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第73話

「ねえ、この宿にわたしのパパがいないの、不思議に思わなかった?」


「もしかして君のお父さんは……」


 そこまで聞けば想次郎も察しが付く。だが、


「わからないわ」


 言葉を選んでいた想次郎が何かを言い切る前に、ミセリは答える。


「わたしのパパもね、悪魔討伐部隊の一員だったの。ママが言うにはすごく強かったんだって。でね、パパは君たちと同じくこの宿に泊まった宿泊客だったのよ。討伐の遠征中にね。それで先代のおばあちゃんが死んでこの宿を一人で切り盛りしてたママと出会って、わたしを作ったの」


「へ? 作った?」


 不意打ちとも思えるカミングアウトに、想次郎は思わず気の抜けた声を上げる。エルミナは依然として無言だ。


「だーかーらー。この宿に泊まったパパがね、一目惚れしたママの寝室に忍び込んで――」


「あーわかった! わかったから本題の方の続きをどうぞ」


 委細を説明して欲しかったわけではない想次郎は慌てて遮り、本題の続きを促す。クラナのようなタイプの女性のそういった情事を詳らかに聞いてしまうのは、特に背徳的な気がしていた。


「わたしが生まれる前にパパは任務で次の悪魔討伐に出て、それっきり戻らなかったらしいわ」


「それで『わからない』か……」


 この世界の悪魔族というものがどれ程恐ろしい存在なのかは、想次郎には知る由もない。しかし、内容が内容なだけに戻らないとなるとミセリの父親の生存は絶望的だと思える。だが、彼女が「わからない」と言っている以上は、それを容易に否定することは想次郎にはできなかった。


「だからわたしもパパと同じ部隊に入ってパパの手掛かりを探したいの。そしてママを悲しませる原因を作った悪魔や魔物どもをやっつけたいのよ」


 ミセリは語気を強める。


「ママはね。もうパパのことなんか忘れたって言ってるけど、わたし知ってるのよ。たまに夜になると一人で泣いてるの……」


「でも……」


 ミセリの言葉に気圧され気味だった想次郎だが、話しの一区切りがついたところで想次郎が割って入る。


「でもさ、君までいなくなったら、クラナさん、もっと悲しむんじゃない?」


「何よ! メガネ君までっ!!」


 しかし、その言葉は今のミセリにとって特に地雷だったらしく、文字通り爆発しそうな勢いで顔を真っ赤にし、想次郎に迫る。


「わたしの気持ちなんて知らないくせに!」


「み、ミセリ、ちょっと落ち着いて」


「メガネのクセに!」


「め、眼鏡は関係ないんじゃない?」


 想次郎は何とかミセリを宥めると、逃げるようにして宿を後にした。


「エルミナさん」


 魔物の狩り場へ移動しながら、想次郎はエルミナに話し掛ける。


「さっきの、あまり気にしないでくださいね」


 想次郎はミセリの「魔物を憎んでいる」という言葉が、せっかくコミュニケーションを取ろうとしていたエルミナを必要以上に傷付けたのではと懸念していた。


「別に気にしてません」


 返ってきたその言葉は、一見すると冷たいようで、しかし想次郎がこれまで感じていた「無関心」というものは違ったものであった。想次郎にはそれがわかった。


「ただ……、せっかく家族がいるんですから、仲良くしてほしいものです……」


 エルミナは想次郎から視線を外すと、彼に聞こえないようにそう呟いた。





------------------フレーバーテキスト紹介------------------

【魔法】

地属性C4:ブレシェイル・ヴェンデ

対象一体へ地属性特大ダメージを与える。

この世の聖なる被造物よ。悪しき魂の宿りしその過ちの器を、神の元へ返し給え。

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