。

 フォードの頬、首が浅く裂かれ、肩にも刃が走り抜ける。


「世迷い言を! お前は正気なのか!」

「正気も正気、いたって正気だよぉ! 俺はな、目の前にある全ての財を頂く! 女も、武具も、宝もっ! 全ては俺の支配下だ! げはははははハハハ――っ!」


 外道も外道。ルザは正式な探索者となった後、更なる悪道へ落ちぶれていた。おそらくはギルド幹部である親の金を糧に、傭兵を雇い、好き勝手に暴れているのだろう。

 野盗をしながら、富みを、宝を、罪もない女性を我が物にしていた。


 その事実に、フォードの中に、かつてないほどの怒りが湧く。

 探索者の挟持を忘れ、堕落した愚か者。

 己の欲に溺れ、極悪に染まった悪魔。

 ――許せない。フォードの冥王臓剣を叩きつける腕に、力がこもる。


「その様子だと、俺を監獄送りにしたのもお前のようだな」

「その通りだ! お前が目障りだったからなぁ、素敵な豚箱に招待してやったぜ!」

「それはどうもありがとう。――罪もない人々を陥れ、享楽に走り、下劣に笑うその姿――許せない。お前の外道には飽き飽きだ。――ルザ、お前は永眠していろ!」

「やれるもんならやってみろやぁぁああああああっ!」


 フォードがルザの装飾剣を弾きつつ突貫する。

 フォードにとって、《探索者》は夢そのものだった。

 妹に託され、腕を磨き、知性を磨き、得られた力はただ探索するためのもの。

 金銀、宝石、まだ見ぬ伝説の武具、そういった未知への探求と妹への誓いのため、必死に練磨してきた。


 レミリアのことや冤罪事件もあったが、フォードにとって探索者は自分の生きる道だ。

 その夢を、メリルとの思い出すらも穢されたように感じ、フォードは怒りに打ち震える。


「お前のような者がいるから世は腐っている。死んで詫びるがいい、ルザ!」

「ヒャハハハッ! なに必死になってんだフォードォ!」


 フォードの眉間狙う刺突と袈裟懸けと下段払いを弾いたルザは笑う。


「俺はギルドの幹部の息子だぜ? 俺に敵うわけねーだろ! ギルド幹部は支配を司るもの! それは世界を管理する者に等しい! 財も、富も、女も! 全てが俺の支配下! げはははっ! 俺にはさぁ、世界の全てを好きにする権利があるんだよ!」

「下らん戯言を……っ!」


 ルザの持っていた装飾剣が、横薙ぎに振るわれる。フォードはリバースソード改で受けるも、刃が砕け散る。再生する。さらに破壊される。

 ルザのまとう灰色の篭手が、真っ赤に灼熱し轟炎を放った。フォードが冥王臓剣で火炎ごと斬り裂く。


「そんな屁理屈、通るはず無いだろう! お前は相も変わらずは馬鹿だ!」

「てめえこそ馬鹿だろう? こんな大陸でまた探索者なんぞに! それに、俺様は超越者っ! 神、神、神! 偉大な神なんだよおおおぉぉぉ! 現人神である俺に、逆らうフォードこそいけない奴だよなぁ!?」


 ルザの斬撃が激しくなる。

 その相貌が、人間というより悪魔じみた凶相へと変貌する。


「そんな愚か者はさぁ、俺が始末しねえとなあぁぁぁっっ!」

「ちっ……装備の差か!」


 リバースソード改が即座に形状を再生させるも、また砕かれる。

 ルザの剣技はお世辞にも上手いとは言い難いが、武器が強い。


 冥王臓剣やリバースソード改と斬り結べるだけでも相当な業物と言える。一流の探索者やギルド騎士団、その上級位にいる者が持つような名剣だ。

 翼ある聖獣に家紋が入ったその装飾剣は、おそらく宝剣級。

 世界で数本としかない至高の剣。おそらくギルド幹部の父親のツテで得た物に違いない。


 フォードは冥王臓剣で地面を打ち付けると、盛大に視界を土で埋め尽くした。

 そして、一つの決断に至る。


 ――ルザを操る事に躊躇いはない。

 なぜなら彼はフォードを嵌めた者。一時は同じ学び舎で過ごしたとは言え、今は明確な敵同士だ。

 《探索者》は人々に希望をもたらす存在でなければならない。

 それを破ったルザは、もはや人間としてカウントすべきではないとフォードは定義付けた。


 土砂がまるで巨大な柱のように立ち上る。

 ルザの視界全てがゼロになる。


 その隙にフォードは《憑依》を発動。

 ルザの暴挙を止めるべく、『煙』となり――ルザへと――【憑依】した。

 

【ルザ 十八歳  エレイス家の長男 レベル29

 クラス:バスタードソードウォリアー

 状態異常:高揚(装備のおかげで攻撃力に上昇補正1・2倍、混乱などの状態異常を軽減)

 称号:『絆を裏切りし者』(他者を裏切った場合、能力が1・3倍に上昇)

    『破滅をもたらす者』 (人々の絶望や苦悩を味わった時、新たな魔術を会得することがある)

 体力:高  魔力:中  頑強:高

 腕力:高  俊敏:中  知性:中 

 特技:『大剣技Lv8』 『剣術Lv6』 

 スキル:『裏切りの紋章』(裏切った相手に対して攻撃力が1・4倍)

『豪運の覇者』(悪運が強い。死をもたらす攻撃を高確率で生き延びる)

 魔術:『土魔術Lv4』 『炎魔術Lv3』 『闇魔術Lv8』

 装備:『樹炎大剣ヴェレストス』

    『怨嗟黒鞭ザストラウィップ』

    『ダースペガサスアーマー』

    『アッシュゴーレムの篭手』

    『デッドリープラントブーツ』】

 


「――フ、ハハハハハハハッ! 乗っ取った! 乗っ取ったぞ、ルザを!」


 圧倒的な力が体に宿る。それは、ルザがその身に宿した合法、非合法問わず付与させた秘薬や魔道具の数々のおかげか。

 ルザに憑依しフォードは、その能力と意思、全てを支配し、彼はけたたましく吠える。

 斬撃一閃――周囲のルザの手下たちを装飾剣で一掃、爆音と破砕音と共に吹き飛ばす。


「ぐ、あああああ!?」

「何だ、一体なにが起こった!?」

「やめてください、ルザさん!」


 手下の何人かが瞠目し困惑の声を発して後退する。

 他の者たちも戸惑い、あるいは愕然とし、またある者は眼前の光景から動けない。


「この時を待っていた! 散々俺を虐げたその罪、自らの体で贖い、仲間の死と共に後悔しろ!」


 ルザの声を用いたま、フォード(ルザ)は特攻する。

 危機を察したルザの仲間の斧使いが、咄嗟に戦斧を振るうが遅い。フォード(ルザ)の装飾剣で戦斧ごと真っ二つにし彼を吹き飛ばす。

 さらに、ルザの持つ装備の効果を発動――アッシュゴーレムの篭手より大量の灰が散布され、周囲の敵たちの命を削っていく。


「ぐがああ!?」

「なんだ、これは……っ!」

「ルザさん、やめてくださいっ、仲間を討つなんて……!」


 ルザは最低の人間だが強さと装備はかなりのもの。

 特に装備品は親の金に頼り、一流品を揃えたため、これまで乗っ取った者たちを遥かに上回る。

 装飾剣である樹炎大剣ヴェレストス、黒と巨大な翼が彩られたダースペガサスアーマー、漆黒の大樹に鎖をあしらったデッドリープラントブーツ、そして頑強さなら並の篭手数倍以上の『アッシュゴーレムの篭手』。

 大枚を叩いても普通なら手に入れられない希少品ばかり。


 フォード(ルザ)が樹炎大剣ヴェレストスを地面に打ち付けると、膨大な衝撃波を撒き散る。

 その隙にブラックペガサスアーマーの特殊能力を発動――漆黒の翼が広々と生え、手近の弓使い独りを殴り飛ばす。

 さらにその背後にいたブーメラン使いも樹炎大剣ヴェレストスで容易く薙ぎ払う。

 追撃に、アッシュゴーレムの篭手の灰の発動、発動。翻す血飛沫、弾け飛ぶルザの仲間の声、声、声、声、悲鳴の数々。


「うああああっ、そんな……っ!?」

「やめてくださいルザさんっ! 仲間を、仲間を、何故……!?」

「くそおおお どうしてだ!? 魅了にでも掛かっているのか……!?」


 困惑する彼らを尻目にフォード(ルザ)が咆哮し、樹炎大剣ヴェレストスをぶん投げる。獄炎が生まれる。立ち上がる火柱、猛火の嵐。敵の盾使いが一人腹を貫通され崩れ落ち、さらに真横の魔術師が吹き飛ばされる。

 追い打ちをかけるように、フォードはアッシュゴーレムの篭手で貫手――前方の弓使いを首ごと貫き弾き飛ばすと跳躍。

 超音速で跳びながらデッドリープラントブーツの能力を発動すると、怪しい光が辺りに迸り周囲の敵たちに、黒い『蔦』が巻き付きついた。その四肢と首が、死の蛇に締められたように絡め取られる。


「ぐあああああ!?」


 ゴキゴキベキッと、骨と装備が砕け、倒れる音。

 次々と崩れ落ち、数を減らすルザの手下を睥睨し、悲鳴を聞いたフォード(ルザ)が大笑する。


「ハハハハ! 凄まじい! 凄まじいな! どれほど悪辣な者だとしても! いかに手勢を集めたとしても! お前たちは滅びるしかない!」

「――くっ、凌げない仕方ない! 全員、ルザさんを止めるんだ! 何らかの方法で操られている!」


 ルザが狂乱を起こした事で、危機を察した彼の参謀格――前に養成所にもいた少年、『コルバ』が怒鳴り、仲間を決起させる。


「バルハは前衛に、コーガとべクリアは中衛、オルソーとモーガが俺のそばで援護しろ!」


 即席のリーダーは後方へと下がり味方の連携に従事。すぐに残った仲間数名がフォード(ルザ)を円形に包囲し、火炎魔術、氷結魔術、岩魔術、植物魔術、減退魔術――猛烈な魔術の雨を降り注がせる。

 だが当然の如くその程度の反撃はフォード(ルザ)に読まれていた。

 宙返り、側転、木々の間を蹴りかわすと、樹炎大剣ヴェレストスで斬りかかる。


「その程度で俺を止められると思っているのか?」


 風車のようにその場で大回転すると、それだけで二人の敵が豆腐のように寸断される。

 コルバが焦る。仲間が死物狂いで猛火、紫電、氷鞭の魔術を雨あられと乱発する。

 その光景、まるで魔術の大海嘯、とてもフォードは回避出来る密度ではない。


「無駄だ、お前たちが相手にしているのは、この世全てを操り支配する者。決して倒すことは叶わない」

  

 フォードは一端ルザの体を捨て、『煙』に戻ると――森の木の影にいたルザの別の配下――髭を生やした長身の青年へ取り憑いた。


【べクリア 二十一歳 傭兵 レベル21

 クラス:アックスウォリアー

 体力:中  魔力:低  頑強:中

 腕力:高  俊敏:低  知性:低

 特技:戦斧術 投擲斧 

 闘技:アックススコール

 装備:鋼のトマホーク×8 赤猛獣の鎧 オークの篭手】



「さあ! 蹂躙はまだまだこれからだ!」


 ――そして新たな体で殲滅の咆哮を上げる。

 フォードの反撃はまだまだ終わらない。



お読み頂き、ありがとうございます。


次回の更新は明日、17時頃を予定しております。


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