第10話 脱獄
《憑依》で奪った番兵、ロスゲスの体を用いて、フォードは牢獄を駆け抜けた。
右手に冥王臓剣、左手にロスゲスの長槍を携え進撃する。
「なんだ?」「ロスゲス! ロスゲス! おいっ!?」
「なにをして――うあああああっ」「なんだこいつ! おかしな剣を――ぐあっ!?」
立ち塞がる番兵は、一刀のもとに斬り捨てる。
魔剣、『冥王臓剣』は、素晴らしい切れ味だった。番兵が槍で持って突き掛かるが、その槍ごと斬り捨て、盾をかざそうものならその盾ごと両断する。
防御、受け流し、そんなものは冥王臓剣には通じない。
悪霊から授かりし魔剣は人智を超えた威力。幾多の番兵が床に倒れ、血の海に沈んでいく。
基本的にはその階層にいる番兵を斬り捨てて、フォード本体と入れ替わっての進撃する。
魔剣『冥王臓剣』やロスゲスの長槍で安全路を確保した後、フォード本体を下層への階段前まで運び、下層に降りたならロスゲスで存分に進撃、という流れ。
「乱心したか、ロスゲスっ!」
番兵の中でもひときわ巨躯の大男が、第六層への階段前で立ちはだかる。
「死してその罪を償うがいい! はああああああっ!」
一気呵成に戦斧で攻め掛かる巨漢だが、フォード(ロスゲス)が、冥王臓剣を一閃させると、戦斧が半ばから断ち切られた。
呆然とする巨漢の隙を突くようにして、フォード(ロスゲス)が超速の槍を叩き込む。
「ぐああああああっ!?」
巨体があっけなく吹き飛んだ。
壁に叩きつけられ、昏倒する巨漢を見てエリゼーラが笑う。
〈ハハハハハハっ! 良いぞ! 良いぞ我が契約者よ! 素晴らしい進撃じゃッ!〉
「お褒めに預かり光栄だ。次は六層だな」
奇声を上げて踊りかかってきた番兵二人を、魔剣と長槍でなぎ払いながら進むフォード(ロスゲス)。
吹き矢で奇襲する番兵は長槍を投げて迎撃する。
倒した番兵の長槍を持ち上げ、さらなる進撃。
怒号が聞こえた。これまでで一番激しい怒気だ。
前方、紋様が彫られた長剣を持つ番兵の目がロスゲス(フォード)を射抜く。
[――[愚か者に天罰を。我に雷霆の力を。我は願う。天帝の一撃を!]――『シュラークヴォルト』!]
「おっと、《魔術》の祝詞か」
瞬間、番兵の長剣から凄まじい雷撃が、通路を焼き焦がした。
とっさにロスゲス(フォード)は横に飛んだが、長槍に当たり粉々に砕けて四散する。
激しい《雷撃》の魔術だ。直撃すればフォード(ロスゲス)の命すら危うい。
「雷か。なかなか強い――、っ!」
体勢を崩したロスゲス(フォード)を囲い込むように、五人の番兵が現れ殺到する。
ロスゲス(フォード)は冥王臓剣で撫で斬りにするが長剣の番兵から再び祝詞。
「――[愚者よ死せよ。浅ましき者へ洗礼を。滅びの雷に焼かれよ!]――『ヴォルトサークル』!]
ロスゲス(フォード)の頭上に光の円環が生じ、二度、三度、四度、ロスゲス(フォード)を付け狙うように放たれる。
必死でロスゲス(フォード)はかわすも、その度に雷撃がかすり、体に激痛や痺れが走る。
「ぬっ――」
さらに、増援と思しき番兵が四人突っ込んきた。
二人は冥王臓剣で斬ったが、残り二人にはかわされた。ロスゲス(フォード)の剣閃を避けると同時、短剣を投げ、ロスゲス(フォード)の胸へ深く突き刺してくる。
「ぐうっ」
長槍を投げ一人を片付けるも、再びの、雷撃。
[――[愚か者に天罰を。我に雷霆の力を。我は願う。天帝の一撃を]――『ヴォルトシュラーク』!]
「ぐっ、ううううっ!」
ついに雷撃がロスゲス(フォード)を捉えた。全身を焼き焦がすような電撃と壮絶な痺れ。
それでもロスゲス(フォード)は剣を杖に立ち、進撃を試みようとするも、全身が動かない。皮膚は焼けただれ、呼吸はろくにできず、ロスゲス(フォード)の口からおびただしい血がこぼれた。
「当たったぞ! 仕留めろ!」「野郎、ぶっ殺してやる!」
番兵たちが取り囲んでくる。フォードは悪霊王に、ささやいた。
「げほっ、ロスゲスの体は、もう持ちそうにないな」
〈ならば、捨てれば良かろう。代わりはいくらでもある〉
フォードはロスゲスを諦め、『煙』の状態になった。
満身創痍のロスゲスが再び雷に打たれる直前、すぐそばにいた短剣使いに取り憑く。
その短剣使いの体を――『乗っ取る』。
【ベルド 二十三歳
腕力:低い 俊敏:中 知性:低
特技:短剣術 投擲術
装備:鋼のダガー
拘束の麻縄
鎖帷子
レザーブーツ】
おぼろげだが、ロスゲスの時のように、憑依先の情報が頭に流れ込んでくる。
短剣使いベルドの特技は、短剣と投擲だ。フォードは、ロスゲスを倒し油断している近くの番兵へ突っ込み、短剣を一閃。
「なに!?」
まさか仲間が襲ってくると夢にも思わなかったのだろう。棍棒を使っていたその番兵は、何がなんだか解らぬまま、フォード(ベルド)に短剣を刺され倒れ伏す。
「何をしている!」「狂ったか!」
「武器を降ろせ! ロスゲスは倒したんだぞ!」
よもやロスゲスの中に、別の人物が憑いていた等とは夢にも思うまい。
フォード(ベルド)は当惑する番兵を相手に、次々と短剣を振るっていく。
まさかの同士討ちに倒れていく番兵。
動揺が困惑を生み、まるで案山子のようだ。容易く倒す。
一人逃げようとしたが、短剣を投擲し仕留めた。
予備の短剣を構え、残る強敵、雷撃使いの番兵へと、フォード(ベルド)が振り向く。
[ぐっ、――[愚者よ死せよ。浅ましき者へ洗礼を。滅びの雷に焼かれ――]
「遅いな!」
フォード(ベルド)の投げ放った短剣が、雷使いの腕に刺さる。
魔導具たる長剣を取り落とした。これで魔術は使えない。仕留める。最後に残った短剣をフォード(ベルド)が構える。
だが、雷使い以外にも番兵がいたのだろう。真横から、フォード(ベルド)は攻撃を受けた。吹き矢による攻撃だ。フォード(ベルド)の右腕に細い針が刺さった。
体がうまく動かない。毒が塗られているのだ。それも即効性だ。体の感覚が徐々に薄くなり、持っていた短剣を取り落とす。
「く――毒とは」
雷使いの番兵が、長剣を拾い上げ、睨みつけてくる。
「はあ、はあ、よくもやってくれたな。ベルド、貴様どういうつもり――」
だが、たとえ体が毒に侵されようと、フォードには無意味だ。
ベルドの体が使えないと判断したフォードは、彼の体を捨て、再び『煙』――《憑依体》になった。
完全に油断している雷使い――その体を、『乗っ取る』。
奪い取った雷使いの体は、なかなか強いようだった。
【ラッスラ 二十一歳
腕力:中 俊敏:低 知性:中
特技:長剣術 長槍術 短剣術
装備:サンダーブレイド
レザーアーマー
コボルトの皮ブーツ】
「ふふ――はははははっ!」
「な、なんだ!?」
吹き矢使いが、突然笑いだしたフォード(ラッスラ)に驚く。
番兵ラッスラはもうフォードの支配下だ。その長剣も、その武器に宿る力も、全て思うがまま。当然、散々苦しめられたその雷の魔術も、利用が可能となる。
「――[愚か者に天罰を。我に雷霆の力を。我は願う。天帝の一撃を]――『ヴォルトシュラーク』]
「なん――やめっ、ぐあああああああっ!」
《雷撃》の魔術をまともに受け、焼き焦げた体の吹き矢使いが倒れ伏す。
紫電まとう長剣、サンダーブレイドを、残る番兵にも振ってみせた。
仲間が乱心したという事実。ラッスラの武具の強さ。そういったものがフォードに危なげない勝利をもたらした。
全ての番兵が電撃に焼かれ、あるいは体を斬られ、地に付している。
フォード(ラッスラ)は残心のため、サンダーブレイドを軽く振り回した。
が、どうやらその長剣は、魔導具としては粗悪品だったようだ。
フォード(ラッスラ)が鞘に収めようとすると、バンッという音を立てて砕け散った。
「……数回限りの魔術しか使えない安物だったか」
〈ならばまた新しい剣を得れば良かろう。おぬしの前では強者も、障害も、無いも同然。名だたる名剣や、宝剣を、ぬしは容易に手にできるのじゃ〉
「正直盗人は好きではないが、この監獄には世話になった。お礼に宝の一つや二つは貰っていこう」
鞭打ちや過剰な拷問を忘れない。
フォードは、ラッスラの体を使い、宝物庫を襲撃することにした。
「――うわっ、何だ!?」
「しゅ、襲撃だっ!」「やめろ、俺は味方だ――ぐおっ」
見張り兵の体を乗っ取り、番兵を討ち、宝物庫を開けて中の宝剣や霊剣、金銀財宝、持てるだけの物を持って行った。
全てが終わり惨状を監獄長が知った時、すでにフォードはガルグイユ監獄から遠く、西方の街道へと逃げおおせていた。
【フォード 十七歳 探索者 ランク銅 レベル39
クラス:双剣使い
称号:『最愛の人を亡くした者』 『克己者』 『悪霊王の契約者』
体力:384 魔力:369 頑強:375
腕力:381 俊敏:397 知性:415
特技:双剣技Lv12
短剣術Lv9
投擲術Lv12
固有スキル:『悪霊王の憑依術』Lv1(対象の体を乗っ取る事が出来る。能力、記憶などを全て利用が可能)
装備:冥王臓剣(冥府の竜の骨から創り出された魔剣。伝説の剣の威力に匹敵し、竜、巨人その他あらゆる生物の体を斬り裂く事が出来る)
(また、魔力を注ぎ込む事により、最大で周囲50キロの生物の命を奪い、自分のものとする事も可能。
囚人服
旅のマント
持ち物:金貨十八枚 銀貨四十八枚 銅貨百十六枚 氷剣フロイラス 霊剣レックナーハ ベルーダナイフ 斬剣竜の血液 マダラオオグモの霊糸など】
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次回の更新は明日、17時頃を予定しております。
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