神の力を使って森を生き抜く 6
俺は今、この森に住んでいる主と思われる黒竜と戦っている。
転移された日から半年が経った。
自分で言うのもどうかと思うけど、だいぶ強くなっていて
英雄と同じくらいにはなったと思う。
この黒竜はそこそこ強いが今の俺の相手にもならなかった。
黒竜は攻撃を全て躱されて怒り狂っている。
そんな単調で遅い攻撃をしても当たるわけないのにな。
黒竜が切り札のブレスを俺に放ってきた。
もちろんどのくらいのブレスを放つのか気になって、わざとブレスを発動できるだけの時間をあげた。
黒竜はブレスを放ち勝ち誇ったような顔をしている。
俺はそのブレスをある剣で斬る。
ブレスが真っ二つになると同時にブレスが消滅する。
黒竜は今の出来事が信じられないのか大きく口を開けている。
「もういいか」
こんなやつは配下にするまでもない。
俺の経験値にしてやろう。
俺は目にも留まらぬ速さで黒竜に接近すると、いつの間にかすり替わっていた【毒姫】で斬る。
すると、俺の中に大きな力が入ってくる。
うーむ。こいつは災害級ぐらいかな?
ここ半年でここに住む魔物の強さがわかって上級と災害級しかいないと思われる。
なぜその上の天災級がいないかと言われると、なにも答えられないが、天災級がここまで弱いとは考えられない。
ただそれだけだった。
最近使い道がないので回収していなかった魔石を記念に取り出す。
竜は何回か倒したことがあるので、その肉の美味しさは知っている。
俺が食ったことのある肉の中で一番美味い肉といえば間違いなく、竜の肉と答えるだろう。
あの筋肉質な肉とは思えないほどの柔らかさに、溢れ出るほどの肉汁と旨味。
考えただけで、ヨダレが出てきそうだ。
肉のことはさておき、明日にはここを出てあいつらの下に行こうと思う。
俺はいつも身につけているネックレスを見ながらあいつらのことを考える。
「ま、死んでないだろ」
みんなしぶといから大丈夫だ。
逆に俺が心配されていると思う。
俺が黒竜まで倒せることを知ったら驚くだろうな。
ちょうど半年で黒竜を倒せたことに喜びを覚えならが家に帰った。
この家もかなり進化した。
日数を数えるために毎日一個ずつ植えていた花が増えすぎて、周りがお花畑になっている。
蜜を求める蜂が鬱陶しくて仕方がないので、蜜が出ないようにしてある。
家の中身はだいぶ変わったが、家自体の外見は全く変えていない。
外見にこだわっても、こんな森に来る人などいないのだ。
俺は家の中に入る。
まず、リビングに台所を設置させた。
この台所には発熱草と発水草を使って、自動で水やお湯が出るようになっている。
俺が念じるだけで水が出るから本当に便利だ。
あとは発熱草を使って釜とトースター擬きがある。
俺は元々一人暮らしで料理も全部自分で作っていたため、食事には困ることはない。
前の世界では、自分で醤油や味噌を作っていたのでこの世界でも再現可能だ。
リビングはこんなものだ。
寝室は俺のベッドがある。
このベッドは俺の自信作で、鳥の魔物の羽根を奪って植物繊維で作った布の袋の中に入れただけだが、とてもふかふかで寝やすくなっている。
一度入ったら抜けるのが困難だ。
俺の服も全部自作で植物繊維で作ったものだ。
俺にはセンスの欠片もないので、変なデザインの服を作らないように全部黒に統一してある。
そして光を発する草を見つけたことにより、夜でも普通に明るくなった。
これでいちいち発熱草を、燃やす必要もなくなり発熱草をあまり消費しなくて済むようになった。
まぁいくら消費したところで生み出せるから関係はないけどな。
このようにだいぶ生活感のある家に生まれ変わったのだ。
あと、植物を使って色々遊んだりもした。
【着色草】を使って俺の髪の毛の色を変えたりした。
今、俺の髪の毛は白となっている。
目の色を変えようとしたら視界までその色になってしまったので、それ以来まったく変えていない。
なかなか楽しい半年間だった。
これからはのんびりしながら生きていこう。
★
秋が転移してから半年が経った。
俺たちは今、勇者召喚した国。アーカディス王国の近辺にあるダンジョンと呼ばれるものから、王城に戻ってきたところだ。
俺たちはこの半年間でかなり強くなった。
もう一人で上級は簡単に倒せて、災害級は少し苦戦するぐらいだろうか。
みんな英雄と呼ばれてもおかしくない強さだ。
「もうすぐ半年だね」
そう言ったのは莉子だ。
莉子は勇者召喚された中で一番努力している。
聖女にもかかわらず戦闘も俺たちと並ぶほど強く、後方支援も難なくこなす。
これだけ心強い聖女はいないだろう。
「そうね。秋は今どこにいるのかしらね」
零は称号を【剣王】に変わっている。
その名の通り、剣術において零にかなう奴はいない。
それほど、零も強くなった。
「もしかしたら、もうそこら辺にいたりしてな」
俺の称号も【武王】に進化している。
「秋君なら何事もなかったかのように帰ってきそうだよね」
全くもってその通りだ。
秋ならきっと帰ってくるという自信が俺にはある。
でも、心配なのは確かだ。
もう少し、強くなったら俺たちは西側の街に行って秋の情報を集めるつもりだ。
入れ違いにならないようにだけは注意したいな。
「秋君はもういない。もう死んだ友人のことは忘れるんだ」
と横槍を入れてきたのはこの世界でも6人しかいないと言われている人善神ーーー星野拓人である。
秋がいなくなってから行動を共にするようになったのだ。
まぁ拓人が勝手に俺たちが行くところについてくるだけなんだがな。
当然拓人の狙いは莉子で、猛烈にアピールしている。
はっきり言って、見ているこっちがイライラしてしまうことが多い。
最初の頃は俺たちが逃げることもあったが、毎回追いかけてくるから今は呆れて言葉も出ない状況だ。
「はいはい。行くわよ莉子」
零が面倒な奴が来たと言わんばかりに莉子の手を引っ張る。
「う、うん」
拓人は放っておいて、秋だ。
あいつのことだから、今はだらだらとこっちに向かってきている頃だと思う。
俺たちも準備を始めるとするか。
★
「森が騒がしいな」
痛々しいセリフを言ったのはもちろん俺だ。
他の人が聞かれたら、変人扱いされるに違いないだろう。
俺は家の前でのんびりと昼寝をしていたが、森がとてもざわついている。
「なんだ?」
森が何か言いたげに、一本の道を作った。
行けってことだよな?
森がこんな反応をしたのは初めてなので、結構な緊急事態なのだろう。
もしかしたら、この森の存続に関わることかもしれない。
俺は一本道を小走りで向かう。
もはや俺の小走りは、100メートル9秒を軽く出している。
本気になったらどんだけ早く走れるのか気になるけど、地面がえぐれるため本気で走ったことはない。
それは兎も角しばらく走っていると、10体ほどの狼の魔物……ウルフジェネラルと……ウルフロードか。
そいつらが何かを取り囲んでいるようだった。
ウルフロードはウルフジェネラルよりも、少しだけ強いバージョンの魔物だ。まぁ気にするほどでもない。
獲物を捕らえようとしている目をしているが、完全に優位に立っているのか、油断している。
やっぱり魔物は馬鹿だな。
この半年間で何百回思ったかわからない。
取り敢えず、何を取り囲んでいるのか気になるため、ウルフたちの頭上をジャンプして飛び越え、その中心に到着する。
ウルフたちがようやく俺に気づいて、警戒する。
俺はウルフをまったく気にせず、その中心にいる者をみた。
そこにはーーー
黒髪の少女が怯えた表情で立っていた。