力を使わずに王国を生き延びる 3
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アキ・タサカ
称号 植物博士
スキル
剣術 1
スキル獲得不可能 10
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「……………」
まず植物博士ってなんだ!
もっとかっこいい称号なかったのか?
俺は竜騎士とかそんなかっこいいやつのほうがまだ良かったと絶対良かった。
植物博士って………くそダサいな。
確かに元の世界だったら植物の知識なら自信あったけど、称号に反映されるほどでもないと思う。
お情け程度の剣術は結構自己流でやってたことがあったから 1 がついていたのだろう。
1度だけ零と一緒にやった時があったけど、その時は筋がいいとか言われて調子乗ってボコボコにされたことは秘密だ。
次に、スキル獲得可不能 10 ってなんだ!
これ名前通りにこれ以上スキルを手に入れるとこができないやつだろ?
あの力がある所為か?
あの力は元の世界では戦闘力なんてものは全くなかったから、この世界でもやっていけるかがわからない。
けど、異世界だからまだ希望は残ってるはず。
異世界特有のやつがあるはずだから絶望するにはまだ早い。
ちなみにこの力はあの3人には言ってない。
言ったら面倒ごとになるに決まってる。
俺の力を知らない3人はこのスキルを見たら絶望するだなぁ。
なんて思いながら3人の顔を見る。
「「「……………」」」
完全に固まってる。
そりゃそうだ。
このスキルだけではクラスメイトよりも格段に弱い。
剣術だけで悪神人を倒せるわけもないだろう。
要するに役立たずってわけだ。
「あーー、なんだ、その〜がんばれよ」
「大変だろうけどがんばりなさい」
「だ、大丈夫だよ! 私がま、守るから!」
3人が俺を可哀想な人を見る目で見てくる。
さすがに泣きそうになってきた。
俺達の反応がおかしいのに気づいたクラスメイトが秋のスキルを見に集まってきた。
「ぎゃはは! おまえ雑魚じゃん!!」
「植物博士って……ぷっ」
他にも散々言ってくる。
やめてくれ……すでに俺のライフはもうゼロだ。
「こ、これは……」
王女様も反応に困っている。
「はぁ………」
せっかく楽しくなると思った異世界生活も終わりか……
そうして秋の異世界生活は絶望から始まった。
★
勇者召喚されて次の日。
スキルの確認後はそれぞれの個室に案内されて豪華な飯を4人で食べ、風呂に入ってそのまま就寝。
今日から勉強や訓練が始まるらしい。
午前は魔法とこの世界の勉強。
午後は主に武器を使った訓練だ。
俺の今後の行動方針は決まった。
ここ数年間は全力で強くなって後はダラダラ過ごす!
以上だ。
この世界は日本と違って、一歩間違えればすぐ死ぬ可能性があるところだ。
それなら簡単には死なない程度の強さになり、後の人生を農業でもしながら生きる。
俺は前の世界ではダラダラ人生を送っていたが、やる時はやる男だ。
けど、俺はみんなと違いスキルを覚えられない分努力しなければいけないだろう。
これからどんな地獄が待っていることやら。
ちなみに俺も一応まだ希望が残ってるかもしれないので魔法の勉強には参加する。
なぜならスキルはある基準に到達することで獲得できる。
よって、スキルは技術の進歩の早さや少しの補正を与えるものであってスキルが無いからといって何もかも極めることができないわけでは無い。
他の人よりは何十倍も時間は掛かるだろうが魔法や体術を極めることはできるはずだ。
初日の今日はクラスメイトからの希望が多いため、世界の勉強は無くなって魔法の授業だけになる。
みんなは早く魔法が使いたいからだな。
今は7時。
ちょうど支度を終えて食堂に向かう時に、莉子に会った。
「おはよう」
「お、おはよう。秋君、今からご飯?」
(まさか朝から秋君に会えるなんて! うぅ……もうちょっとまともな格好してくればよかったぁ。だらしない女だと思われたらどうすんのさ! 私!!)
ちなみにこの世界の時間は元の世界と同じで
1年が365日、1日が24時間、1時間が60分……以下略。
とこんな感じで全く同じだった。
閑話休題。
「ん、そうだな」
「よ、よかったら一緒に……」
「あぁ一緒に食べようか」
「ありがと! 」
(やった!!)
莉子が満面の笑みで喜ぶ。
朝から元気がよろしいことで。
俺は昨日のメンタル崩壊によってかなりテンションが低い。
今着ている服は配給された部屋着で、無地のTシャツに普通の短パンだ。
莉子に会うならもう少し、ちゃんとした服を着てくればよかった。
莉子の隣を歩くと目立つので、この服ではかなり恥ずかしい。
特に会話せず、あくびをしながらゆっくり歩いていると食堂に着いた。
あのイケメン野郎がいないことに感謝する。
あいつがいたら絶対面倒ごとになるからだ。
昨日の晩飯は日本でも食べたことのないような美味しいものばかりで楽しめたが、さすがに毎日豪華な飯を食えるわけではないので、普段は兵士が使う食堂で食べ欲しいとのことだ。
兵士が使うにしては色々な種類があり、食べ物もなかなか美味しそうだ。
俺と莉子はパンとシチューとベーコン風の肉を頼んで席に着いて食べ始める。
「うん。普通にうまいな」
「しかもこの美味しさで種類も結構あるから、飽きずに食べられそうだね」
周りには他にも生徒が数人いて、スキルの話で盛り上がっているのに莉子は全く話題にしてこない。
気を遣われるのもなんか嫌だから正直に言おう。
「あ〜なんだ、別に気を遣わなくてもいいぞ?
俺も莉子のスキルについていろいろ聞きたいし」
「ほ、ほんとに大丈夫?」
「うん、変に気を使われる方が辛いな」
「わかった!えっとねーーーー 」
そこからは莉子が昨日少しだけ使ったスキルの話で盛り上がった。
俺はただ聞いていただけだけど、莉子が嬉しそうに話していたのでこっちまで少し楽しくなった。
「あ、ごめんね。私だけ話しちゃって」
「いや、いいよ。俺も楽しいし」
(やったぁ! 楽しいって言ってくれた!零ちゃんに言わなきゃ!)
その後も食べ終わったが少し話をし、秋の部屋の前で別れて、莉子も自分の部屋に戻っていった。
★
「ふっふふーん♪」
私は今、嬉しくてつい鼻歌を歌いながら零ちゃんの部屋に向かっている。
昨日と今日はいいことがありすぎて、いつもアドバイスをくれる零ちゃんに報告する!
昨日の夜はさすがに疲れちゃったから報告することはできなかったんだよね
きっと昨日の話とかしたら零ちゃんも喜んでくれるんだろうなぁ
コンコンッ
「はーい、あ、莉子。どうしたの?」
「うん! 昨日の話をしようと思って!」
「待ってたわよ。さ、入って」
「お邪魔します!」
と言って、零ちゃんの部屋の中に入り、椅子に腰掛ける。
「さて、昨日は何があったのか聞かせて?」
(実は全部知ってるけどね。細かい話は聞き取れなかったけど)
「うん! えへへ、まず私のことを可愛いって言ってくれた! 」
と言って、莉子が赤くなった頬に手を当てて、きゃーーと言いながら、顔を横に振る。
(やっぱり言ってたのね! 秋やるじゃない!)
「その後は喫茶店に行ってお茶して、映画館行ったよ!」
「映画は何みたの?」
「れ、恋愛映画……。結構キスシーンとか多くてドキドキしちゃった。その時に秋君と目が合っちゃった時は心臓が飛びてるかと思ったよぉ〜」
莉子の顔が赤くなる。
(良かったぁ。莉子は秋に夢中でだったのね。
つい私達が大きな声出した時は気づかれたかと思ったわ)
「そ、その後は………お昼ご飯を食べたよ」
明らかに莉子の様子がおかしくなる。
「ん?そこで何かあったの?」
ニヤニヤしながら言った。
(何が起こったかは知ってるけど、莉子の反応が面白いから聞いちゃお)
「う、うん。実は秋君と、間接キスしちゃった………」
莉子が思い出したのか、顔がさらに真っ赤になりもじもじする。
(秋グッジョブ!! 反応が可愛くてこっちまで女の子私まで惚れちゃいそうになるわね)
「あとはお揃いのネックレスも買えたし、本当に楽しいかったよ!」
莉子の首には赤色のネックレスがつけてある。
「まるで、恋人みたいね?」
相変わらずニヤニヤしている零が言った。
「こ、ここここここ恋人!?……秋君の彼女……えへへ〜」
莉子は完全に自分の世界に入ってしまった。
そのあとも出来事を話して、魔法の授業までの時間を潰した。