悪役令嬢に救いの手を①
ーーー会いたくなかった
ここが前世で自分がプレイしていた乙女ゲームの世界だとわかり、私は彼らと関わらないことを決意した。
幸い、海里さんが昨日言った通り、私が虐めたこと(もちろん誤解だが)は生徒達に広がってはいないため、私はただ生徒会をやめたという事実だけが報告されていた。
「玲香様、どうして生徒会をおやめになってしまったんですの?」
「東條様の近くにいられるせっかくの機会ですのに⋯」
「⋯⋯えぇ、ちょっと諸事情で、皆様にご心配をかけてしまって申し訳ありません」
困ったように微笑むと誰もがポッ⋯と頬を赤くさせる。
「いえっ⋯!玲香様を責めているわけでは!」
「そうですわ、それに玲香様は生徒会じゃなくても東條様の婚約者ですもの。いつでもお会いできますものね」
「⋯えぇ、そうですね」
(その婚約者に生徒会を追い出された、なんて口が裂けても言えないなぁ)
笑いながらも内心焦る。
それにしても本当に運が良かったと思うのはヒロインや攻略キャラである婚約者と3人の従者が同じクラスじゃないことに心底安心した。
ちなみに『ラブスクールデイズ』とは改めて説明すると、私立聖曄学園、通称《セレブ学園》に転校してきたヒロインがイケメンな生徒会役員たちと出会い恋に落ちるーーというストーリーであり、攻略キャラは先程も言った通り私の婚約者である東條海里と彼の従者であり生徒会役員の3人、北條真樹、南條陸斗、西條竜二である。
そしてヒロインは園川梨沙で両親が仕事で海外に行ってしまったため、金持ちな親戚の家でお世話になることになり転校してきた。元々庶民の為、セレブな生徒達とぶつかることもあるが素直な性格に誰もが惹かれていくーーというストーリーである。
(⋯あれ?そういえばヒロインてデフォルト名なんてあったかしら、それに続編とかも⋯)
ーーードンッッ
そんなことを考えながら廊下を歩いていると誰かにぶつかる。
「あ、ごめんなさい⋯」
「いえ、こちらこ、そ⋯⋯」
こちらこそごめんなさい、そう言おうとした言葉はぶつかった相手を見て飲み込む。
「玲香さん⋯」
「園川、さん」
彼女は驚き、ビクッとさせる。私達の間には重い空気が流れた。お互いにどうすればいいかわからない。
ていうか、どうして彼女と会うのだ。せっかく決意したことが一瞬で消えた。
はぁ⋯と溜息をつきながらもせっかく会えたというのもあるから話をすることにした。
「園川さん、私はーー、」
話し始めた私に彼女は視線を移し、しっかり話そうと言葉を紡ぎ始めたところで、またしても途切れる。
開いてる廊下の窓の向こうからボールが飛んでくる。
「危ないっ⋯!」
彼女を庇おうと腕を出したが、間に合わず彼女の綺麗な横顔に当たる。そのまま彼女は崩れ落ちた。
「園川さん、!」
勢いよく当たった彼女の頭からは血が出ている。
しゃがみ込み、彼女を起こす。
「大丈夫ですか!?⋯誰か、いらっしゃいませんか!?」
焦る私が呼ぶ声に反応したのは。
「⋯梨沙!?」
今1番会いたくなかった人、来て欲しくなかった人。彼は近づいてきて私の腕から彼女を奪う。
「海里さん⋯」
「玲香⋯」
自分の名前を呼ぶ私の声に反応した彼は私を鋭く睨みつける。そして昨日よりも低い声で言うのだ。
「昨日あんなに言ったのに、またやるなんてな」
「ですから、私はやっていません、たまたま会っただけで⋯」
「ほんとに、何度俺を落胆させれば気が済む?」
パタパタパタ⋯
「海里様!」
「海里さん、どうしましたか!」
「梨沙さん!?」
海里の従者である3人も走ってこちらに来て、梨紗の姿を見て私を睨みつける。
「⋯昨日の話を聞いてなかったようですね、貴女は」
「玲香様」
「てめぇ⋯」
「⋯本当に、もう許すことはできないな」
(⋯叩かれる!?)
海里さんが手を上げ、叩かれるそうになり、その場で目をつぶったがいつまで経っても衝撃は来ない。
「⋯っ?」
ゆっくりと目を開けると海里さんの手を受け止める、誰かの後ろ姿。
「⋯あんたは証拠もなく女性に手を上げるほど落ちぶれたのか?」
ふっ⋯と小馬鹿にするような言い方で海里さんに言うのは。
「⋯っ、真弘さん!?」
海里さんの双子の弟、東條真弘だった。
いよいよ、玲香にとっての新たな王子様の登場です。次回は真弘の従者も⋯?
楽しみにしててくださいね(*^^*)