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暗い夜道は照らしてやる

「うわあ、もう真っ暗だ」


 僕は福和内ふくわうち。ごく普通の高校生だ。


「仕方がないだろう福和内よ。委員会に属する者どもの無能さゆえの時間ときの浪費に他ならない。それを認めてやるという寛大なこの俺様に感謝することを許可しよう」


 僕は御庭外おにわそとくんと美化委員に出たんだ。

 たまたま美化委員の人が風邪で休んじゃって、代役としてなんだけど。


「それにしてもこの学校に巣くう者の心のけがれがそのまま校舎の汚れになっているようだな」

「美化委員って、どうやって掃除を進めるかとかゴミ箱の配置や数の調整とかそういうのがメインなのに、御庭外くんがゴミを見つけちゃ片付けて汚れを見つけちゃ綺麗にしてってやっているから時間がかかっちゃったんだよ~」

「そのまま見過ごすわけにもいかんだろう」

「でもさあ」


 こういうところ変に真面目なんだろうなあ。御庭外くんってばさ。


「フーッ、ファッファッファーッ!

 ピカピカのビカビカにしてやったからな、真夜中だろうが輝いて見えるだろうさ!」


 いやそれはないでしょ。

 鏡面加工している訳じゃないんだから。


「真夜中じゃないけど、もう日も落ちて真っ暗だね」

「別にかまわないだろう。こんな暗さなど俺様の明るさで照らしてやる」

「明るいのは御庭外くんの性格だけで十分だよ~」

「フーッ、ファッファッファーッ!」


 でも確かに、これじゃ不審者は近付かないよね。

 どっちかっていうと御庭外くんの方が不審者っぽいしさ。


「ただなあ……」

「どうしたのだ、福和内よ」

「もう少し静かにした方がいいよ。近所迷惑だし」

「フーッ、ファッファッファーッ! なにを恐れる。この俺様の威光をあまねく知らしめるためにはこれでも大人しい方だぞ。

 かえって俺様の声を生で聞くことができる栄誉を喜べ」


 ああ、やっぱり来た。うるさくするから。


 いかつい大男が道を塞いでいた。


「ちょっと君、いくつか質問していいかな」

「なんだ、直答じきとうを許そう」


 偉そうだな、御庭外くん。


「もう夜なのに君たちは何をしているんだね」


 巡回中の警察官だよ。

 職質ってやつだよ。

 疑われているよ。


「美化後の帰宅だ」

「じゃあ、その手に持っている大きな袋はなんだね」


 得意げな御庭外くん。

 学校を出る時から持っている大きな袋。

 確かに不審がられてもしょうがないのかなあ。


「ほほう、この中に興味があるというのか。面白い」

「君、大人をからかうのはよしなさい。中を見せるの、見せないの?」

「フーッ、ファッファッファーッ! 官憲かんけんよ、疑わしきは罰せず。その醜い心と同じものがこれに詰め込まれているのだ」

「いいから見せなさい」


 警察官が御庭外くんから袋を奪い取る。


 僕は中身を知っている。

 一緒に下校してきたからね。


「これは……ゴミ?」


 懐中電灯で袋の中を照らす。

 中には道すがら拾ってきた紙くずやらガムの包み紙やらタバコの吸い殻に空き缶、ペットボトル。


「これをどうするつもりだったんだ?」

「きまっている。分別して曜日ごとに捨てるのだ」

「なんでこんな」

「落ちていたからな。なんなら遺失物としておまえにすべてくれてやってもいいぞ」


 警察官は袋の口を閉じると、御庭外くんに返した。


「それは遠慮しておくよ。君はいい学生だね」


「ほほう、大人にしては解るではないか。ではこの俺様の心意気に賛同するというのであれば、ほれ」


 御庭外くんは警察官に何かを渡した。

 あれは、五角形に折りたたんだスーパーのレジ袋?


「これで道に落ちている不浄の物を拾うといい。この袋の形、桜の代紋と同じだろう? フーッ、ファッファッファーッ!」


 桜の代紋、旭日章きょくじつしょうとかっていう、あの警察とか消防とかで使ってるシンボルね。

 それとレジ袋を一緒にすると怒られるよ。


「今日の俺様は、美化委員だからな。フーッ、ファッファッファーッ!」


 僕たちはレジ袋を手に棒立ちになっている警察官をそのままにして、家の方へ歩いて行く。

 やっていることはいいことなのかもしれないけど、辺りも暗いんだからやっぱり声のトーンは落とそうよ。


 ね、御庭外くん。

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