降る雨はやませてやる
今年もゲリラ豪雨が多いのでしょうか。
水瓶に降ってもらえたらいいのですけどね。
御庭外くんは僕のクラスメイトだ。
全てにおいてスペックは平均より上。でも飛び抜けているのはその独特な個性だけ。
黙っていればそれなりにいいやつだ。
そう、黙っていれば、だ。
「あれ、御庭外くん昇降口で何やっているのさ」
突然降り出した土砂降りの雨。
風も強くて折りたたみ傘だとすぐおちょこになってしまうくらいの中。
昇降口の屋根の下じゃなくて、雨の中で腕を組んで立っている御庭外くんがいた。
「フーッ、ファッファッファーッ! 福和内よっ、雨はやむ。俺様がやませてみせるわっ!」
「その前にびしょ濡れだよ御庭外くんっ!」
「フーッ、ファッファッファーッ! まだその時に至っていないということだなっ!」
「じゃあ僕は帰るけど、あんまり無理しないでよね……あっ!」
僕が傘を開くと、突風にあおられて傘が逆さまにひっくり返ってしまった。
ところどころ急な力に耐えられず、傘の骨が変な方向へ折れ曲がっていた。
「天に抗える者はこの俺様のみっ! そのような骨と皮だけの雫避けごときで天と戦おうなどと笑止千万っ!
見よっ、歯向かった結果がその折れた骨なのだぞっ!」
はあ。傘どころじゃなくて、骨が折れるのは御庭外くんの相手をするときだよ。
「福和内、おまえも大荒れの大雨のようだなっ」
「なっ、そんな、どうして……」
昨夜、飼っていたハムスターのピー太郎が死んじゃったんだ。
朝、僕が起きたら冷たくなっていた……。
「あのチビスケに何かあったのだろう」
「なんで判るのさ」
御庭外くんは僕の胸を見つめる。
胸ポケットに入っているのは僕の携帯。
「チビスケの写真を見ているくせに、悲しそうな顔をしていたからな」
鋭いな、御庭外くん。
「ようし、今日はこの俺様がおまえのペットとなってやろう!
ほれ、いつくしめ! 俺様が許可する!」
うぜえ。御庭外くん、うぜえ。
だいたい、ペットよりも世話が焼けるじゃないか。それも毎日だ。どこが今日だけだよ。
「おまえの雨も、俺様がやませてやるっ! フーッ、ファッファッファーッ!」
なっ。
バカやろう。
「ほれ、福和内」
御庭外くんがびしょびしょの雑巾を僕に手渡そうとする。
それで何を拭けと?
差し出す御庭外くんのその先の空が、少し明るくなってきていた。
御庭外くん、心根はいい奴なんだよな。
そう、黙っていれば、だ。