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2:ナギの決意

目の前に、驚愕の表情を浮かべた少女がいる。

そりゃあ、そうだよね。いきなりこんなことを言われても、頭の理解が追いつかないに決まってる。


でも、許して! 聞いてきたのはあなたなんだから。


「もう一緒にいられないかもしれない」


この可能性を告げることは、ボクにとっても苦渋の決断だった。でも、今の暗い顔を見せ続けるくらいなら、真実を告白する方がマシ。

ボクは、そう決断して、彼女に全てを告げた。


「え? ちょっと待って! どういうこと!?」

「言葉通りの意味だよ。私たちは、一緒にいられなくなる」


ボクはそう言って、昨晩、政府官僚である父の机から抜き取った、一枚の書類をナギちゃんに見せた。


「日本、少子化、対策概要?」

「うん、上から読んでいってみて」


ナギちゃんは、言われるがままにそれを読み進めて行った。


「えーと、なになに」


一、日本国民は、必ず婚姻をする。これを果たさぬものは、成人後、賦課を課す。また、これには年齢により累進性が働く。


二、各家庭は、これにより子を一人以上養う。


三、婚姻効率化にあたり、親族以外の同性同士の触れ合いを禁じる。


第三項で、文章を追っていたナギちゃんの目が止まった。


「え、何、コレ…」


昨日、この書類を見つけた時のボクとまったく同じ反応だ。


「これって、本当なのかな?」

「うん、お父さん、もうすぐ日本の将来を決める大事な法案が成立するって言ってたし、間違いないと思う」

「そんな! こんなのってないよ…… ただの人権侵害じゃん! 私は、ただ大切な人と一緒に笑って過ごしていたいだけなのに!」


ナギちゃんの悲痛な叫びが響く。ボクは、冷酷だと思いながらも彼女に言い放つ。


「そんなの、これが実現したら、ボクだって辛いよ! でも、子供の私たちには、何も出来ないんだよ。大人たちの言うことに従うしか、ないんだよ!」


いつからだろう、ボクの眼は、いつの間にか【シズク】で溢れていた。そして気付けばボクは、ナギちゃんの肩を掴んで、必死に訴えかけていたようだった。

ナギちゃんが、ボクのあまりの威勢に驚いたのか、キョトンとした顔をしている。


「悪いことしちゃったかな」


ボクがそう思った次の瞬間、僕はナギちゃんの腕の中にいた。


「ナギ、ちゃん?」

「わかってる、わかってるんだよ。でも、それを認めたくなかったの。私もまだまだだなぁ、シズクにこんなこと言わせちゃうなんて」


その声は、涙ぐんでいて、どこかに憂いを含んでいる複雑な感情音だった。

その音だけで、ボクはナギちゃんが愛しく思えた。


「ううん、ボクこそごめんね。夢くらい、見ててもいいよね。ナギちゃん、今は、今だけは、ずっとこのままでいよう。この温もりを忘れないように」

「うん」


それ以上、ボクたちに言葉はいらなかった。


数十分の間、ボクたちは一緒だった。


「ガバッ」


突然ナギちゃんは、ボクを離した。


「ど、どうしたの、ナギちゃん」

「シズク、やっぱり私、今だけなんて我慢出来ない。この先もずっと、こうしていたい。そのために、たとえ、罰せられたとしても、私は大人たちに抗いたい!」


「ご、強欲だ」


ボクは一瞬躊躇った後、軽く微笑む。


でも、それもナギちゃんか


「わかった、協力する。ボクたちの想いを伝えよう。抗おう、ナギちゃん!」

「うん!」


ボクたちは二人で【ナギ】の木だ。


縁結びの木である【ナギ】のように、これからも愛を育んでいこう


だからそのために、ボクたちの枷となる大人に抗うんだ……










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