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#3

 10:15。

 学生会館内会議室。

 大学祭の期間中、大学祭実行委員会の本部として使われる部屋である。

「爆弾をしかけたという電話があったのは、何時のことですか?」

 弥生は挨拶もそこそこに、そう切り出した。

「携帯の履歴を確認すれば正確だな――今朝、9:00だ」

 答えたのは金子(かねこ)洋太(ようた)、大学祭実行委員会の会長である。

 弥生に対する自己紹介では、文学部の三年だと言っていた。

「金子さんの携帯電話に、直接電話がかかったのですね?」

「そうだ。連絡先は非通知になっていて、こちらからはかけ直せない」

 金子は、難しい顔で頷いた。

「電話の内容を、もう一度教えていただけますか?」

 弥生は、先程電話口で伝えられた内容を確認する。

「ああ」

 金子は腕組みをして口を開いた。

「非通知からの着信だったんだが、大学祭の最中なので、緊急の連絡だとまずいと思って電話に出たんだ。そうしたら、開口一番に『大学祭の会場に爆弾をしかけた』と、妙に平坦な、機械っぽい声でそう言ったんだ」

「なるほど」

「俺は、『イタズラなら切るぞ』と応じた。相手は構わずに続けて来たんだ『爆弾は全部で三個だ。それぞれ設定した時刻になると爆発する。爆発時刻は、それぞれ13:00、16:00、17:00だ。客を避難させる動きがあれば、全てを遠隔操作で爆発させる』……一字一句違わずに覚えている訳ではないが、こんな感じだったと思う」

「構いません。続けて下さい」

「そこで、どうもただのイタズラではない気がして来たんだ。そもそも音声を変えている時点で、寒々しい本気は感じていた。『N大学には、うってつけの名探偵がいるだろう。如月弥生に連絡しろ。宝探しゲームをしよう』と言ったので、これは本当に事件かもしれないと」

「私に連絡しろ、とそう言ったんですね?」

「ああ。それから『次は12:00に連絡する。それまでに、対応を決断しろ』と言って、電話が切れた」

「分かりました。その電話に応対していた時、誰か周りにいませんでしたか?」

 弥生の問いに、金子は会議室にいる別の学生に声をかけた。

平針(ひらばり)。お前、部屋にいたよな?」

「はい。――平針(かける)です。農学部の一年です。実行委員会では、模擬店部長をやってます」

 そう言って、弥生に頭を下げた。

「金子さんの説明に、何か補足がありませんか」

「いや、特に……。オレには相手の声は聞こえませんでしたし」

「そうですか。ありがとうございます」

 そのやり取りが終わると、金子は座った椅子の上でぐっと体を乗り出した。

「やはり事件だと思うか?」

「そうですね。ただのイタズラにしては――客を避難させる動きがあれば、遠隔操作で爆発させるというのも気になります。大学側に連絡は?」

 弥生の問いに、金子は息をつく。

「窓口の佐々木教授には連絡した。イタズラだと思いたいようだった。念のため、警察に一報すると言っていた」

「こう言う場合、残念ですが、大学祭を中止して安全を図る必要があると思います」

 弥生は、重々しくそう言った。

「しかし、電話のあった時刻には、来場者が会場に入り始めていた。既に、爆弾の場所によっては少なくない被害が出る状況だ。それに、個人的には時間と人手をかけて準備してきた大学祭が、こんな形で中止になってしまうのは悔しい」

「だから――」

 弥生は、金子の言葉を引き継いだ。

「会場内の三個の爆弾を、私に探し出して欲しい、と。そう言う依頼ですか?」

「そうだ」

 ふう、と弥生は息をついた。

「その依頼は、簡単に受けてしまうわけにはいきません」

「ああ、それはそうだろうな」

 金子はそこで、人の悪そうな笑みを浮かべた。

「いや、正直、安心した。学生のくせに名探偵なんて、どんな非常識なヤツかと心配していたんだが」

「A県警に懇意にしている刑事さんがいます。連絡して良いですね?」

 弥生が、そう言って自分の携帯電話を取り出そうとすると。

 別の携帯電話が着信を知らせて音を立てた。

「お、悪い。佐々木教授からだ。――はい、もしもし金子です」

 金子の表情は、既に大学祭の中止を宣言されることを予期しているかのように苦いものだった。

 数度のやり取りの後、金子の視線が弥生を捉えた。

「ええ。如月弥生さんなら、今、俺の目の前にいますよ」

「――」

 弥生は、その視線を無言で見つめ返す。

 次の瞬間、金子の目は驚きに見開かれた。

「大学祭はそのまま開催?」

 それは大方の予想を裏切る一言だった。

「A県警とも調整済? 本当ですか? 事件の公表は、全てが無事解決したらって――。待って下さい、誰がそんな事に責任を取れるって――は? N大学の理事長?」

 何度かやりとりをし、金子は何度目かになる確認を口にした。

「わかりました。本当に、予定通り開催しますよ? 念の為、メールで同じ内容を送って下さい。後になって、学生が勝手にやったってのはなしですからね」

 そう念押しして、金子は電話を切った。

 大きく息をついて、そして口を開く。

「信じられない話だが、大学祭は予定通り開催だ。理事長の一存らしい。如月弥生が解決に乗り出しているなら、責任は全て理事長が取るらしい」

「理事長って、そんなのありですか?」

 平針が、上げた声は、驚きよりも呆れが強そうだった。

「N大学の理事長なんて、私は面識ありませんよ」

 弥生も不信を声ににじませている。

「詳細は不明だが――お、佐々木教授からメールのダメ押しだ――大学側は、避難させた場合の被害を重要視したことにするらしい。難しい対応だが、警察と名探偵に全面的に期待していると」

 弥生は頷いた。

「わかりました。文字通り時間がありません。先程の依頼、お受けいたします。大学祭に仕掛けられた爆弾を全て探し出し、警察と協力の上で無力化してみせましょう」

「よろしく頼む」

 金子は、そう言って深々と頭を下げた。

 そのタイミングで、会議室の扉が開かれ男女が入ってきた。

「委員長。大学祭は中止になるの?」

 女性の方が、室内に入るなりそう言った。

「いや。予定通り開催だ。ああ、こちら、名探偵の如月弥生さんだ」

「あ。えっと、どうも」

 金子に言われて初めて部外者がいることに気がついたのだろう、女性は一瞬口ごもってから。

「前園美鈴です。イベント部長をしてます。工学部の二年です」

「理学部二年の尾田(おだ)鉄郎(てつろう)です。展示部長です」

 前園と尾田、と二人は自己紹介した。

 弥生もそれに自己紹介を返す。

「名探偵の如月弥生です」

「爆弾をなんとかしてくれる訳ですね。よろしくお願いします」

 前園がそう言って頭を下げた。尾田もそれにならう。

「大学祭の開催も、爆弾も気になるけど、先に報告するわ」

 前園の言葉を、尾田が受け継いだ。

「フリップフロップの遅刻の件ですけど、手品同好会がメインステージで一時間やってくれることになりました」

「手品か! ナイスだ、よく取り付けてくれた」

 尾田の報告に、金子がひざを叩いて見せた。

「私はこれからイベント部のメンバーに指示を出しに行きます。手品同好会とも打ち合わせしないと。でも、その前に、『予定通り開催』の経緯を説明して下さい」

 前園の言葉に、弥生が割り込む。

「金子さん。実行委員会のメンバーに情報共有を。主なメンバーはあと何名ですか?」

「副委員長の鍋島(なべしま)が講堂から戻ったら五人全員集合だ。もうすぐ戻るはずだが」

 金子の言葉に、弥生は頷いた。

「では、その間に、私はA県警に連絡します」

 弥生はそう言って、今度こそ自分の携帯電話を取り出した。



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