みんなをなでまわしてやる
「一人はみんなのために、みんなはみんなのために。それが共に生きるということだ」
相変わらずなに言ってんの、御庭外くんは。
「それを言うならワンフォーオール、オールフォーワンでしょ」
「フーッ、ファッファッファーッ! 解らないのか福和内よっ。よく考えてみろ、一人がコミュニティに貢献することはいいが、みんなが一人に集中したら大変なことになるだろう。
一人がみんなの頭をなでなですることはできるが、みんなが一人の頭をなでなでしたら毛根のダメージが計り知れないだろう!」
「えーっ、抜けるとか抜けないとか、そういうの関係ないよー」
「浅はかだな。よし、俺様がその一人になってやろう。さあ頭を出せ、なでなでしてやる!」
「えっ、ちょっ、なにやめてよ御庭外くんっ」
わわっ、御庭外くんが僕の頭をくりくりってなでまわすよ。
もうなでなでっていうレベルじゃなくて、頭くるくるになっちゃう感じだよ。
その上鼻息を吹きかけないでくれよ。
「ちょっと御庭外くん、福和内さんが嫌がっているでしょ!」
あ、鯉登さん。
クラス委員長だからなのか、御庭外くんの傍若無人さにしびれを切らしたのかな。
ぱっつんの前髪に後ろは真っ黒なストレートヘアーが腰の辺りまで流れていて、眼鏡の奥からのぞく視線が御庭外くんに突き刺さっているみたいだ。
「フーッ、ファッファッファーッ! ならばお前がみんな二号だぱっつんメガネよ」
御庭外くんが僕から手を離して鯉登さんの頭に手を当てる。
「なっ、やめなさ……ふわぁあ」
「なでなで、なでなで」
「あっふ、はうっ……」
鯉登さんのつややかな黒髪が、御庭外くんの強引なテクでくしゃくしゃにされていく。
僕と同じように、鯉登さんも頭をぐりぐりされている。
「よし、では次お前だ」
「うわっ、やめろ御庭外っ!」
「ぎゃー、変態につかまるーっ」
クラスの中で逃げまどう男子たち。
遠巻きに見ている女子たち。
一人、また一人と御庭外くんの餌食になっていくクラスメイト。
なでなでが終わると、みんな恍惚とした表情で立ちつくす。
「こらーっ、お前ら何騒いどるかっ」
教室に入ってきたのは鬼ダコとあだ名された教頭先生。
頭部はつるっつるでてかてか。それがすぐ怒るものだから、真っ赤な茹でダコみたいになっちゃうんだ。
「御庭外、またお前か!」
もう真っ赤になってる鬼ダコが御庭外くんの襟首をつかもうとした瞬間だった。
「なでなで、なでなで」
「ひゃふぅ~ん」
なんと、あの鬼ダコの頭を、むきたてゆで卵みたいな頭を、くりくりこねこねし始めているじゃないか。
恐れを知らないというか、なんというか。
それに鬼ダコのあのとろんとした表情。今まで見たことがないよ。
「どうだタコ坊主よ、これなら毛根も活気づくぞ、フーッ、ファッファッファーッ!」
ほうけて口からはよだれを垂らしている教頭先生に、なんてこと言うんだよまったく。
いったいどうなっちゃうのかな、もう。
一週間後。
教頭先生のてかてかだったところが、じょりじょりになっていた。
すごいな、御庭外くん。
効果覿面じゃないか。




