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力を使わずに王国を生き延びた

 6日目


 今日もいつもと変わらない朝だった。


 いつも通りに魔法を習いに部屋に向かう。

 今日は無属性魔法の中級を教えてくれるらしい。


 無属性魔法は基本中の基本で初級魔法だと、浮遊魔法や物体強化魔法などある。


 浮遊魔法は石を浮かべて投げつける事ができる程度。

 相当魔力を使うので自分自身は浮かべる事はできない。


 物体強化魔法は、その名の通り物体を強化する魔法だ。


 例えば落としたら割れる卵に物体強化魔法をかけると落としても割れなくなる。


 そして、今日から習うのは身体強化魔法だ。

 浮遊魔法や物体強化魔法をかける物体はどれも自分の身体より小さいので、うまく魔力操作できていたが、身体強化魔法は身体全体に上手く魔法をかけなければいけないので難易度が上がる。


 なので身体強化魔法は中級魔法となっている。


 でも、少し難易度が上がる身体強化魔法でも莉子はあっさりできてしまった。


 零と悠馬はなかなか苦戦しているようだ。


 なんでも、全身均等に魔法をかけなければいけないので魔力操作がある程度できなければ難しいらしい。


 しかも、この状態で戦わなければならなくなるので無意識にこの魔法を維持することができなければ意味はない。


 勇者召喚された者といえどなかなか難しいらしい。


 けど、この2時間ほどでみんなマスターした。


 残りの時間は……


「今回は魔力切れを体験してみましょう」


 魔力切れ。

 それは体内にある魔力がなくなることだ。


 魔力がなくなると魔力がある程度回復するまで動かなくなり、悪くて意識が飛んでしまうらしい。


 戦闘中に起こってしまっなら、死亡確定だろう。


 それを今回は体験してみろってことか。


 俺はもともと魔力なんてないけど、普通に動けてる。


 ということは、魔力ある者が魔力を失うと意識を失うなどの症状がでるわけだな。


 俺には全く心配のいらない話だ。


「では、手のひらから魔力をずっと出してみてください。意識がなくならないように耐えてくださいね。身体が動かなくなっても数分で動くようになるので安心してください」



「「「「はーい」」」」


 みんなの手から魔力が流れ出る。

 魔法使いののおばさんに聞いてみたけど、俺は魔力を持ってないが故に魔力に敏感らしい。


 自分の体内にあるだけで、少し感覚がおかしくなるとの事だ。


 英雄クラスにでもなると、全く関係がなくならしい。

 俺は魔力感知に関してはスキルを持っていないけど、英雄クラスの人と同じくらいってことだな。


 普通の生物は魔力を全く持っていないってことはあり得ないので、こんなことは例外中の例外らしいがな。


 魔力を持っていてもスキルは手に入られなかったので、上達が遅いのは確実だ。それなら魔力がないほうがよかったかもしれない。


 これだけには感謝しよう。



 今は11時12分だ。


 人によって魔力が回復する時間が違うので体が動けるようになるまでの時間を測っておいたほうがいいと魔法使いのおばさんは言っていた。


 他の3人は身体を動かすことができなくて、時計を見るとこができないので俺が測ることになっていた。



「秋くん」


 と莉子から小さな声が聞こえた。


 その時、莉子が俺には倒れてきた。


「おっと、大丈夫か?」


 莉子を受け止める。


 どうやら魔力切れでこちら側に倒れてきてしまったらしい。


 他のみんなは上手く机に寝るように身体を預けている。


「調子はどうだ?」


「うん。身体が動かないだけだから大丈夫だよ」


(えへへ、秋君に抱えられてるよ)


 少しだけ喋るのも辛そうだ。


 これが魔力切れを起こして時の症状か。


 確かにこれが戦闘中に起きたら終わりだな。



「みんなと同じ体勢にさせてあげ 「この姿勢が一番楽だからお願いしてもいい?」 お、おう」


 思ったより元気そうだ。


 けど、数分間も抱きかかえているのは俺がきつい。


 どっちも楽な体勢があればいいんだけど……あっこれいいんじゃないか?


 と思い莉子の頭を俺の膝に乗せる。



(こ、これって………膝枕! !)


 下を向いたらすぐ近くに莉子の顔があってなかなか恥ずかしいけど、特に問題はない。



 なんか前の席にいる二人がニヤニヤしているような気がするが、気にしてはいけないだろう。


(あれを無意識でやるとは流石だぜ)


(これって狙ってやってるわけじゃないわよね?)


 なんて思っていることを秋は知るはずもない。


 11時20分


「お! だんだん動けるようになってきたぞ」


 他の・・クラスメイトはだんだん動けるようになってきたようだ。


 個人差は少しあるらしい。


 11時27分


「もういつも通りに動けるわね」


 他の・・クラスメイトは戦闘までとはいかないが普段通りに動けるようになったらしい。


「………まだ動けない?」


「う、うん」


 莉子はまだらしい。


 11時42分


「まだ?」


「少しだけ動けんようになったかも」


 悠馬と零は相変わらずニヤニヤしていてうざい。


 11時47分


「そろそろ?」


「う、うん。もう大丈夫みたい」


 せっかく身体が動けるようになったのに少し残念そうだ。


 俺の膝枕がそんなによかったのか?

 いや、スーパー美少女の莉子に限ってそんなことはないだろう。


 というか他の人は15分ぐらいで普段通りに動けるようになったけど、莉子は30分近くかかった。


 本当に大丈夫か?


「みんなもう昼飯食ってるみたいだから、俺たちも行こう」


「そうだな」(ニヤニヤ)


「そうね」 (ニヤニヤ)


 こいつら本当に気持ち悪い。



 ★


 昼飯も相変わらずニヤニヤしている2人に話しかけられながら終了した。


 次は訓練だ。


 みんなは魔力切れの所為でかなり身体が重そうだ。


「今日は魔力切れの時を想定して訓練を行うぞ」


 との事らしい。

 確かにこれは必要な訓練だ。


 他のみんなはいつもより、動きが遅い。

 それに対して、俺はいつも通りだ。


 一見俺が有利そうに見えるけど、このハンデをつけても俺の方が弱いと思う。


 現に莉子にボコボコにされている。


 この後も、身体的疲労が激しいため莉子の動きがだんだん遅くなるのだが、俺が勝てる隙すらなかった。



「今日は最後に模擬戦をやるぞ」


 訓練の終了30分前に騎士団長のザベスが言った。


「この疲れた状態で緊張感のある試合を行うといい刺激になる。やってみろ」


 かなりおかしな話だけど、騎士団長が言うならそうなのかもしれない。



「拓人! お前がやってみろ」


「はい!」


「相手は………拓人が決めていいぞ」



「僕が決めてもいいんですか?」


 嫌な予感がする。


「問題ない」


「ありがとうございます。では……秋君あなたを指名します」


 はぁ……やっぱりそうか。


 この騎士団長俺を指令するってわかってたな。


 こいつも俺を嫌う1人だったみたいだ。


「おい。お前、こっちに来い。ルールを説明する」


「はい……」


 莉子が心配そうに俺の服の裾を掴んでくる。


「大丈夫」


 と一言残して、俺は団長と拓人のところへ向かった。


「では、ルールを説明する」


 ルールは単純だった。


 ・どんな武器でも使用可。

 ・相手が膝を地面につくか、降参するまで行う。



 この2つだけだ。

 ここで俺の詰みが決定した。


 もともと剣術でさえ拓人にボロ負けなのに、魔法を使ってはダメというルールはない。


 午前に魔力切れを起こしたとはいえ、魔力はそこそこ回復しているはずだ。


 これで魔法を使われたら一瞬で戦いが終わってしまうだろう。

 はっきり言って最初から結果が見えてる試合だ。


 これをしたところで騎士団長は何を得られるっていうんだ?


 俺は怪我をして、拓人は優越感を得られるってところだろう。


 騎士団長をぶん殴りたい気持ちになるが、殴ったら俺の手が痛いのでその考えを捨てる。


「では、用意はいいか?」


「「はい」」


「では……始め!」


 今回の作戦は、とにかく突っ込む。

 身体強化魔法を使われたら俺は本当に終わりだ。


 身体強化魔法を使わない状態だったら10秒ぐらい防御に徹すれば持ち堪えられるけど、使われたら2秒で終わる。


 流石に負けは決定してるとは言え恥ずかしい。


 そうならないために、身体強化魔法の詠唱をさせる暇も与えないようにする。

 流石に昨日覚えたばかりの魔法を無詠唱で発動できるわけがない。


 莉子でさえ戦いながら維持するのに手一杯だった。

 人善神ディーオといえど、成長スピードは勇者たちと大差ないはずだ。


 俺は始まった瞬間、拓人に向かって走り出す。


 一般人ならば消えたと思う人もいるかもしれない。



 けど、拓人にはスローモーションで動いているように見えるはずだ。


 拓人が一瞬驚いた表情をする。


 俺はそのまま走るが途中で拓人が消えた。

 常人よりも強化されている目でも全く見えなかった。


 消えたことに気がついた時には俺の右腕に強い衝撃がくると同時に鈍い音がする。


「がぁっ」


 たぶん骨が折れた音だろう。

 痛みはまだ来ない。


 俺の右腕はもはや使えないので降参しようと声を……


「こうさ……ぐぅ!」


 次は腹に拳か飛んできた。


 俺はそのまま倒れようとするが……


「ゔっ」


 俺が倒れる前に次の攻撃が飛んでくる。


 こいつは俺に降参させないつもりだ。



 そこからはただ俺がサンドバックにされているだけだでようやく倒れることができたのは、あちこちの骨が折れてしまった頃だった。


 俺には動く力も残っていない。


「やめ! 勝者 拓人!」


「「「「うぉおおおおおおお」」」」


 俺を含めた4人を除き、クラスメイトは歓声を上げる。


 それを無視して3人が俺のところにやってきた。


「莉子! 治療して!」


「うん! わかってる!」

 莉子が回復魔法を使う。


(秋君を治して……!!)


 初級しか使えないはずなのに、すごい効果だった。


 騎士団長も目を見開いて驚いている。


「身体全体についている傷は治ったし、骨は完全に繋がらなかったけど、応急処置はできていると思うよ」


 と優しく俺に言ってくれた。


 その莉子の目には涙が浮かんでいる。


 あぁ心配させたか……


「ありがとう」



 と言った瞬間。


 俺は不思議な感覚に襲われた。訓練所の入り口を見ると黒いローブの男がいる。

 すべてを悟った俺はこう言った。


「必ず戻るからな」


 目の前を見てみると映っていたのは泣きそうな莉子ではなくて、一面緑に覆われた森だった。



 

1話から11話のタイトルを大幅に変更しました。


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