第12話 お仕置きは零距離で、より過激に。
「…………」
僕の横を無言で通り過ぎていく美奈さん。
表情だけ見ると凛とすましたものなのでクール美女にしか見えないけど、ボタンを掛け違えたブレザーを纏い、アホ毛を揺らしながら目を瞑って歩く様は異様だった。
……もしかして僕を笑わせるためにわざとやっているのかな? と本気で思慮してしまう程度に美奈さんはぽんこつ天然なのである。
ゆっくりと、けれど確実に一歩ずつ歩みを進めていくその先には……電信柱が待ち受けている。
このまま止めなければ美奈さんは九分九厘電信柱にぶつかるだろう……。
さてどうするべきか。
僕に残された対応はふたつ。
ひとつは衝突を回避するために止めに入る。
当然と言えば当然の行動。
“平時”ならば間違いなくこれを選んでいたと思う。
――そう、“平時”ならね。
「…………」美奈さん――電信柱までの距離残り1m
今の僕はナチュラルハイ。誰も僕の暴走を止めることはできないのだ。……そもそも止めてくれる人がいないだけなんだけどね。
「…………」美奈さん――電信柱までの距離残り50㎝
ジリジリと電信柱に接近していく目瞑り美奈さんを横目に、僕はふたつめの選択肢を選ぶことにした。
それは――そのまま見守る――という選択肢だ!
一見極悪非道にも思える残忍な選択肢かもしれないけど……なぜこんな状況に陥っているのかを考えると真っ当な判断だと思う。
「…………」美奈さん――電信柱までの距離残り30㎝
だって美奈さんはどうして目を瞑ったのか答えてくれずに勝手に歩き出してしまったのだ。
僕は別にその場から動くなと言われた訳ではないし……何よりも電信柱に当たって涙目になるかわいい美奈さんが見たいだけなのだ!
……クックック! 僕はなんて悪いことを考えてしまったのだろうか。自分で自分が恐ろしい!
「…………」美奈さん――電信柱までの距離残り20㎝
……いや、でもちょっと待てよ? もし美奈さんの顔に傷なんてついてしまった日には僕は間違いなく罪悪感に押しつぶされて死ぬ気がする。
あぁぁぁぁぁ!! 僕は一体どうすれば!?
涙目美奈さんも見たいけど、傷が付かないように守ってあげたい気持ちもある……。
「…………」美奈さん――電信柱までの距離残り10㎝
「美奈さん! ストーップ!」
結局僕は“平時”と変わらぬ選択肢を選んだ。
もしケガでもしたら? と想像しただけでキリキリと胃が痛み、我慢できずに声を掛けてしまった。
「……んっ!? 君孝くん……いない……!!」
きっと目を開けたのだろう……いきなり眼前に現れた電信柱に驚いたようで、美奈さんがビクッと身体を揺らしていた。僕の目の錯覚なのか、アホ毛がぴーんと一直線に立ったような幻覚も見えた。……もしかしてあれはアホ毛じゃなくて、触角!? 冗談だけど。
「こっちです」
「な、なんで??」
「どういうことですか?」
「……君孝くん……おはよっ」
「え? ……おはようごいます」
すれ違い続ける会話は何故かふりだしに戻った。
意味が分からないし、訳も分からない。むしろ何も分からないまである。
「……ん!」目瞑りを再開する美奈さん
「また!?」
思わず声に出てしまった。
会話どころかもしかしたら時を遡っているのではないかとすら思う。
先程の行動から予想すると美奈さんはこの後こっちに向かってくるはずだ。
「…………」目瞑り美奈さん――前進開始
……やっぱり。間違いなく美奈さんはさっきまでの行動を再現しようとしている!
ここで避けたら無限ループに突入するのが目に見えたので、今度はその場から動かないで美奈さんを待ち構えた。
「……君孝くんどこ?」
今度は僕が動いていないか警戒しているらしい。
アホ毛センサーをぴょこぴょこ揺らしながらキョンシーのように手を前に出して接近してくる。
何となく僕が返事をしなかったら「へ、へんじしてっ!?」と不安そうに眉を八の字にして、焦ったようにおろおろしている美奈さん。
嗜虐心をそそる反応に僕は心の中で吠えた。
かわいいよ? もちろん最強で最高にかわいいですよ?
けどね……美奈さん、そろそろ目を開けてぇぇぇぇぇぇええええええ!?
「はい」
「……いじわる……したぁ!!」
「ちゃんと返事しましたよ?」
「…………」
遅れて返事をしたら今度は美奈さんが僕に意地悪をする番らしく、キョンシースタイルを維持したまま目の前までやってきた。相変わらずアホ毛は立っているし、ブレザーのボタンはズレたままなので笑いを堪えるのがキツかった。
やがて突き出されていた美奈さんの手が僕の胸板に当たって、何かを確かめるようにもぞもぞと指を這わせてから徐々に上にあがり……
「……いじわるしたから……お仕置き」
「え? 美奈さ――んぐっ!?」
美奈さんの手が首を通り越して両頬に到達した瞬間、動けないようにホールドされた。
ひとりで驚いていたら、目を瞑った美奈さんがいつか聞いたような言葉をぼそりと呟きながら端麗な顔を近づけてきて――そのまま唇を覆われてしまった。
……まごうことなき口付けであり、接吻であり、キスだった。
いつもならここで僕がおろおろして終わるんだけど……今回は違う。
何故ならば僕は徹夜明けのナチュラルハイだ。
むしろこの状況を楽しんで――っ!?
「…… …… 」
そんな美奈さんの甘い声が聞こえたところで“予期せぬ刺激”を受け、僕の記憶はそこで途切れたのだった……。
~レビューのお礼~
春が過ぎて、私のところにも研修を終えた新入社員くんが来てくれました!
フレッシュで見ているだけで眩しくて……しみじみと老いを感じました(泣)
これから大切に懇切丁寧に社会の汚さを教えていくつもりです(ゲス顔)
……なんて冗談ですよ?(ニッコリ)
そんなこんなで? みーにゃ様レビュー43件目ありがとうございます!!
>甘々な展開に砂糖を吐きながら壁に穴を開けていました(笑) ←や、やべぇ! 壁に穴開けながら笑ってやがる……だと!?(ヒエッ) もっと穴開けさせなきゃ!(笑)
>カテンフェは砂糖の3250倍もの甘さを誇り ←どういうことなの!? まず砂糖の3250倍というのがピンとこない!!(笑) 食べた瞬間全部の歯が虫歯になりそうな気がします(笑)
カテンフェ……ふむふむ、全然知らなかったです! ひとつ勉強になりました! みーにゃ様ありがとうございますね!
「……ん? 赤いの……とうがらし?」(カテンフェの実を何故か手に持っている江里さん)
「ちゃう! それカテンフェの実や!!」(引きつった表情のみーにゃ様)
「……かてんふぇ? …………なんか、あまいにおい……するっ!」(くんくんしている江里さん)
「食べたら美味しいでぇ~!」(ゲス笑みを浮かべたみーにゃ様)
「……ん! みーにゃくんに、あげる!」(親切江里さん)
「えっ!? ちょっ、……えぇい、ままよ! ――あみゃぁぁぁぁあああああ!?」(食べた瞬間に全ての歯が抜けたみーにゃさまだった……)
……みーにゃ様、入れ歯にすればカテンフェ食べれますね!(ニッコリ)