神の力を使って森を生き抜く 3
「あじぃ」
【薬草(高級)】を見つけてから1時間ほど経ったころだった。
10分ほど前から段々気温が上がっていき、今は汗が止まらない程気温が高くなってきた。
「くそっ、ここで俺の弱点を突くとは……」
なんで森の一部分だけこんなに暑いんだろう。
暑くなるにつれて、周りに何か燃えていているわけでもない。ただ、真っ暗な森の中で気温だけが高くなっていく。
やっぱり魔素が関係しているとみて間違いないか………
異世界の森が全部こんなのだったらたまったものじゃない。
だが、ここには不思議なものがある。
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【雑草(熱 高級)】
適温 60度〜80度
魔素が比較的多い場合に存在する。
ただの雑草。
効果
ただの雑草だが、熱に強い。
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そう。普通の雑草の種類が少しだけ変化している。
この結果から、気温によって植物が変化する可能性があるのではないかと思った。
たぶん普通の植物はこんなことは起きない。
地球では気温が違うだけで枯れてしまったりするが、ここの植物は魔木のように大量の魔素を吸って成長しているため、かなり頑丈で根元から引き抜かれない限りは枯れないとことが植物鑑定で判明したので、可能性は十分あり得る。
俺は植物鑑定をした時に出る《適温》も大きく変化していて、一つおかしな点に気がついた。
なぜか60度〜80度ってなっていて、それはここの気温が60度以上あると言っているようなものだ。
普通なら俺が生きていられるわけないが、俺の体感気温は30度くらいなのだ。
考えられるの原因は、この気温の上昇が主に植物によって起こされているということだ。
俺が影響を与えることを認めた植物なら別だが、それが熱を発するものだったとしても俺に影響を与えることを植物がしてくるとこはない。
例えば、俺が森を走る時は自然と邪魔な根を避けてくれるし、棘のある植物を触っても俺が怪我をすることはない。
もともと気温が上がる原因となった何がが30度まで上げて、それによって熱を発する植物が誕生してここの気温を60度まであげていると思われる。
その原因となった何かの熱は30度ぐらいまで上昇するため俺に熱を感じさせているが、植物が発する熱は60度以上まで上昇しているが、俺に許さない限り熱を感じさせることはない。
俺はその推測が当たっていることを願いながらしばらく歩いていると、あるものが目に入った。
「これは……」
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【発熱草(高級)】
適温 30度〜90度
魔素が比較的多い場所に存在して、気温が高い地域にしか存在しない。
効果
魔力を通すか周囲の魔素を吸うことによって、熱を発するようになる。
草の温度が100度以上になると燃える。
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やったぞ!
ここまで頑張ってきた甲斐があった!
やはり、俺の推測は正しかった。
この草が周辺の魔素を吸って気温が上昇していたのだろう。
そんな推測が当たっていた喜びよりも……
「こ、これで風呂に入れる!」
風呂に入れる喜びの方がでかい。
俺は第一目標を達成したので、自分の拠点に戻ることにする。
この暑さでかなり汗を掻いていたので、早く風呂に入りたい。
喉の渇きや暑さを忘れて、風呂の構造について考えながら走る。
走っている途中で魔物に何体か会うが、植物に足止めしてもらい拠点に向かって逃げる。
木に案内されながら元来た道を30分ほど走ると、拠点に到着した。
「疲れたぁ」
さすがに今日はいろいろありすぎて疲れてしまった。
さっさと風呂に入って寝よう。
さっき作った家の中に入ったら玄関がある。
その玄関を抜けるとリビングがある。
主な素材は杉を使っていて、木ならではのいい匂いがする。
そして、奥にある完成していなかった風呂場へ行く。
風呂場の木は木曽檜と呼ばれる木を使用している。
木理は通直、肌目も機密で独特な香気と光沢をもっている。
耐久性も高く、水にも強い。
そして、浴槽はどうするかというとーーーー五右衛門風呂擬きだ。
俺はドラム缶をイメージして、木を生み出す力と変化させる力を発動させるーーーーー
そして、目を開けると……
「こんなもんか?」
そこには五右衛門風呂があった。
素材は高野槙と言って檜以上の光沢があり、水湿に耐える力は木曽五木の中で最高だ。
この木を使って五右衛門風呂を作った。
桶を作り、それに川の水を汲み五右衛門風呂擬きに水を貯めていく。
一回一回家から出て水を汲みに行かなければならないのでなかなかきつい作業だ。
明日は水を生み出す草とか探しに行こう。
ある程度溜まったら発熱草を生み出して五右衛門風呂擬きに入れる。
この草は魔力を通すか、周囲の魔素を吸うことでしか発熱することはないが、俺の場合は関係ない。
俺の意思に従って、だいたい水の温度が40度近くなるまで温かくしてもらう。
俺は服を全部脱ぎ捨て五右衛門風呂擬きに入る。
「うぃ〜生き返る〜」
あぁこのために生きてきたと言っても過言ではない。
イケメン野郎にやられた傷が完全に治っていない所為で少し痛むから風呂に【薬草(高級)】を贅沢に入れている。
塗るだけで効果があるとのことなので早速実践してみたのだ。
俺は薬草の効果でヒリヒリする体に、少し我慢しながら、3人の友人が今どうしているかが気になった。
★
少し時間が進み、秋が消えて4日目の事。
私は結局守れなかった。
もう秋君が転移してから何日経ったかわからない。
私はずっと布団の中にいて、そばには零ちゃんがいる。
「莉子、大丈夫よ。秋はそんな簡単に死ぬ男じゃないわ」
そう言っている零も泣きそうな顔をしている。
何処かでは諦めているのかもしれない。
「…………」
しばらく沈黙が続くと、ノックがした。
コンコンッ
「莉子いるか? 秋の部屋に入れるそうだ。 あいつのことだから何かあるかもしれない」
秋君の部屋………
「行きましょ」
「うん」
久しぶりに部屋の外から出るような気がいた。
ここ数日間は泣いてばかりで、ろくに食事もとっていなかったからかなり酷い顔をしているかもしれない。
こんなところ秋君には見せられないな……
「莉子……じゃあ行くぞ」
悠馬も少し疲れた顔をしていた。
私と零ちゃんは一言も喋らずに、秋君の部屋へ向かう。
「じゃあ入るぞ」
悠馬君はあらかじめ王女様に鍵をもらっていたらしい。
悠馬君がガチャリと鍵を開けて、秋君の部屋の中に入る。
「秋君の匂い………」
秋君は自然の匂いがして、この匂いと嗅ぐと安心するんだよね。
秋君との思い出を思い出すとまた涙が溢れてくる。
涙を流す私はベットに腰掛け、悠馬君と零ちゃんが秋君の部屋を見渡している。
「あれ?」
零ちゃんが何か気づいたように机に駆け寄った。
少しだけ引き出しが開いていたようだった。
引き出しを零ちゃんが開けると……
「こ、これは………」
一枚の紙と百日草が置いてあった。
悠馬君が手紙を手に取って、読み上げる。
「『数年経っても帰ってこなかったら死んだと思ってくれ。じゃあまた会うまで死ぬなよ。あと俺を転移させたのはこの国の者だから気をつけてな。』」
「「「……………」」」
まるで自分がこうなる事を予知していたみたいな文章だった。
「ったく、俺たちは誰の心配をしてたんだ?」
「………そうね。秋が簡単に死ぬわけないわね」
悠馬君と零ちゃんが呆れたように言った。
いつも間にか私の涙は止まっていて、心に落ち着きが戻ってきた。
私は百日草を手に取り、秋君の事を思う。
…………好きな人を信じないで、なにが好きと言うんだろう。
好きなら最後まで信じ通してまた再会する時を待とう!!
帰って来る頃には今度こそ、守れるように強くなる!
「莉子〜秋が帰ってきた時に女の子と一緒だったらどうする?」
「えぇ!! あ、秋君がぁ……そんなぁ」
「十分あり得るな」
悠馬君がうんうんっと頷く。
どどどどどうしよう!
けけけど、秋君に限ってそんな事はない!! はず。
もし連れて帰ってきても、私が勝ってみせる!
「それにしても、この百日草どうやって手に入れたんだ?」
「そうね……もしかしたら秋は私達に隠し事をしてたのかもしれないわ」
★
ふぅ〜〜明日から地獄のメニューでも開始するか」
俺は草を探すと同時に、明日から行う訓練のメニューを考えていた。
まずは、修行に半年。
ここが大陸の何処でも端から端まで歩いて1年だが、馬車を使えば半年くらいで着く。
よってあいつらと合流できるのは1年後だ。
それまでに人悪神と戦ってなければいいがな。
そしてこの森にいる半年で、英雄と呼ばれる人物達とまともに戦えるぐらいまで強くなっておきたい。
当然半年で英雄の領域まで行くのは困難に等しい。
なので、今までは魔法の授業は時間を無駄にしていたのでその時間も訓練に当てる。
訓練自体も前より過酷にして、さっさと強くなってしまおう。
幸いここにはそこそこ強い魔物がいるから経験値には困らないだろう。
俺はやる時はやる男だ。きっちり半年頑張って後はのんびりした生活を目指す方針でいこう。
そうと決まればーーー
「さっさと風呂から出て寝るか………いや、もうちょっと入るか」
結局気持ち良すぎて風呂から出たのは1時間も後のことだった。