第41話 江里さん、キレたってよ
下駄箱の前に着いたのに……江里さんが手を離してくれません。
手を離すことなくブラウンの革靴に履き替えてしまった江里さんが僕を見て不思議そうにしていた。
「……靴、そのまま?」
いやいや、履き替えますよ!? ……けど僕は江里さんほど器用じゃないので手を繋がれていたら、履き替えられる気がしない。
ただでさえ不器用なのに、周りの視線が凄いのだ。
すれ違う人、すれ違う人皆凄い形相して見ていくからね。メンチビーム怖い。
「……手を、離してくれますか?」
「……だめ」
江里さんはきっぱり、はっきりと拒絶を口に。その表情はクールビューティーモードの凛としたものだった。
そんなキリッとされても……履き替えないと帰れないんですけど?
「な、なんで?」(どうしてダメなんですか?)
「……だって、また……ここまで……?」
「ここまで……?」(ここまでってどういうことですか?)
「……ま、またっ!? ……またぁーっ!!」
よく分かんないけど江里さんが眉をきゅーっと寄せて、空いている手で僕の胸を叩きながら「また……だめーっ!!」と喚いている。
ちなみに叩かれているはずなのに全く痛くない。音で表すなら、ぽかぽか……いや、ぽふぽふの方が近いかもしれない。
「あの……江里さん?」
「…………」
江里さんにそう声を掛けたら喚くのを急にやめてそっぽを向いてしまった。……ぽふぽふだけは継続されていたけど。
「江里さん?」
「……今……“怒ってる”」
起こってる? 一体何が起こってるんだ?
そっぽを向いたまま江里さんが呟いた。……今度はぽふぽふも止まった。
顔が見えないので表情から読み取ることもできず、まるで意味が分からない。
……とにかく手だけでも離してもらおう。
「……手、離してくれますか?」
「……あん……」
あん?
今度は俯いてぷるぷると震えだして……、
「……Angry!!」
そう叫んだと同時に顔を上げてこっちを向いた江里さん。アングリーを強調するためだろうか、ぽふぽふも再開された。
涙目になりながら眉を顰めて。
口を曲げながら下唇を噛んで。
片手で叩きながら指を絡めて。
……江里さんはどうやら怒っているらしい。
どう見ても駄々っ子GODDESSが再臨したとしか思えないんだけど……。
「……手離して……靴、替えられません」
ひとしきりぽふぽふして江里さんが落ち着いたところでもう一度伝えた。
「……ん。替えたら……すぐ繋ぐ。何も言っちゃだめ」
……そうしたら何故かこくりと頷いて江里さんが素直に手を離した。よく分からない条件がついていたけど。
江里さんの気が変わらないうちに! と素早く靴を履き替えたら、すぐにまた手を繋がれてしまった。
「そーくん」
「はい」
「……ちがう」
「……はい?」
「よ・び・か・たっ! ……あんぐりーぃ!」
……あっ。
やっと江里さんが怒っている理由が分かった。
どうやら僕が“えざと”って呼んでいることにご立腹のようだ。
怒っている理由は分かったけど、僕には分からないことがもうひとつある。
……なんて呼べばいいんだっけ?
正直言うとあの時の記憶があまりない。
呼び方うんぬんよりも衝撃的なことが多過ぎたからだ。
まず、江里さんの脇腹をつついた時の反応。
それから、どんどん顔が近付いてきたこと。
最後に、とどめはごはん粒を食べたことだ。
そこで僕は一番無難な呼び方を選んで、覚悟を決めて口を開いた。
「……み、美奈さん?」と。
実は月曜日に予約している分です。
今日は多分しきはら出張後の飲み会に連れ回されている気がするので、保険をかけておきました。(てへぺろ☆
これが予約投稿(23:00)されている場合、感想の返信も出来ていないと思いますので、先にすみませんでした! と、しきはらは未来に向かって土下座しておきます。(土下座





