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第1話
「僕には何もない。
平凡な人間が異世界へ行ったら活躍するって話をよく聞くけれど、
僕には本当に何もないんだ。悲しいくらいに、何もないんだ。
ただ、彼女と一緒にいられればそれでいい。
この世界で活躍するつもりなんて毛頭ない。
そもそも頑張ったところで、僕なんかにできる筈もないけどね……」
「いい加減しつこいです」
「え?」
突然の言葉に、少年、皆月想次郎は口を開けたまま固まってしまっていた。
「ですから――」
呆れ顔で「しつこいです」と再度繰り返される声。
抑揚の一切ない冷たい声色。
想次郎は驚愕と困惑に塗れた脳内で必死に思考を整え、ようやく第一声を絞り出す。
「ああ、思った通り。綺麗な声だ……」
瞬間、想次郎の視界に眩い光が満ちた。
その光は今まで見たどんなものよりも白く、眩く、まるで自身の存在を消し去ってしまうのではないかと錯覚する程であった。