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第29話

「それで、もう一人の方は……」


 バンシーI改めエルミナは、今度はもう一方の名を指でなぞった。想次郎には心なしか、先程よりも優しい手つきに見えた。


「ソファニア……。わたしの姉です」


「お姉さん……エルミナさんの……」


「ええ、記憶はまばらですが、早くに両親を亡くしたわたしたちは二人だけで生活していました。あの村で……」


 想次郎は先程エルミナと共に見た村の痕跡を思い返していた。


「わたしは、自分が死んだ時のことを覚えていません。姉がその後どうなったのかも」


 想次郎は何も言うことができなかった。どう声を掛けて良いのかがわからなかった。


「涙が出ないんです」


 そう言って、膝の上で拳を握るエルミナ。


「それはわたしが魔物になってしまったからなのか、単にこの荒唐無稽な現状に実感が湧いていないからなのか、わかりませんが……」


 そう口にするエルミナは唇を噛み、表情を歪ませる。それは肉親を亡くした悲しみと、その悲しみに人として向き合うことがでていないかもしれないという懸念に対する口惜しさが入り混じったもののようでもあった。


「涙が、出ないんです……」


 それでも想次郎には、彼女が泣いているように見えた。


 だが、想次郎はエルミナに対し、何も言ってあげることができなかった。心身共に未成熟な少年には、正しい言葉が見つからないこともある。気持ちを正しく推し量るには相応の経験も必要だ。


 しかし想次郎はそれが酷く悔しかった。好きだと言った相手がこんな表情をしている時に、自分は何も言えなかった。ただその事実が痛い程、想次郎の胸を締め付ける。


「エルミナさん」


 だから想次郎はせめて今自分にできることをしようと考える。


「花を、供えましょう」


「ええ。ありがとう」


 そう言って、エルミナは微笑んだ。常に無表情を貫く彼女が見せる希少な笑顔に、本来ならば嬉しく思う筈の想次郎は、彼女の表情を見て余計に切ない気持ちになった。口元に笑みを作ってはいたものの、やはりその瞳は泣いているように見えたからだ。


 それからは二人で墓所の周囲を回り、供えになりそうな花を探す。


 エルミナの希望で他の墓にも花を供えることにした。


 しかし、季節柄なのか、そもそもそういう土地だからなのか、わからないが、供えに相応しい花はあまり咲いてはいなかった。気温からして現実世界でいう春頃だろうと予想してた想次郎だったが、思いの他苦労を強いられることとなる。時間だけがどんどんと過ぎて行った。


 だがエルミナの希望に対し心得顔で了承した手前、想次郎はここで諦めを口にするわけにはいかなかった。それに、何も言ってあげられなかった分、少しでも彼女の希望を叶えてあげたいという気持ちが強かった。


 二人で墓所の周囲を歩き回り、形の残っている墓石全てに花を供え終えた頃にはすっかり日が落ちていた。


 花は形も色もまちまちで、数も採れなかった為、一つの墓石に対し、二、三本ずつという何とも寂しいお供えとなった。


 花を供える度、墓石一つひとつに向かって瞼を伏せ、何かに祈りを捧げるエルミナ。


 それでも、夕日に照らされるエルミナの横顔が先程よりも明るくなっていた気がしたので、想次郎は少し安堵した。


「帰りましょうか。エルミナさん」


「ええ」


 この界隈は暗くなるとグールが出現する恐れのある地域だ。少なくとも想次郎がプレイしていたゲームの中ではそうだった。


 想次郎がグールとの戦闘を避けたいのは、彼がグールという魔物に対して恐怖心を克服できていないというのもあったが、今は、そのグールたちがもしかしたら元はエルミナの故郷の住人なのかもしれないというのが理由として大きかった。


 二人は街への帰路についた。







------------------フレーバーテキスト紹介------------------

【魔法】

聖属性C4:レクシオ

自身への魔法、物理攻撃を一定量防ぐ障壁を生じさせる。カット率は50~100%でレベル差に依存する。

より強固な障壁の形成には、魔術により生成された疑似的なアスペクトを、占星学において限りなく正確なグランド・トラインの位置に示さなければならない。


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