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第59話

「ほらっ! 想次郎遅い! あははっ!」


「ちょっと! し! 静かに! ってか、待って!」


 街に踏み入るなりナツメは想次郎を置いて駆け出してしまう。時折跳ねたり、くるりと回ったり、とにかく全身全霊で歓を尽しながら人込みを縫って踊るように街の中を進んで行った。


 回る度に尻尾の先がはみ出ており、せっかく寝かせていた猫耳もフード越しにもこもこと動き出してしまっている。ナツメの後を追いながら想次郎は気苦労が絶えなかった。


「はぁっはぁっ、……もう。少しは警戒心を持ってよ……」


 しばらく街中を散策しているとナツメが急に立ち止まり、ようやく彼女に追い付く想次郎。


 以前人目を気にし過ぎる嫌いがあるエルミナに対し、少々の苦言を呈していた想次郎であったが、ナツメのようにこうも明け透け過ぎるのは考えものだと、痛感していた。


「くん……」


「ね、あまりはしゃぐと危ないから……」


「くんくん……」


 想次郎が改めて忠告を口にしようとするが、ナツメの意識は既に別の対象に釘付けだった。


「くんくんくん……。何か良い匂いがする!」


 そう言ってまた駆け出してしまうナツメ。


「ああもうっ!」


 大人しい性格の想次郎も、この時ばかりはさすがに声を荒げてしまう。溜息を吐く間もなくナツメの後を追った。


「これだ!」


 ナツメはレイヴトラオム闘技場近くの露店が並ぶ界隈で一台の屋台を指差す。屋台からは煙が立ち昇り、肉の焼ける香ばしい匂いが漂っていた。それは想次郎も以前より気になっていた屋台だった。


 以前エルミナの墓参りに付き合った折、その帰りに行くことを提案した店でもある。だが、決闘場での一件があってからは、どうにも傍を通るのを避けてしまっている想次郎であった。


 屋台は串に刺した獣の肉を炭で焼いたものを出しているようだ。想次郎の世界で言う「焼き鳥」のような見た目だった。油と煙ですっかり変色してしまっているのぼりからは「一串200F(フィグ)」と書かれているのが辛うじて読み取れた。


「えっと、あれが食べたいの……て、えぇっ!?」


「じゅるるるる…………あえー……」


 ナツメは屋台の店主が肉の串を裏返したり、タレのようなものをハケで塗っている様子を眺めながら、口からよだれを無尽蔵に垂れ流してた。ナツメの足元で小さな水溜まりがみるみる形成されていく。


「ああああ! わかった! 買って来るから! よだれ止めて!」


「じゅるっ」


 ナツメは耳をフード越しにぴこんと立て、よだれを引っ込める。


「耳も出さないで……ったく、もう」


 ナツメをその場に置いておくのはかなり躊躇われたので想次郎は急いで屋台に買いに走る。ナツメと自分の分、ついでにエルミナへのお土産としてもう一本、計三本購入してから一本をナツメに手渡した。


 ナツメは受け取るなりその場に座り込み、大振りの肉の塊が四つ刺さった串にかぶり付いた。一口で塊二つが串から消えていた。


「悪いな! 何から何まで」


 ナツメは肉を頬張りながら横に腰掛けた想次郎に寄り掛かる。串を持った想次郎の肘にローブ越しでも決して慎ましくないナツメの胸があたり、想次郎は慌てて距離を取る。


「ど、どういたしまして。…………。まあ、僕も一応は特訓に付き合ってくれて感謝はしてるからさ。それに約束だったし。でも、もうちょっと節操を持って貰えると嬉しいんだけどね……」


「あ! あっちは何だ!?」


 残りの肉を胃に収めたナツメは残った串を放ると、またも勝手に駆け出してしまう。


「もう嫌……」





 日も落ちかけて来た頃、そろそろ帰ろうと想次郎とナツメは来た道を戻る。


 街の外へと続く道の途中に想次郎の泊まる宿があるので、そこでお別れとなりそうだ。


「いい? 念の為街の外へ出るまでローブを脱がないでよ」


「わかってるよー」


 ナツメはそう言うとまたも耳をもこもこと動かす。


「だから耳!」


「はいはーい」


 本当にわかっているのかと、想次郎は半目でナツメを一瞥するが、当の本人は街の散策が余程楽しかったのか、鼻歌交じりだった。


 程なくして想次郎の泊まる宿が見えて来る。


「僕あの宿だから今日はこのへんで…………って、あれ?」


 想次郎は宿の前に人影が立っているのに気付く。漆黒のドレスに白い仮面の女性。


「エルミナさん!」


 想次郎の声に反応して仮面の視線を向けるが、すぐに想次郎の傍らのナツメに気付き、視線を斜め下へ向ける。


「ああ、ちょうど良かった。この娘が前に言ってたアンデッドのナツメ。エルミナさんと同じ……って、あれ? エルミナさん?」


「…………」


 想次郎が駆け寄ってナツメを紹介しようとするが、エルミナは無言のまま一切視線を合わさず、宿へ戻って行った。


「まあ、あたしはここらで失礼するよ」


 呆然と見ていたナツメも何かを察したのか、自らお開きを申し出る。


「今日はありがとな! また行こうな!」


「ははは、できれば僕はもう勘弁かな……」


 乾いた笑いを浮かべながら、想次郎は力なく手を振ってナツメと別れた。







------------------フレーバーテキスト紹介------------------

【剣技】

C2:重二連斬

対象一体へ防御力無視の斬撃属性中ダメージを2発連続で与える。

素早く左右から振り下ろす渾身の二連撃。使い手の実力によっては左右からの斬撃がほぼ同時だと錯覚する。余程の実力者でないならば、決してその技を受けきろうなどと考えてはいけない。

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