それでも彼女は温かい。(2)
僕が彼女と初めて出会ったのはもう、ちょうど九年前のことだ。
僕が小三の夏休み、親の転勤で引っ越して来た
あいつと彼女のことを今でも覚えている。
親同士の挨拶につれて行かれたとき、僕達は出会った。人見知りだった僕は母の背中にかくれていたが、
そんな僕に対して彼女は、
「山に虫採りに行くぞー!」
と、いきなり叫んできた。
あのときは何言われたか理解できなかった.
まぁ、僕もつられて
「…おぉ!」
と、小さく叫んでいたが。
そして出会った初日から山で泥だらけになるまで虫採りに熱中した。
そんなこんなで、彼女とあいつと一緒に毎日の
ように遊ぶようになった。(遊んでいたというより彼女に振り回されていた)
だが、僕はそんな日常が嫌いでは無かった。
むしろ好きだった。毎日、放課後を待ち遠しいと感じるようになるくらいには。
しかし、彼女が中学に上がった頃くらいから、
彼女と遊ぶ機会はどんどん減っていった。
しかしそれは偶然ではなく、必然だったのだろう。
疎遠になっていく前から漠然といつかそうなってしまうような気がしていた。
確か、そんなときだったと思う。
自分の彼女への好意に気がついたのは。
最初は何故か彼女がよく頭に浮かぶだけ、
彼女をよく目で追ってしまうだけだった。
たまたまだと思っていた。
しかし、偶然では片付けられないほどその回数は増えていき、やっとこの感情が恋というやつ
だと分かった。
しかし頭では分かっていても、その気持ちを受け入れられない僕がいた。
自分の気持ちが誰かにばれたらと考えると怖くて、恥ずかしくて、彼女を避けたり、目が合うと、慌ててそらしたりなんて日々が続いたのを僕は忘れられない。
あの頃は友達やクラスメイトに好きな人を聞かれても、そんなのいないよって、下手な笑顔を作って誤魔化した。
そんなヘタレな僕が彼女に告白なんてできるはずがなかった。そんな勇気なんて持てるはずもなかった。
でも、そんな日々にもいつか唐突に終わりが来る。
本当は唐突何かじゃなかった。一日一日、一秒一秒、確実に終わりは近づいていた。
ただ、僕が気付かなかっただけだ。
ただ、僕がその現実を見ようとせず、目を背けていただけだ。
でも僕が本当に気がついたときには、時効がきていて彼女は高校生になって、本当の本当に会わなくなった。
そして、それは僕の彼女への気持ちの時効でもあった。
少しずつ…少しずつ…彼女のことで埋まっていた頭の中も落ち着いてきた。
彼女が夢に出てくることも、彼女と過ごす日々を妄想することも、彼女と過ごした日々を思い出すことも、気がつけば、いつの間にかなくなっていた。
半年もすれば、彼女に恋をしていたことなんて
過去の出来事になっていた…
久しぶりの彼女との再会は唐突で残酷だった。
「悠くん、何で…私が…二人いるの」
彼女の再会して最初のこの一言からの約一時間の間の出来事を僕はよく覚えていない。
…はずがなかった。僕も忘れられるなら忘れたかった。
でも、ここは、アニメの世界でもなければ、小説やマンガの世界でもない。
心臓がドクンと脈を打ち鼓動が幾度となく速くなっては、脳裏にあの出来事が荒波のように押し寄せてくる。
あの日以来寝ることが怖くなった。
眠れば、悪夢となったあの出来事を思い出す。
そして僕はあの日気づいてしまった。
忘れたと思っていた彼女を忘れられない僕がいることに。
時間の流れと共に終わったと思っていた僕の初恋はまだ…僕の中で…
続いていたということに。
感動の再会そんなもの有りはしなかった。
僕に待っていたのは初恋の人との悲劇の再会だけ…
…いや、僕には彼女との再会の前に別れがきた。
運命という名の歯車は回りだしたら止まらない。どれだけ、世界の不条理を叫ぼうと、嘆こうと、過去は変わらない。
そして誰にも相手にされることはない。
それがこの世界のルールであり、当たり前なのだからという理由で。
時として、この世界は運命は残酷だ。
あの日、魂の方の彼女との別れ際、彼女の足下には、
いつの間にか真っ赤な夕焼け色の彼岸花が一輪、凛と咲いていた。
それはまるでこちらを見ているようでそれが何故か、頭の中にこびりついたまま離れなかった。