第64話
しばしの休憩の後、二人は街へ戻り本日分の成果を換金した。
街の換金所から出る頃にはすっかり日は落ち、あたりは真っ暗であった。
「エルミナさん。今日はありがとうございます。こうなってしまったのも、元はと言えば全部僕の所為……僕の責任ですのに……」
街に入ってからは仮面を付けてしまった為、エルミナの表情は見えない。だが、仮面の隙間から覗かせる瞳は少し微笑んでいるように見えた。
「別に構いません。今となってはあなたとわたしは一蓮托生の関係です。こういう時は協力し合わなければならないのは当然です」
「エルミナさん……」
想次郎は犯してしまった自身の愚かな選択を改めて恥じると共に、エルミナの言葉に感動し、瞳を潤ませた。
換金所から宿まではそこまで距離があるわけではない。しかし、街灯の少ない街の暗さと人通りの少なさは相変わらず怖気立つものであった。
それでも想次郎は傍らにエルミナというアンデッドの彼女がいるだけで、少しだけ心が強くなれる気がしていた。
しかし当面は金策に頭を悩ませることになりそうであった。効率が倍になったところで毎月の返済には到底届きそうもない。加えて、もたもたしていれば宿の滞在期間である一か月が経過してしまう。妙案は未だ浮かばない。
財布を開き、中身を確かめながら想次郎は大きな溜息を吐いた。
「悩んでいてもしかたないしょう」
想次郎の様子を眺めていたエルミナが口を開く。
「とにかく今はできることをしましょう。そうしながら何か良い手立てがないか、わたしも一緒に考えますから」
「はい……」
そんな会話を交わしながら、宿までもう間もない通りに差し掛かった時である。
「っ!?」
突如薄闇の中から何かが飛び出て来て、想次郎に勢いよくぶつかった。
その衝撃で足をよろめかせる想次郎。
「いててて……。何だったんだ……」
「想次郎さん! あれ!」
エルミナはそう叫びながら、指を差す。その先には人影の背が見えた。
人影は一度二人の方を振り返ると、手にしている何かを一度宙に放り、キャッチする。まるで二人に向かって何かを示すかのように。薄闇の所為でその人影の人相はわからない。人影はそのまま逃げるように走り去って行った。
「ん……? あ!?」
呆気に取られていた想次郎はようやく異変に気付く。先程まで手にしていた財布がなくなっていることに。
ひったくりだ。そう気付いてからも想次郎はすぐには動けなかった。
「何を呆けているんです! 追いかけますよ!」
「は……、はい!」
真っ先に動いたのはエルミナであった。率先して駆け出したエルミナの後に続く形で、想次郎も人影を追った。
二人が人影を追って辿り着いた先は何かの廃墟であった。
奥に崩れかけた建物があったので、警戒を強めながら二人で中へ入る。
「いいですか? 絶対に取り返しますよ。今となっては死活問題です」
「わかってます」
自身の失態で苦しんでいる今、さらなる失態で無一文になるのは以ての外。想次郎はエルミナの言葉を受けて自分に喝を入れた。
建物の中は穴の開いた天井から入ったであろう風雨に曝されて酷い有様だった。木の床は所々腐っており、砂や埃が溜まっていた。朽ちた木箱の残骸がそこら中に散乱している。
真っ暗かと思われた室内は中央で炊かれた焚火の火で淡く照らせていた。まるで予め誂えたかのように周囲を照らす火の明かり。
その緩やかな明かりで人影の全容が明らかになる。その正体を認め、想次郎は思わず息を呑んだ。
「あ……あなたは……」
「よお。元気してたか?」
くすんだブロンドの髪。手には特徴的な柄の長い長剣。
シナリス・ガリュウサ。
人影の正体は先日想次郎が決闘場で戦った男であった。
------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【スキル】
C1:物理耐性
物理属性の攻撃によるダメージが30%減少。
内より迸る剣気は自身の肉体を纏う。剣士を見た目で判断してはならない。未熟者なら猶更だ。その者が内に秘めているものを外側から窺い知るには、それを推し量る側の実力も試されるのだから。




