力を使わずに王国を生き延びる 9
5日目
いろいろ考え事をしたため、あまり眠れなかった。
だが、悠馬と話したおかげでだいぶ気持ちが楽になり元気が出た。
今日から異世界で元から持っていた力はどれだけ戦闘に使えるものなのか研究するつもりだ。
その為には外に出なければならない。
外に出る方法をまずは考えていたけれど、なかなか無理そうだ。
門には一日中兵がいるし、外に出ようとしても王から許可の許可が下りない。
外に出る秘密の扉も存在しない。
訓練の一環で外に出られればいいのだがそんな都合のいい話は………
「今日は魔物を狩りにいくぞ!」
あった!
ナイス騎士団長!
「お前達の体は出来上がってきたから中級の魔物ぐらいなら問題ないと思う。出ないとは思うが、上級の魔物が出た時には逃げろ、間違っても倒すな。運が悪ければ死ぬぞ」
昨日習った通りで自分より強すぎると逆に自分の体に負荷がかかってしまう。
そうならない為にも逃げろってことだな。
兎も角、俺はようやくこの力を試すチャンスが来たってわけだな。
それにしても俺は異世界来てから頑張ってばっかりだな。
そろそろ落ち着いて寝るだけの生活をしたいものだ。
「では早速いくぞ!」
「「「「はい!」」」」
★
ということで、今は城下町にいる。
この城下町を囲っている壁の外に行く為で、馬車での移動となる。
歩いてでも行こうとすれば、いろいろな噂の多い勇者達は一瞬で市民に囲まれるだろう。
まぁ41人も馬車で運んでいるのでだいぶ目立つけどな。
チラッと窓から城下町を見てみると活気に満ち溢れていて、なかなかいい街そうだった。
そうこうしている間に門を抜けて森付近に着いたところで馬車から降りる。
壁を見てみると高さ30メートルほどで厚さは3メートルといったところだ。
災害級にでもなるとこんな壁は破壊されてしまう可能性があるらしい。
災害級を一人で倒すことができる英雄と呼ばれるものはこの壁を破壊できるということだ。
どれだけ英雄と呼ばれている者がとてつもない力をもっていることがわかるだろう。
「よーし。ではこれから4人1組になってもらう! 午後の5時まで自由だ! 危なくなったら逃げろよ! 以上解散!」
ようやくこの時が来た。
さっさとこの力の確認を………
「さっさと始めましょ」
こいつらがいるのをさっぱり忘れていた。
流石にまだ戦闘で使えるとか限らないのであまり見えたくない。
あまりバレるような行動は慎まないとな。
「そうだな。森の中にでも入るか」
「「「おう!(わかったわ!)(うん!)」」」
みんなの同意があったので早速盛りの中に入る。
他のグループはすでに森の中に入ったようだ。
「俺が危なくなったら手助け頼む」
「もちろんだ」
当然この中で一番弱いのは俺なので危険な状況になったら助けてもらうしかない。
男として助けてもらうのはどうかと思うけど、俺ができるのは荷物運びぐらいだ。
「まずは魔物を見つけないといけないね」
「そうだな。索敵スキルとか覚えられればいいんだけど。俺は無理だしな。そこも任せることになるか……」
俺の無能さが滲み出てきた。
まぁ一応索敵する方法はあるけど、それをすると俺の力がバレるからしない。
「任せなさい。すぐに見つけてあげるわよ」
頼もしいやつらだ。
俺もこいつらぐらいの力があればいいんだけどな。
しばらく歩いていると、足元にあった草が目につく。
これは……
「薬草か」
つい口に出てしまった。
「へぇ〜これが薬草なんだ。けどどうしてわかったの?」
しまった!
完全に油断してた。
ここは動揺せずに落ち着いて対処しよう。
「あぁ何か役に立つことができないかと思って調べてたんだよ」
これでみんな騙せるだろう。
「ふぅ〜ん」
相変わらず鋭い零が俺をジト目で見てくる。
こいつは本当に鋭い。
だか流石にこれだけじゃバレないだろう。
ここで薬草に触れられたのは運がいい。
他にもいいのがないかバレない程度に探してみるとしよう。
★
今俺たちはゴブリンと戦闘中だ。
ゴブリンは下級の魔物で身長130センチほどで緑色肌をしている。
顔は醜く、身につけているのはボロボロの剣と布だけだ。
下級の魔物は一般男性が武器を持った時にギリギリ倒せる程度だ。
結果は余裕だった。
俺でさえ余裕だった。
他の3人はアリを殺す程度の感覚で倒せたのではないだろうか。
零と悠馬に関しては目に見えぬスピードで殺してた。
俺もゴブリンのようにならないように気をつけよう。
倒して瞬間、自分の中に何かが入ってきて力が湧いていくのがわかった。
みんなも自分が強くなっているのがわかるようで、嬉しそうだ。
3人は俺に気を遣ってくれて魔物が少しでも俺の方に多く回ってくる。
本当にありがたい。
勿論魔石は回収している。
回収する作業は結構生々しいので女の子にやらせるわけにはいかなく主に俺が担当だ。
人型の生物を殺したにもかかわらず、不思議と罪悪感も湧かない。
これも勇者召喚されたことによるものだろう。
「この200メートル先に今までより強い相手がいるわね」
この2時間ほどで俺以外の3人は何らかの索敵スキルを得たようだ。
周囲にいる敵の数、強さが大体わかるようだ。
俺はスキルを得られないため、ほとんど何もわからない。
「この感じじゃ中級程度だ。このまま行こうぜ」
中級の魔物は一人前の戦士がようやく倒せるようになる魔物だ。
普通なら戦いを覚えて1週間も経たない者が戦う相手ではないが、初級の魔物によって強化された俺達なら問題はない。
けど俺には少し荷が重いかもしれない。
相手の強さがわからない相手とは戦わないほうがいいだろう。
今回は観戦させてもらうとするか。
「俺は見ているだけにする」
「今回はそのほうがいいわね。相手の強さがわからない以上油断はしないほうがいい」
話が早くて助かる。
「じゃいくぞ」
俺を含めた4人は、足音をなるべく消して魔物のいる方向へと向かう。
しばらくすると……
「あれは……オークってやつか」
異世界小説に詳しい悠馬が言った。
オークは一言で言うと豚と人間を合わせた魔物だ。
なかなか肉が上質らしいので是非食べたい。
オークは中級の中で普通の強さなのでこの3人なら問題なく倒せるだろう。
「じゃあ行くわよ」
今回の作戦は簡単。ただの奇襲だ。
俺は足音を消すのが苦手なのでかなり離れたところからの観戦だ。
これも他の3人は足音を小さくするスキルでも持っているんじゃないか?
莉子と零はオークの背後に回り、悠馬はオークの歩いている方向の斜め前に隠れる。。
そして、オークの前に悠馬が現れ、両者が戦闘態勢に入る。
完全に悠馬に気を取られているオークは零と莉子の存在にはまだ気づいていない。
悠馬はかなり余裕そうだ。逆に物足りなそうな顔をしている。
「早く決めてくれ!」
と言った瞬間。オークの背後から2人が現れ、2人同時に剣でオークの命を奪う。
あー可哀想に首が飛んでる。
兎も角、この2時間でわかったことがある。
魔物を倒した時に得られる力を経験値と呼ぶことにしよう。
それは魔物にも止めを刺した者が経験値を得られるわけではなくて、戦った者に経験値が貰える。
なので今回の場合は俺以外の3人が経験値を得られるということだ。
もちろん経験値は3等分される。
「すごい……またこんなに……」
戦闘が終わり近づくと莉子がそう呟く。
やっぱり3等分されていたとはいえ、中級の魔物のからもらえる経験値は凄いらしい。
「あんまり強くなかったな」
「中級なら大丈夫そうね」
俺でも1人で倒せる程度だった。
決してオークのスピードが速いというわけではなかったため避けるのは簡単だから倒すのもそこまで苦労しないはずだ。
そんな中級のオークよりも何倍も速い3人は頭がおかしいのだろう。
その後は1時間ほど魔物を狩って、集合場所に戻った。
「全員いるな? じゃあ戻るぞ」
特に危険もなくあっさり終わってしまった。
異世界での俺の力に関してもそこそこ調べることができた
そこら辺はこれから見つけていこう。
★
「くっくっく、ついに明日決行だ」
「準備は万全でございます」
流石の勇者といえど、この計画は阻止出来まい。
明日の魔術師と騎士団長には連絡している。
間違いなく成功すると言ってもいいだろう。
くっくっく……この国の落ちこぼれがどうなるかわからせてやろう。
★
「あー疲れたぁ」
「あぁそうだな」
今俺たちは風呂に来ている。
この国の兵士が全員入るだけあって物凄く広い。
毎日悠馬と喋りながら疲れを癒している。
「お前好きな人とかいんの?」
「そんな質問をするお前は?」
こいつは最近なにやら俺の恋愛に関することを聞いてくることが多い。
けど、俺だけじゃ不公平だ。
ここはこいつの恋愛事情も聞いておこう。
「いねーよ。俺が恋する男だと思うか?」
うん。確かにこいつの顔はかなり怖い。
こんな奴が頬を赤くしている所なんて想像できない。
けど……
「零とかどうなんだ?」
「ぶぅっ! な、なんで零が出てくんだよ!」
ほう。この反応図星なんじゃないか?
「お前ら結構仲良いからさ。2人で組むってなった時もほとんどお前と零で組んでるからそう思っても不思議じゃないだろ?」
(こいつと莉子をくっつけようとしたのが裏目に出たか……)
「いやいや。俺と零はそんなんじゃねーよ」
そんなもんなのか?
俺から見れば結構お似合いだと思うけどな
1番恋人同士になっている想像ができる。
悠馬がアホみたいなことして、零がいつも怒ってる場面が鮮明に浮かぶ。
「そんなお前は莉子とどうなんだ?」
なんか異世界に来る前にもそんなことを聞かれた覚えがある。
「この前と同じだよ」
「いやいや〜俺はそうとは思わないんだよな〜」
悠馬がニヤニヤしながら言った。
正直少しきもい。
こいつの顔でニヤニヤされたら物凄く腹がたつ。
「だって、あんなに男達からの告白を見事全員断ってる莉子だぞ? 高嶺の花すぎて手が出せない」
莉子は元の世界にいた時は週に2、3回は告白されている。
しかも、同じ学校の人とは限らない。
なんでそんなに告白されるのかというと……
『ごめんなさい。私、好きな人がいるので』
と莉子がそう断るからだ。
目がたまたま合ってしまったり、一回喋ったぐらいで『まさか俺なんじゃないか?』 と思ってしまうおバカさん達により、莉子への告白が絶えないってわけだ。
「まず好きというのがいまいちわからない」
「お前は深く考えすぎなんじゃないのか? もっと単純に、早く会いたいとかもっと話がしたいと思う人だと俺は思うぜ?」
「んーそんなもんなのか?」
「……はぁこいつはもうどうしようもないな………俺もう上がるわ」
と悠馬が呟いて、風呂から出て行ってしまった。
「……なんだったんだ?」
★
風呂から出て部屋に戻る途中のこと。
ん? なんだ?
自分に視線が向いているのがわかった。
莉子と仲が良いため俺は視線には結構敏感なほうだ。
こんなに感情剥き出しで視線を送ってくる奴はうちのクラスにもいなかったけどな。
と思い。視線が飛んできている後ろを見る。
そこには……
あれは? 大臣か?
確か、異世界に来て初日の謁見の間にいたデブ大臣だよな?
そいつが今、物陰から俺を物凄い形相で睨んできてる。
「これは……」
下手したら今にでも殺されてしまいそうなぐらいの殺気だ。
こいつが近日中に何かしてくるのは間違いなさそうだな。
この世界では簡単に人が死ぬ。
気をつけよう。