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貝殻の島

作者: ぺんぎん

貝殻を題材にした短編小説です。楽しんで頂けたら幸いです。

 ぼくは貝殻が嫌いだった。


 ぼくの島は貝殻で出来た、貝殻の島だった。


 貝殻ばかりで何もない島。


 大人達は貝殻を材料にして、貝殻で出来たものなら、なんでも売っていた。

 物心ついた頃から、ぼくは貝殻に埋め尽くされていた。


 何もないくせに、貝殻だけがある島。


 周囲が嬉々として貝殻を拾う姿を見ても、ぼくは何も思わなかった。

 ぼくの目には、ごみを拾って喜んでいるようにしか見えなかった。


 このことを誰かに言ったことはない。


 ぼくの感覚が周囲と違うことなんか、とっくに理解していた。

 

 否定されることが怖かった。


「変な島ね」

 

 ある日、観光客に、同い年ぐらいの女の子がいた。


「貝殻ばっかり」


 女の子の家族はこの島をすっかり気に入った様子だった。

 なのに、女の子の目には奇妙に見えたらしい。


 貝殻の島には、貝殻の店ばかりが並んでいた。


 店の前で、女の子が本音を言ったものだから、彼女の親は実に気まずそうに謝っていた。

 ぼくは女の子が泊まっている民宿を訪ねた。


「さっきの店の子よね」


女の子はすぐに気が付いた。


「まだ怒っていたの?」

「違うよ」


 ぼくは首を振って、女の子と話をした。


「ぼくも君と同じなんだ」


 警戒されたけど、ぼくと彼女はよく似ていたから、すぐに打ち解けることができた。


「やっぱりこの島って変わって見えるんだね」

「だってこんなに貝殻がある島なんて見たことないもの」


 ――二泊三日。


 それが彼女の滞在期間だった。

 ぼくは時間を見つけては、彼女に会いに行った。


「お店はいいの?」

「大丈夫だよ、店番の時間はまだだから」


 ――そして、あっという間にその時は来た。

 

 彼女は今日、島を出る。


「寂しくなるね」


ぼくが別れを言おうとすると、彼女はぼくの腕を掴んで海岸に連れてきた。

どうしたのかと思えば、彼女は言った。


「綺麗な貝殻を探して」


 正直に言うと気が引けた。

 彼女にごみを押し付けるみたいで嫌だったからだ。

 だけど、断ることもできなかった。


 結局、光が反射する透明な貝殻を選んで渡した。

 不格好で、お世辞にも綺麗な形はしていなかった。


 なのに、彼女は太陽に翳しながら、眩しそうに呟いた。


「ありがとう、綺麗な貝殻ね」


 彼女もまた、ぼくに貝殻を渡してきた。


 形自体は歪だった。

 だけど、ぼくはそれを汚いとは思わなかった。


「綺麗だね、ありがとう」


 きらきらと輝く貝殻だった。

 少なくともぼくにはそう見えていた。


 彼女は家族と一緒に島を後にした。

 ぼくはその姿を見送りながら、彼女がくれた貝殻を握り締めていた。(了)


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