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第一章 3-1

 おばあさんの家の近くにあるセブンイレブンへ立ち寄り、オムライスとサラダを二つずつ買って、アパートへ帰った。すると妻が既に仕事から帰っていて、リビングのコタツに収まってテレビを観ながら紅茶を飲んでいた。妻は紅茶が好きで、色んな販売店へ足を伸ばしては様々な銘柄を買ってきて、毎日のように飲んでいる。


「お帰り。散歩してきたの?」


妻はのん気に笑顔を浮かべて言った。


「いや、まあ……散歩みたいなもんだけど。ああ、悪いけど今日の夕飯、これでいい? 小説の良いアイデアが浮かんで、今すぐ書きたいんだ」


 僕は妻とは対照的にやや興奮して言い、コタツの天板にオムライスの入った袋を置いた。妻はアルコールの入ったとろりとした眼をしてそんな僕を眺めて、いいよ、と言った。妻は小山市の昼キャバクラで働いている。僕は行ったことは無いが、小山に一軒だけ昼キャバクラという形態の店があるそうだ。


「悪いね。今日こそ、いい小説が書けそうなんだ」


「ドン・キホーテに行った甲斐があったね。行ったんでしょ?ドン・キホーテ」


ドン・キホーテとは僕が今日行った喫茶店の店名である。


「ああ、行った」


 僕はなぜだかどきりとした。今日あった出来事の中で、あのおじさんとの間にあったことだけが、夢のように非現実的な印象をまとっていた。


有紀(ゆうき)くん、煮詰まると、いつもあの喫茶店に行くもんね。アイデアが浮かぶんなら、コーヒー代くらい安いもんだよ」


「そうだね」


 僕は若干の気まずさを持って答えた。コーヒー代どころか、おじさんと僕の分を合わせて四千円以上使ってしまっていた。しかし、それだって小説が売れさえすれば確かに「安いもん」である。


「じゃあ、部屋で書くよ」


 僕がそう言って自分の部屋へ行こうとすると、妻が、コンビ二の袋をガサガサさせてオムライスを取り出しながら、


「食べないの? 一緒に食べようよ」


「後で食べる。今すぐ書きたいんだ」


「そっか、分かったよ」


妻はうんうんとうなずいて、オムライスをひとつ持って、レンジで温めるためだろう、台所へ向かった。


 僕は部屋に入って、机に座り、パソコンを立ち上げた。パソコンが立ち上がるまでの間、両手で顔を覆った。きっと、売れる作品が書ける。そう自分自身に念じていた。


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