悪役令嬢に救いの手を②
ーーー自分の目で見たわけじゃないのに、『真実』なんて語るなよ
東條真弘。
海里さんの双子の弟で同じく東條家の後継者候補。彼と同じく3人の従者を連れている。
そしてーーー、真弘さんは続編の攻略キャラ。
「⋯どういうつもりだ真弘、そいつを庇うのか」
海里さんの冷たい目が、真弘さんの後ろにいる私に向けられる。あからさまにビクッとする私を見て、彼はほくそ笑む。
「⋯ほらな、言い訳もなくビクついている、それに梨沙が怪我するのはいつも玲香がいるとき⋯もう真実が見えてるだろ」
ーーー『真実』
(そうか、やっぱり彼には何を言っても届かない。どんなに抗っても、やっぱり私は⋯)
『悪役令嬢』
その言葉をギュッと唇を噛んで飲み込みながら、とにかく彼らを止めようと踏み出した時、ふいに私の肩に手が置かれる。
「えっ⋯」
振り返ればそこにいるのは真弘さんの3人の従者であり、彼と同じく続編の攻略キャラ達。
「大丈夫だ、あんたは下がってな」
「あなたが出る必要はありません」
「僕達の後ろにいさせること、それが真弘くんの命令です、玲香さん」
3人ーーー、上條翔太、九條斗和、一條瑠衣が優しく笑って守ってくれる。
(わからない、どうして私は彼らに守られているの?)
不幸な結末を辿ると思ってたのに、いや、続編の攻略キャラ達が思いきり出てきてる時点で世界が変わっているのだが。
1人で表情をくるくる変えながら考えていると。
「自分の目で見たわけじゃないのに『真実』なんて語るなよ、それともーーー俺の兄上どのはそんなことも考えられないほどその女に懐柔されたか?」
先程もよりもさらに馬鹿にするように鼻で笑いながら海里さんに言う彼。
「⋯もういい、お前ら行くぞ」
そんな真弘さんに痺れを切らしたのか、彼に掴まれていた腕をバッと振りほどき海里さんは園川さんを横抱きにして、3人を連れて歩いていった。
その姿を見て傷つかなかったわけではないが、今はこの場が収まったことにホッとした。そして同時に真弘さんに近づく。そして静かに私は頭を下げた。
「⋯庇って頂きありがとうございます、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「お前が謝る必要はないだろ、やってないんだから」
スパッと言い切る彼。でも。
「⋯何故でしょうか」
顔をあげて彼の方を向くと交わる視線。
「何故、そう言いきれるんですか」
真弘さん達と何回か挨拶する程度には会ったことがあるが、直接しっかり話した記憶はない。だから顔なじみなだけの海里さんの婚約者である私を助けてくれるなんて思ってもみなかった。
ましてや、やってないなんて言い切る意味がわからなかった。
「⋯まるで庇って欲しくなかったような言い方だな」
「⋯いいえ、助けてくださったことは本当に嬉しかったです」
もちろん庇ってくれたのは嬉しかった。私はもう独りだと思ったから。彼らが来てくれたことがこんなに心強いなんて思ってもみなかった。
「⋯⋯今の質問は忘れてください、今日は本当にありがとうございました」
沈黙に耐えられなくなった私は彼らに笑いかけ、逃げるようにその場を離れた。彼の答えを聞かずに。
人が誰もいない教室に入り、その場に座り込む。
彼らから、一刻も早く離れたかった。
『ラブスクールデイズ』に関わる全ての人から。
関わらないと決めたばっかりだったのに一瞬でそれが崩れたのはやはり私が悪役令嬢だから。
嫌でも認識した。どんなに離れようと思っても出会ってしまうこと。続編の攻略キャラたちも含めて、だ。
(もう一種の呪いね⋯)
フッと自虐的に笑いながら涙を流す。
最近何回涙を流したかしら、なんて数えたくない数字を数えながら。
転校も考えた方がいいかしらーーー。
なんてそんなことも考えながら立ち上がり、家に帰るのだった。
皆さん、yu-kaです。
書き始めて1週間も経っていませんが、たくさんの方に読んでもらえてるようで嬉しいです。
少し話が変わるのですが、恐らくよく設定がわからない単語とかありますよね。
海里や真弘に仕える『3人の従者』とか東條とか北條とか上條などの『似た名前の意味』とか。
それは後ほど物語に入れるつもりですが、もし入れられないようでしたらどっかの後書きで書かせて頂くつもりですのでもうしばらく待っていただけると嬉しいです(*^^*)
今後ともよろしくお願いします。