力を使わずに王国を生き延びる 7
4日目。
今日も魔術の授業から始まる。
昨日は魔術の授業だけだったため、今日の授業の半分は魔物について教えてくれるらしい。
魔法はみんなかなり上達しているようだ。
特に最初から魔力操作のスキルを持っている莉子は無属性の初級魔法を無詠唱で安定してできるようになったらしい。
他の人はまだ詠唱破棄までしかいけてないそうだ。
ちなみに無属性魔法である“浮遊魔法”の詠唱は
《神に望むのは浮遊、我に力を分け与えたまえ!》だ。
これが初級魔法の中でも詠唱が少ないほうらしい。
勇者召喚されて、魔法の才能があるといえど魔法にはかなり時間がかかりそうだ。
3人の初級魔法を見ながら昨日借りてきた本を読む。
改めて莉子の魔法を見てみると、他の人と違って魔力の流れや発動スピードがスムーズにできている。
魔力の流れはなんとなくわかったりする。
なんかぼやけている何かがあったと思ったら、それが魔力だった。
莉子の場合はそのぼやけている何かのスピードが速い。
零は他の人たちと変わりはなさそうだ。
剣も一流で莉子と同じくらいの魔法が使えたらたまったものじゃないだろう。
悠馬は残念ながら魔法が苦手らしい。
完全に脳筋で肉体派なので“身体強化魔法”とやらを極めればいいと思う。
周りをキョロキョロ見回していると、莉子以上魔力操作が上手いやつがいた。
あのイケメン野郎だ。
さすが人善神と言ったところだ。
剣術ではすでに俺を抜き、魔法では莉子以上。
このクラスをまとめるだけはある。
けどこいつの事だけは、認める気になれない。
うざいから。
そして何事もなく魔法の授業を終えた。
次は魔物について。
「えーと。魔物は大きく6つに分類されます」
魔物には下級から神級まで存在する。
下級 …… 一般男性が、武器を使いギリギリ勝てる
程度
中級 …… 一人前の力を持ってる人が倒せる程度
上級 …… 恵まれたスキルを持った選ばれし者が倒
せる程度。
災害級 ……英雄が1人いて倒せる程度。怒らせたら
町が滅ぶ。
天災級 …… 英雄が数人集まって倒せる程度。怒ら
せたら小国が滅ぶ。人善神が一人で倒せる。
神級……人善神が3人集まってようやく倒せる。三大国が容易に滅ぶ。
英雄とは国の危機を救った人や、常人とは違う力を持った人だ。
人善神は英雄を優に超えて、他の勇者召喚された人も英雄かそれ以上の力を持っている。
ちなみに英雄はこの世界に確認されているだけで15人いて、この国には3人しかいないらしい。
その上を行く人善神は今の所4人いるが、1人行方不明。
しかも、死亡している2人の後継者が現れたという情報は入ってきていないので6人全員集まるのは少し先になると思う。
神級は伝説上の魔物で、未だに一回しか確認されていない。
頻繁に確認されていたら国は滅んでいるだろう。
「魔物を倒すと、その魔物の力が少し自分に与えられます」
うむ。
ゲームでいう経験値みたいなものだろうか?
「自分より強ければ強いほど得られる力は大きくなります」
例えば、俺が今災害級を倒したら物凄く強くなるってことか。
「ですがある程度体ができあがっていないと、失神、もしくは死に至ります」
なるほど。
力が離れすぎると貰える力が大きすぎて、そのような症状が出るという事か。
「あと、魔物からは心臓の部分に魔石というものがあります。魔石は高価売れるので必ず取ってくださいね」
魔石はあの水を流したり、いい匂いを発するやつだ。
魔物から取っておけば金にもなるし、自分で有効的に使える物もあるだろう。
その後は、これから先に倒すこのになる下級の魔物の説明をされた。
お次は剣術。
「よし。お前達の成長はあり得ないほど速い。もうそろそろ対人戦闘を学んでみよう!」
どうやら今日から対人戦闘をやるらしい。
今までずっと走って素振りをするだけだったから、クラスメイトはすごく喜んでいる。
俺は実力がはっきりしてしまうのであまりやりたくない。
「では2人1組のペアになってくれ」
クラスメイトがそれぞれの仲の良いグループに別れる。
当然俺たちは4人で集まった。
「男子同士で組もうか」
当然だ。
零なら俺の剣術では擦りもしないから問題ないが、莉子とペアになってしまったら攻撃できるわけがない。
万が一莉子に怪我でもさせてしまったらクラスメイトに何されるかわからないからな。
「私は悠馬と組むわ」
「そうだな。ちゃんとやれよお前ら」
「う、うん! 秋君よろしく!」
あっという間に話が進んでしまった。
こいつら俺が攻撃できないのを知ってるよな?
それなのになんで……
「はいはい、わかりましたよ」
莉子がすっかりその気なので反論できるわけもなく、その提案を受け入れた。
「よし! 2人1組に別れたな。 では早速教えよう」
そこから、騎士団長のザベスが対人戦闘の簡単な技術などをみっちり教えてくれだ。
「では早速実践をしてみよう」
「「「「はい!」」」」
それぞれ戦闘しても接触しない程度に散らばって武器を構える。
よし。流石に莉子には負けるわけにはいかないな。
莉子は魔法に特化していることと、性格が優しいため直接戦闘はこのクラスで一番苦手と言っても過言ではない。
なるべく怪我をさせないようにしてダガーを狙うようにしよう。
だが軽い怪我をしても今の莉子ならすぐ治せるはずだ。
回復魔法はまだ習ってい無いとはいえ、魔力操作が飛び抜けている莉子は回復魔法だって初級魔法ぐらいなら普通に使えると思う。
「開始!」
と言葉をかけられる。
少し離れた場所にいる莉子を見る。
緊張してるな。流石に刃が付いていない剣といえど、痛い物は痛い。
しかも、俺は何回か零とやったことがあるからそこまで緊張していないが、莉子は初めての戦闘になる。
俺も最初は緊張したなぁ。
いざ戦闘が始まると、頭が真っ白になってどう動けばいいかわからなくなる。
まさに莉子はその状態だろう。
よし、俺から動いてみるか。
俺が莉子に向かって剣を構えながら、走り出す。
そこまで素早く動いてはいなかったので、莉子が普通に反応して構える。
俺が剣の届く範囲まで近づくと、莉子のダガーに向かい俺の半分程度の力で剣を振るう。
カキンッ!
金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴った。
莉子はまだ緊張しているのか、少し動きが鈍い。
そこから数度剣を交えて、俺は一旦距離を取るために後ろに下がる。
よし、次からは少し本気でいこう。
俺の持つ全力で莉子に向かって動き、剣を振るう。
驚いたことに莉子はすぐに反応した。
カキンッ!
1撃目を完全に防がれた。
俺は少ない動作で出せる最大の力で次の2撃目を放つ。
俺はこの時全力を出した。
間違いなく俺の持っている力を全力だ。
男が女に全力を出しているなんて、カッコ悪いかもしれないけどそんなものは知らない。
1度目の攻撃で彼女にも実力がついていることがはっきりとわかった。
莉子に対しては全力じゃなければ練習にならないと判断した。
カキンッ!
そう。
俺は全力を出した。
だが、俺の剣は今地面に転がっている。
「なっ!?」
誰も想像しなかった結果に場が凍る。
「「「「あはははははっ!!」」」」
クラスメイトが一斉に笑い出した。
「だっせ!! まさかの魔法特化の鈴木さんに負けるとかヤバすぎだろ!」
「ギャハハ!! よっわ!」
「………………」
落ち着け。
ここで動揺するようじゃただのガキだ。
まずは何故こうなったか。
俺は確かに莉子のダガーに片手剣を全力で放った。
それなのに、莉子はダガーは俺の剣速を上回ってきた。
完全に力負けしたのだ。
男が女に。片手剣がダガーに。
確かに剣術のほうでは俺が少しだけ上回っていたと言っていいだろう。
しかし、成長のスキルはスキルの成長だけではなく、身体能力にも大きく影響を及ぼしていた。
見た目では地球にいた頃と何も変わっていない。
だが、莉子は明らかに全ての能力が上がっている。
俺の想像よりも遥かに早く。
確かにみんなの剣を見ていた時は剣術スキルを上げようとしていたため、身体能力はそこまで見ることができなかった。
だが、実際に剣を受けた時の重さが全く違った。
俺も対人戦闘は少しやっていたと言っても、零程ではない。
俺はただ対人戦闘を甘く見ていたこと。
そして、俺の弱さ。
それが今回の原因だ。
それにしても対人戦闘が初めての女の子に負けるというのはなかなかメンタルが………
「ご、こめんなさい! 秋君大丈夫?」
「大丈夫。あと謝らなくてもいいよ。俺が弱いのが悪い」
凄くダサい。
「ちなみに莉子から見て俺はどうだった? 遠慮なんかいらないからズバッといっていい」
「え、えーとねぇ。か、かっこよかったよ!! 」
「いや、そうじゃなくて。俺の剣やら動きやらはどうだったってこと」
「あっ………きゃあああ! 何てことを……私は……」
相変わらずおかしな子だ。
「ご、ごほん。それで秋君の戦闘だったよね? はっきり言っていいの? き、嫌いにならないよね?」
「嫌いになるわけないだろ?」
莉子の頬が少し赤くなったのは気のせいだろう。
「え、えーと。はっきり言っちゃうと、全体的に遅かったのと男の子にしては力があまりなかったかなぁ……なんて!」
やっぱりそうか。
“成長”のスキルを持っている莉子とはここまで差があったのか。
だが、こんなところで躓くわけにはいかない。
「よし。俺じゃ相手にならないかもしれないけど、またお願いしてもいい?」
「もちろんだよ!」
そこからは俺が一方的にボコボコにされて今回の訓練は終わった。
詠唱雑ですみません。
3/20 鈴木莉子のセリフを一部修正しました。