第48話
「えっと……どうすれば……」
手元に残った二枚の紙を眺めながら、しばし呆然と立ち竦む想次郎。
「怪しい男でしたね……」
「わっ!」
これまでずっと鳴りを潜めていたエルミナが突如言葉を発したので、想次郎は思わず一驚する。
「なんです? 急に大声出さないでください」
「え、エルミナさんこそ! 驚かせないでください!」
「それで? どうするんです?」
「ああ、これ……ですよね……」
想次郎は男から渡された二枚の紙を再度確認しながら、同時に入口付近の人だかりに目を遣る。ここからの距離では細部まで確認できるわけではないが、想次郎が見比べる限りでは、周囲の人々も同じようなものを手にしているようだ。
「たぶん本物……っぽいですけど……」
想次郎は自信なさげに言った。
「わたしは多分に怪しいと思います」
「そうですよね……。でも本物だったら……うーん……」
「判断は任せますけど、変にわたしを巻き込まないでくださいね」
「それはわかってます」
迷う想次郎の心中には、もし仮にこの投票券が本物だった際はエルミナへネックレスのプレゼントができるという期待があったが、それを口に出すと当然彼女の猛反発が来るであろうことが予期できたので、あえて言わずにいた。
「そもそも自分に何の得もないのに赤の他人にそんなことするでしょうか?」
「まあ、そうなんですけど。でも、僕がお金を出してこれを買っていたら確かに怪しいですけど、今回僕は一銭も出していません。それって騙されようがないんじゃ……」
「はぁ……」
それを聞いてエルミナは呆れるように嘆息する。
「だから怪しいと言っているんです。理解の及ばない事象程怪しいものはありません」
「そうですよね……」
そう言いながら決闘場の方へ視線を遣る想次郎。明らかな未練が見て取れた。
「まあ、そんなに気になるなら行ってみたらどうです? 最悪あなた程の強さなら、何かあっても無理矢理切り抜けられるでしょう」
「ぶ、物騒なこと言わないでくださいよ……」
「うわぁ、本当に混んでるなぁ」
想次郎は決闘場入口の列に並び、順番が来るのを待つ。
結局想次郎は男から託された投票券を換金してみることにした。中へ入る為の会員証は一枚しかないので、エルミナは一足先に宿に戻ることとなる。
入口が近づく。大丈夫だと高を括って列に並んだ想次郎だったが、いざ自分の番が近づくと緊張感でやや後悔が顔を出し始めていた。
「大丈夫……だよね……」
両脇で目を光らせている不愛嬌な警吏の男たち。その嫌疑の視線が自分へばかり向けられているのではと、想次郎は錯覚してしまう。
「はい、次の方」
このまま並ぼうか、それとも帰ろうかと迷っているうちに、想次郎の番が来てしまった。
「あああ、はい、これ……」
想次郎はぎこちない手つきで会員証らしき方の紙を係りの男へ手渡した。男は受け取るなりまじまじとその紙を品定めする。
想次郎はその時間が嫌に長く感じた。前に並んでいた人たちよりも遥かに長い時間が掛かっている気がしてならなかった。
「はい、どうぞ」
しかし想次郎の憂惧を嘲笑うかのように、会員証を返却され呆気なく中へ通される。
係りの男が会員証をチェックしているあいだ無意識に呼吸を止めてしまっていた想次郎は、中に入るなり肺の空気を一気に吐き出した。
「なんだ……全然大丈夫じゃん」
------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【建築物】
レイヴトラオム闘技場
エアスト内に建造された巨大内円形の石造りの建物。エアストにおいてのランドマーク的建造物であり、唯一の大型賭博場。大国カイス公国の管理する正式な国営の施設でもある。娯楽用途の他に、軍国主義を推し進めるカイス公国ならではのとある役割をも担う。




