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第16話

 一人宿に戻ったバンシーIが宿の入口の戸を開くと、店主のクラナがカウンターの植木鉢に水をあげているところだった。


「あら、おかえりなさい」


 クラナがそう挨拶すると、バンシーIは無言で会釈を返す。


「お部屋の居心地はいかが?」


 早々に立ち去りたいバンシーIだったが、人の良さそうな笑顔でクラナは会話を続ける。バンシーIは少したじろぐように後退ると、もう一度だけ無言の会釈を返し、そのまま小走りで二階の部屋へ戻り、急いで鍵を掛けた。


 そしてそのまま戸に背を預け、気持ちを落ち着ける。


 心臓などとうの昔に止まってしまっている筈だが、それでも焦燥感が身体中を満たしているのがわかった。


 ようやく落ち着いても、気は晴れない。


 自分はこれからこうしてコソコソと顔を、姿を、正体を隠しながら過ごさねばならないのかと、考え始めると今度は次第に暗い感情が渦巻いていく。


 自分ことを知って、それでも人と変わらず接してくれるのはあの奇怪な少年だけ。しかしそれもいつまでかわからない。


 所詮は化け物に成り果てた死骸。〝人だった〟モノ。


 この先どうするべきか考えねばと、彼女は誰もいない部屋で一人苦悶に膝を抱える。


 やがて思い立ったように立ち上がると、バンシーIは姿見鏡の前で服を脱ぐ。


 留め具を全て外し、服が足元にするりと落ちる。


 露わになるまるで生気のない白い肌。所々歪に走る傷跡。でたらめに皮膚と皮膚を縫い合わせたような、見るもおぞましい姿。


 そしてまた、バンシーIは泣きたくなる。


「本当に……。いつまでこんな……」


 そう呟くと同時に、部屋の戸が勢いよく開かれた。


「アイさん!」


 想次郎が満面の笑みで入って来た。


「あ、アイさん!?」


 バンシーIは素早く大事な部分を手で隠すと、殺気を伴った鋭い目付きを想次郎へ向けた。


「ま、待ってください! 今回ばかりは不可抗力です!」


「はぁ……。まあ、良いです……。で? どこへ行ってたのですか?」


 服を着直しながらバンシーIがそう尋ねると、想次郎は待ってましたと言わんばかりに後ろ手に隠すようにしていた包みを彼女へ手渡す。


「これ、良かったら」


 訝し気な表情のままバンシーIが包みを開くと、中には数冊の本が入っていた。


 それを見て、怪しさで細めていた目を丸くするバンシーI。


「…………。どういうつもりです?」


「プレゼントです。意中の女性にはこういった贈り物をするものでしょう? どんな内容がお好きかわからなかったので、適当に何冊か買ってみました」


 確かにバンシーIは先程の道中しきりに本屋を眺めていた。生前、別段本が好きだったわけではない。ただ、何かで気持ちを誤魔化したかっただけであった。


 欲しいか欲しくないかでいえば、勿論欲していたのも事実だが、この頼りない少年にねだるのは抵抗があり、彼女なりに見ているのを気付かれないようにしているつもりだった。


 バンシーIはそっと受け取った本をテーブルに置くと、深く嘆息し、想次郎に向かって手招きする。


「なんです?」


 想次郎はもしかして褒められるのかと淡い期待を抱いて彼女の元へ駆け寄った。


「あなたはわたしがアンデッドだと分かっているのですか?」


「当然です」


 即答する言葉に一縷の迷いもなかった。


「恐ろしいとは感じないのですか?」


「なぜです?」


 眼鏡の奥の瞳は、心底「わからない」といった感情を表していた。


 それを見るなり、バンシーIは己の鋭い牙で右腕の傷に縫い付けられていた糸の一本を噛み切る。


「え? ちょ、ちょっと」


 戸惑う想次郎に構わず、バンシーIは腕の糸を引っ張り、するすると解いて見せた。糸が抜けると同時に、床へぼとりと落ちる右腕。それを左手で拾い、徐にその断面を想次郎に向ける。


 腕の断面はどす黒い肉が詰まっており、骨と神経や血管のようなものまで見える。そして身体から切り離されたにも関わらず、その肉はぐにぐにと胎動するように微かに蠢いていた。


 言葉が出ず、息を飲む想次郎。






------------------フレーバーテキスト紹介------------------

【剣技】

C1:抜き足

3歩圏内の対象に対し、近接攻撃可能距離まで瞬時に移動する。続けて他の剣技への派生が可能。

本来は剣士による音を立てない歩法の一種だが、戦闘面において素早く相手の懐や死角へ入り込む為の技術として昇華されている。実力差によっては、受けた者は相手が急に目の前から姿を消したとさえ錯覚する。次に姿を捉えた時には自身の急所が刃に貫かれているだろう。

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