CAR LOVE LETTER 「Sunny day cruise」
車と人が織り成すストーリー。車は工業製品だけれども、ただの機械ではない。
貴方も、そんな感覚を持ったことはありませんか?
そんな感覚を「CAR LOVE LETTER」と呼び、短編で綴りたいと思います。
<Theme:NISSAN SUNNY(N15)>
やっと念願の免許が取れた!
毎日二時間乗車して、土日も学科を受けまくって、ギリギリ何とか夏休みに間にあった。
これで今年は海へ山へ、行動範囲が一気に広がった。
彼女に報告メールを打つ。速攻でおめでとうレスが届き、夏休みに海行こうよ!と書かれていた。
彼女とは付き合い始めてまだ半年。デートでは、最近やっと手を繋ぐ様になった程度。
それが車で海行こうなんて・・・何だか色んな想像をしてしまう。
俺は親父に頼みこみ、車を借りる約束を取りつけた。
うちの車は、もう10何年も前からある、ボロいサニーだ。
道具は壊れるまで使うがモットーの親父。車もご他聞に漏れずだ。
古いしダサくて仕方がないが、高校生の身分では、こんな車でもあるだけましだ。
俺は外見ではなく、車があるという現実を重視することにした。
彼女と遊びに行く日取りを決め、何時に迎えに行って、どこの海水浴場に行って、じゃああたしお弁当作るねなんて話をして、気付いたらもう夜中の1時を回っていた。
海に行く事を考えていたら、結局そのまま眠れなくなり、俺は完徹で終業式に出る羽目になってしまった。
海へ行く当日、天気はかなりの曇り空だった。雨が降らなければいいんだけど・・・。
教習所の卒業の時もらった若葉マークをサニーのトランクに貼ってみたが、あまりにもかっこ悪いので、すぐに剥がした。
その日俺はちょっと寝坊してしまったので、急いで彼女の家に向かう。
初めて一般道をサニーで走る。教習車とは感覚が全然違う。
俺、ちょっとびびってるのかな。いやいや、平気平気。
と思っていると、曲がらなければならない交差点を通り過ぎてしまう。
いっけね!とブレーキを踏んだ途端、後ろから目一杯クラクションを鳴らされる。
やっべ、どうしたらいいんだろう。落ち着け、俺!
かなりぐるりと遠回りしつつも、何とか彼女の家にたどり着いた。
約束の時間からはもう一時間近く経ってしまった。
彼女は水着の入ったトートバッグとお弁当の入ったバスケットを抱えてサニーに乗り込んできた。
「大丈夫だった?心配したんだよ!」という彼女の言葉に「ん・・・ちょっと、道混んでてさ。」と俺は適当に取り繕う。
彼女を乗せて海へ向かう。何となくまた雲行きが怪しくなってきた。
海へ向かうには、交通量の多い国道を通らなくてはならない。
しかも今日は週末も重なり、かなり車通りも激しい状況だ。
彼女が昨日の歌番組の話とか、お笑いのあの人が芸能人の誰と付き合ってるとか、いろいろ話して来ているが、俺はほとんど聞いちゃいない。
この国道のめまぐるしく変わる状況について行くのがやっと。会話なんて出来たもんじゃない。
「どーしたの?つまんないの?」と彼女は聞いて来るが、いや、そういう訳じゃないんだ。
国道を一時間も走った頃、何と雨粒がフロントウィンドウを濡らし始めた。マジかよーっ!
彼女も同じく、えーっ!と叫ぶ。
なんだよまいったなぁ。夜までの予定が総崩れじゃないか。
とりあえず海水浴場まで向かってみるが、雨脚は強くなる一方。
彼女の方から「もういいよ、違う所行こう。」と切り出してきた。
いろいろプランニングしてきてたんだが、こうなっては仕方がない。
映画にしようか。確か話題作がやっているはずた。
俺は映画館のあるショッピングモールに向かった。そこなら、映画の後もウィンドウショッピングとかで楽しめるはずた。
しかし難関が待ち受けていた。それは、車庫入れ。
休日の大型ショッピングモールの駐車場、しかも俺にとって生涯初の校外での車庫入れだ。
予想にたがわず、屋内駐車場は満車の表示。
出来れば車の少ない臨時駐車場に入れたいが、雨も降っているし、第一車庫入れに自信が無いだなんて、彼女にはかっこ悪くて言えやしない!
当然屋内駐車場だ。
ぐるぐると場内を周り、やっと空きを見つけた。隣の車との隙間が物凄く狭く感じる。
そろそろとバックする。ヤバイ、どれくらい寄っているのか全然わからない。
彼女に降りて見てもらいたいんだが、もちろんかっこ悪いのでそんな事は言えない。
もう一度トライしよう。車を前に出し、再度のろのろと下がると、がしょん!と言う音が軽い衝撃を伴って聞こえてきた。
まさか・・・。少しの間思考がフリーズした。不安そうな表情の彼女。
やってしまった。隣の車のバンパーの角に、しっかりとサニーのバンパーが食い込んでいる。
やっべー!!
どうしたらいいのか、もう完全にテンパっている。
そこへ上手い具合に隣の車のオーナーが現れる。
「こら!お前何やってんだ!!」
物凄い剣幕で怒っているが、どうしたらいいのか皆目分からない俺にとって、その人の存在はありがたかった。
その人の指示通り、警察に連絡し、親に連絡し、その後の指示をあおいだ。
警察が来るまで、高校生の分際で車なんか乗るなだとか、広い砂利駐車場で練習しろだとか、彼女の前ですっこすこになじられた。
悔しかったが、俺は罪の意識半分、テンパってた俺を救ってもらえた感謝の気持ち半分で、ただひたすら謝るのみだった。
警察が到着し、事故調査が終わると、俺は今度はお巡りさんに叱られた。初心者マークを貼っていない事についてだった。
「あのマークは未熟なドライバーをベテラン達が守るためと、自分が未熟なドライバーであることを意識するための物だ。それをかっこつけ程度の考えで外すなど言語道断。安全意識のかけらもない!」と、事故調査よりもたっぷり時間をかけて説教された。
事故処理は保険屋さんにお願いし、ひとまずこの場はお開き。
俺も彼女も完全にヘコみ、映画どころの気分ではない。もう帰る事にした。
彼女の家に向かう間、俺達はずっと無言だった。
彼女の用意してくれたお弁当のバスケットも、結局開くことはなかった。
あぁ、こういうトラブルから別れたりしちゃうんだろうか。俺はそんなつまんない想像をしながら。雨の中サニーを走らせた。
彼女の家に到着する。もう門限ギリギリの時間だ。電車だったら、あそこからここまでこんなに時間は掛らないのに。
俺は今日車でデートした事を心底悔やんだ。
別れ際、彼女が思い掛けない事を口にした。
「今日は、ありがとう。きっと次はもっと楽しいよ。またドライブ連れてって。」
彼女が玄関に消えてから、俺は涙が止まらなくて、本当に困ったんだ。
家に帰ってからは、今度は親父にもこっぴどく叱られた。
もうこんな事は懲りごりだ。そう思った刹那、親父がこう言った。
「新車購入はしばらく先だな。サニーでうんと練習しろ!」
後でお袋に聞いた話だが、親父は俺が乗ることを見越して、随分前からサニーの保険を切り替えてくれていたという。
俺はまた、涙が止まらなくて、本当に困ったんだ。
数日後、最高に天気のいい日に、俺は改めて彼女をドライブに誘った。
もう変に背伸びなんかしない。誰だって初心者の頃があるんだから。
サニーのボンネットとへこんだお尻に、しっかりと初心者マークを張り付けて、俺は誇らしげに彼女を迎えに行ったんだ。
彼女はそれを見て「意外とかっこいいじゃん!」と太陽のように微笑んだ。




