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第71話

「エルミナさん……。一つ聞いても良いですか?」


「なんです?」


 想次郎は仰向けのままエルミナに尋ねる。


「どうしてあの時止めたんです?」


 あの時、仮にエルミナが止めていなかったなら、想次郎は間違いなくあの男を殺めていた。


 〝不屈の指輪〟の効果の恩恵を受けていない今、想次郎は恐怖を感じていた。もしかしたら人を殺めていたかもしれない。それを想像するだけで言い知れぬ恐怖心が全身を震わせる。


「…………」


 エルミナは即答せず、少しのあいだ考え込む素振りを見せると、


「嫌だと思ったんです」


 少し自信なさげにそう答えた。


「……? どういうことです?」


 そう返しながらも想次郎は考える。魔物とはいえ、エルミナは人の心を取り戻した魔物だ。外見がアンデッドでも中身は普通の女性と変わらない。人が死ぬところを見たくないと思うのは正常な心情なのだろうかと。しかし相手は自身に酷い事をした男だ。


「違います。あの男がどうなろうとわたしの知ったことではありません。あの男に対して何ら憐れむような感情すらありません」


 エルミナは想次郎の想像を予想したかのように先に答える。


「ではなぜです?」


「嫌だと思いました。あなたが誰かを殺めてしまうのが」


「僕が……ですか?」


「ええ、わたしはあなたに人殺しになって欲しくなかった。ただ、それだけです」


「…………。そう……ですか……」


「何故かそう思ったんです。わたし自身人の心を取り戻す前に何人の人を殺めているかわからないのに……。いけませんか?」


「いえ、そんなつもりでは……」


 確かに想次郎も人殺しにならずに済んで安堵している。だが同時にエルミナの正体を知る人間を生かしたまま見逃してしまったのも事実だ。


 しかも見逃したのは一度彼女を手に掛けようとした危険人物。考え得る限り放置するには最悪と言える相手だ。


「あのようなことがあった以上、これまでにも増して危険が増えることが予想されます。それもこれも、やっぱり僕の責任ですけど……」


「そう思うなら必死で守ってください」


「はい。勿論です」


「頼りになる……とは正直まだ言い難いですが、まあ、一応期待はしておきます」


 そう言ってエルミナは口元に薄い笑みを作った。だが傷が治りきっていない為か、まだ少し辛そうな様子で引きつったような笑みになってしまっていた。


 いつかエルミナがこの世界で安心して過ごせるように、そんな言葉を抱き、想次郎は再び心に刻む。あの時……、あの墓参りの帰り道の時よりもより強く。


 依然として世界を救ったりするつもりはないが、彼女の為ならこの世界で活躍してみせる。仮にこの世界の魔王のような存在が彼女を脅かそうものなら、その魔王にだって立ち向かってみせる。


 人一倍弱虫な想次郎という少年は、この未知のファンタジー世界で自分自身にそう誓い、彼女には見えないようにそっと傷だらけの拳を握った。


 何故なら彼はそのアンデッドな彼女にどうしようもなく、熱烈なまでに、恋をしているのだから。





「ママのわからずやっ!!」


 数日後の朝、想次郎は建物全体を揺るがすような怒声で目が覚めた。


 声はどうやらミセリのもののようだ。下の階で何かあったのか、想次郎がベッドの上で寝惚け眼を擦っている間にも何やら言い争うような声が二人の部屋まで届いている。


「おはようございます想次郎さん」


「あぁ……おはようございます。エルミナさん」


 一足先にテーブルへついているエルミナと挨拶を交わす想次郎。


「何かあったんですかね?」


「さぁ?」


 エルミナは全く興味を示さないような返事を返しながらも、言い争う声が聞こえてくる度、迷惑そうに顔をしかめた。


 騒ぎが収まり、程なくして、部屋の戸がノックされる。


 それを合図にエルミナは新たに購入した〝沈黙の仮面〟を被った。


「おはようございます。クラナさん」


「おはようございます。想次郎君」


 今朝はクラナが朝食を運んで来た。テーブルに二人分の料理が乗った皿を並べるクラナに想次郎は尋ねる。


「あの……何かあったんですか?」


 するとクラナはばつが悪そうに苦笑いした。


「あら、聞こえちゃった?」


「ええ、まあ、少し……」


 本音を言うと全く少しどころの騒ぎ具合ではなかったが、クラナに余計な気を遣わせるのは心苦しいと思った想次郎はそう言葉を濁す。


「大したことじゃないの。ごめんなさいね、朝早くから」


「いえ、別に……」


 クラナはそれ以上は話そうとせず、朝食を配膳し終えると、そのまま部屋を出て行ってしまった。


「何だったんだろ」


 その反応に余計に気になってしまった想次郎だが、当人がああいった感じである以上は 必要以上に踏み込むことはできず、渋々諦めてエルミナと朝食を摂った。


 それに想次郎には他者を気に掛けている余裕なんてない筈だ。


 約束の支払日まで残り二週間に迫っていた。


 現在エルミナと協力して魔物狩りに勤しんでいるものの、予定の額までまだ半分にも届いていない。しかも、借金の支払日よりも宿の予定宿泊期間最終日が先に来る。当然次の宿代は勘定に入れていない。そろそろ本気で路上生活を視野に入れなければならない状況にきていた。


「でも、一か月か……何だかんだで早かったなぁ……」


 想次郎はこの世界に来た当初のことを思い返しながら、戦闘用の服の袖に腕を通す。


「何を感傷に浸っているんですか」


 互い背中合わせで着替えながら一人呟く想次郎にエルミナが言う。


「わかってます。何か方法を考えましょう」


 当然考えてばかりいる猶予はない。考えながらも少しでも稼ぎを増やそうと、二人で今日も魔物狩りへ出掛けるのであった。






------------------フレーバーテキスト紹介------------------

【魔法】

氷属性C4:エス・アーシュ

対象一体へ氷属性特大ダメージを与える。

我が力を糧に全てを奪い去れ。この目に映る悉くを死の純白に染めよ。

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