天使について
背中に白い翼を着け地球に降りて迷い子を救う。
あるときは自殺しようとしている人間の所に行って、考えを改めさせる。
───死にたい奴は勝手に死ね。てゆーか寧ろさっさと死んじまえ。
またあるときは、どっかの国の誰かさんに警告を与える。
───何がどうなろうがオレには関係無いだろーが。大体警告した所で結局何も変わんねーし。
神様の予言を伝えるってのもあったな。
───あんなちぐはぐが神かよ。
俺は絶対認めねえ。
殆どが魂の案内役だが。
とまあ、これがオレの仕事だ。
高い給料に不満は無い。
寧ろ少ないくらいだ。
問題なのは日々溜まっていくストレス。
あんな端金じゃ収まりつかない。
毎日毎日、迷える人間どもににこやかに笑いかけて天使様の言葉を聞かせる。
地上に留まりたがって駄々捏ねる魂の説得。
バカな上司に当たり障り無く優秀な新人として接する。
マジであり得ない。
オレがしたかったのはこんな事じゃない。
オレが夢見ていたのは奴隷をこき使い、迷う人間を高見でせせら笑いながら、高い給料で遊びまくる事だ。
アカデミーを楽々首席で卒業し、天使悪魔派遣会社に就職できたのまでは予定通り。
しかし、そこで連れて行かれたのは何故か天使課だったのだ。
おいおい、待てよ。
オレは確かに採用試験の部署選択の欄で悪魔課に丸を着けたぞ。
(余ほどの事がないかぎり)あなたの希望にそいますって書いてあったろーが。
内心かなりいらつきながらもそれをおくびにも顔にださなかったオレは偉い。
そして大天使の称号に輝く上司様はびくびくしながらオレにこうのたまった。
「採用試験を作成する者五人は毎年くじ引きで決められるのだが今年は運悪く全員悪魔課のほうにいってしまってね・・・。
合格者が、その・・・、君を含めて二人しか出なかったんだ。
こんな事は異例でね。
今まで一度も無かったんだが・・・。
その・・・、君は我々の仕事をする上で一番大切なのは何だと思う?」
おどおどしてうぜー奴だな。
でもこれで試験が馬鹿みたいに難しかったのは分かった。
試験時間中、部屋の中で
「こんなはずない!!」と泣き叫びぶっ倒れる奴や
「こんなん解けるわけないだろっ!!」とか逆ギレする奴がかなりいたことも。まあ、俺には関係ないけどな。試験管がそんな奴等を見てニヤニヤ笑ってた事もよぉぉっく分かった。
この仕事をする上で大切な事?んなの決まってる。
「本人の人柄でしょうか」
これ以外に無いだろ。
悪魔的性格の奴が天使なんてできる筈もなく。
その逆も然り。
なのに大天使様は微妙な顔。
「それが違うんだよ。
仕事はマニュアル通りにやればある程度出来る。
一番大切なのは対象者が我々を見てすぐに天使か悪魔か判るかとゆうことなんだ。
見ての通り仕事の量に対して明らかに人員不足でね。
効率よく仕事を進めるにはこれ・・・、つまり容姿が一番重要なんだ。」
と聞きたくもない裏事情を暴露してくれた。
なるほどね。
確かにオレは見た目悪魔とは見えないわな。
十人に聞けば十人が天使みたいだと言うだろうよ。
ダチは皆オレの見た目と中身の違いにかなり驚くし。
けど、ものは持ち様だ。
オレが笑いかけりゃ、たいていのバカな奴は言う事を聞くし。
これまで上手く利用してきた。ここで目の前にいるアホをぶん殴っても誰も文句は言わないだろ。
しかし、これから少なくとも転属出来るまではこのバカと付き合うことになるだろうし・・・ここで逆らうのは利口じゃない。
「大変言いにくいのだが・・・こういう訳でで君は天使課に配属されたんだ。」
「・・・よかった。」
さも安心したように息を吐き出す。
アホは不思議そうにしてるが何て事は無い。
オレの演技力は役者である母親のお墨付きだ。
因みにポイントは斜め45度の上目遣い。
「実は僕、試験の時緊張しすぎて誤って悪魔課に丸してしまったんです。
もう、どうしようかと不安で不安で。
悪魔なんてできそうもないし・・・。
本当に助かりました!」
オレがにこやかに言うと大天使さんはかなり安心したみたいだ。
張っていた肩が落ち、その顔には輝く笑顔が。
「そうじゃないかとは思っていたんだよ。
いやあ、本当に良かった!」
んな訳ねーだろが、バカ野郎。
確率だってゼロじゃないんだから予めそれぞれの部署から選出するようにしとけよ。
お前のせいでオレの人生計画総潰れなんて冗談じゃねーぞ。
「よかった、よかった。
それじゃあ、これからよろしく頼むよ、アゼル君!」
「はい!」
握手を交わしながらオレは心に誓った。
絶対来年には悪魔課の方へ移ってやる!