転生と決意
ーーー小さな希望に賭けて
『よし、海里さん攻略完了!』
(⋯海里さん?)
目の前には病室と思われる部屋で1人の少女がパジャマ姿でゲームをしている光景が見える。
『次は誰にしようかな~♪』
(これは、一体⋯夢、なのかしら)
『えぇ!続編!楽しみだなぁ⋯、出るまで生きてられるかなぁ⋯』
窓の外に遠い目を向け、目を細める彼女。
(私、この光景を知ってる⋯、いや、覚えてる)
そう、これは昔の自分だ。自分は病気で亡くなったんだ⋯。思い出して涙が出てきた。
つまり、生まれ変わって⋯、転生した、ということだろうか。そんな風に考えていると、ふと彼女がしているゲームに目がいく。そしてそのゲームを見て私は『全て』を思い出した。
彼女がやってる『ラブスクールデイズ』というゲームはそう。
(私が今生きている世界そのもの⋯!?)
私はフッと目を覚ました。
そしてガバッと起き上がり急いで鏡の前に行く。
「やっぱりそうだ⋯⋯」
改めて自分の顔を見て驚く。
そう、先程夢で見た通り、ここは前世の自分がプレイしていた人気乙女ゲーム『ラブスクールデイズ』の世界そのものだったのだ。
17年間生きてきて初めて気づいたことに驚くと同時に複雑な感情が芽生える。
前世の自分が長い病棟生活で唯一の楽しみだった『ラブスクールデイズ』の世界で新たな人生をおくれるなんて本当に夢のようで嬉しいと思うと同時に最近でのトラブルや今日のことなど全て辻褄があうのだ。だって私が転生したのはーー。
攻略キャラの婚約者である悪役令嬢なのだから。攻略キャラとは私の婚約者である東條海里のことだ。そしてヒロインは予想通り⋯、園川梨沙。
(そう、だから⋯)
悪役令嬢は本来、転校してきたヒロインが気に入らず虐めるキャラクター。だから、彼女の近くにいるとトラブルとかが起こったのだ。これは誰のせいでもない。恐らくどんな形になろうとなんだろうと『悪役令嬢』という運命を辿るということだろう。そう考えるともう本当にどうしようもないと思えてくる。
ぎゅっと自分の手を握り、もう出尽くしたはずの涙をポタポタと流す。そしてそれと同時にある決意をする。
(卒業まで絶対に彼らと関わらないようにする)
『悪役令嬢』という運命から逃れられないとしても少しは変わることもあるかもしれない。
その小さな希望に賭けて、決意するのだった。
必要最低限以外はヒロイン、攻略キャラともに関わらないということ。昨日彼らに「近づくな」と言われたのだからいけるはず⋯多分だけど。
それに例え失敗しても退学で家から勘当されるだけだから庶民として生きていけばいい。
そして窓に近づきカーテンを開ける。
太陽の光が輝き眩しい。もう朝なのだ。私は数時間後には学校にいる。
ふー⋯と、息を吐き、自分のを手を包み込む。
「今日からがんばろう⋯、悪役令嬢⋯!」