第37話
「しまった! レアエンカウント!」
想次郎はこの魔物の見た目に心当たりがあった。
「スプーキーキャット……」
ゲーム内においてごく稀に、それこそ超が付く程の低確率でエンカウントするモンスターがいた。
レアエンカウント。
それは俗に言う「初見殺し」に類する開発サイドの用意したハプニングの一つで、そのステージの適正レベルでは到底倒せないレベルやクラスのモンスターが出現する、それが〝レアエンカウント〟だ。当然倒せればそれなりの恩恵がある。
何百何千回とモンスター狩りでレベルアップを行った想次郎でさえ、一度しか遭遇しなかったが、その一度というのもまだレベル上げやり始めの序盤の頃で、想次郎は10秒と持たずにGAME OVERとなった。
「きしししし……」
スプーキーキャットは不敵に笑いながら徐々に想次郎へ向かってにじり寄って来る。背を見せないようにゆっくりと慎重に後退る想次郎。
一向に静まらない心臓。動かす足は震え、額からは一筋、汗が流れては顎から滴った。
(こっ……怖い!)
同じような魔物ばかりを狩り続け、忘れかけていた魔物と対峙する恐怖心が今、想次郎の全身を鈍く包み込む。
恐怖に震えながらも、想次郎はまず〝第三の眼〟を発動する。
アンデッド族C3:スプーキーキャット
Lv38
生命力968
技力78
魔力23
――――――――…………「きしゃぁっ!!」
「うわぁっ!」
全てを確認しきる前に、スプーキーキャットは地面を蹴ると、瞬時に想次郎の懐へ飛び込んだ。
右斜め下方向から振り上げるようにして迫る爪を咄嗟の抜き身で受ける想次郎。シースから抜き切らないまま刃で爪を受け止め、左の剣を振り被り――、しかし動けない。
その間にスプーキーキャットは反撃の刃が向いていることに気付き、軽快に飛び上がるとそのまま後方へ宙返りをしながら距離を取る。
反撃の姿勢のままカタカタと小刻みに震える刃。想次郎の頭の中で強敵に対する尋常ならざる恐怖心と、とあるもう一つの感情が綯い交ぜになり、ぐるぐるとかき混ざっていく。
その間もスプーキーキャットは再度攻撃を仕掛けようと腰を落としながら、じりじりと左右へ動き、一定の距離を保ったまま様子を伺っている。
恐怖心の他に想次郎の動きを阻害している感情、それはスプーキーキャットの外見に要因があった。
獣の耳、毛に包まれた両手、鋭い爪、尻尾、違った特徴はあれど、それ例外の見た目はほとんど人間である。それに加えアンデッド特有の傷だらけの肌は、どうしても宿で帰りを待つあの女性を思い起こさせる。
これを単なる魔物として見て良いものか。想次郎のぐちゃぐちゃな脳内に迷いがプラスされ、さらに焦燥感は加速する。
しかし、このままだと殺される。想次郎は震える足で何度も地面を踏みしめた。
「くそっ! 収まれっ! このっ! このっ!」
だが、収まるどころか焦れば焦る程震えは増していくように感じた。
先程一瞬だが垣間見えたステータスによると今対峙しているスプーキーキャットのレベルは38。
まだ想次郎の方が上だが、この世界でここまで高いレベルの魔物と戦うのは想次郎にとって初めてだった。仮にゲームだったとしても下手をすればやられてしまうかもしれないレベル差。
「いや! 考えるな! そんなこと!」
想次郎は必死でスプーキーキャットの動きを追うことに集中する。今動けなければ本当に死んでしまう。前に街のならず者たちから受けた暴力と違って、あの爪の攻撃を受けてしまったら最悪ケガでは済まない。
想次郎は未だ震えの残る手で双剣を構え直すと、スプーキーキャットの次の攻撃に備えた。
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【モンスター】
アンデッド族C3:スプーキーキャット
猫型の獣人族が死後アンデッドになった姿。獣人本来の機知に富んだ狡猾さは理性と共に失われてしまったが、同時にその狂気に満ちた瞳は対峙した者に根源的な恐怖を呼び覚まさせる。スプーキーキャットにとって、その恐怖心は愉悦の対象でしかない。




