俺様の輝きを見せてやる
僕たちは校外ホームルームで裏の山へハイキングに来た。
校外ホームルームというのは、要するに遠足だ。
「福和内よ」
「なんだい、御庭外くん」
「お前は小腹が減ったときにどうするのだ」
また遠回しな言い方を。
「御庭外くん、おやつは三〇〇円までだよ」
「ふっ、それしきこの俺様が理解していないとでも思っているのか」
「え、なになに、福和内さんたち、お菓子の話?」
「羽楼院さん」
おやつ談議になったら、早速登場。
「流石だな羽楼院よ。トラック、が、フレンドだな」
おいおいトリック、オア、トリートだろ。
ちっとも似てないよ。
「ブフフ、それを言うならストリップ、オブ、ストリートよ御庭外くん」
羽楼院さんそれじゃ捕まっちゃうって。
「それでそれで、二人の三〇〇円の使い方を教えてよ」
「仕方ないなあ」
僕は背負ったバッグから大きな袋を取り出す。
「おおっ、これはおいしん棒だなっ。量を稼ぐとは定番だな福和内よ」
「あ、でもこれ、一、二、っと、三二本あるよ。一本一〇円でしょ?」
やはり、そこに来たか。
「これはお菓子専門店の三〇本セットで二八〇円だったから、それにバラで二本追加したんだよ」
「へへえ、福和内さんも策士ねえ」
「そういう羽楼院さんはどうなのさ。ほれほれ見せてみなよ」
羽楼院さんは照れたそぶりをしながらも、ドヤ顔でお菓子を取り出す。
僕のおいしん棒よりも大量のお菓子だ。
「ど、どうしたのさこれ。ラムネにアメに、チョコも。おせんべいもあるし、これはマシュマロ?
すごいね、しかも大量に」
「でしょでしょー」
「だが、この量を三〇〇円とは、にわかに信じられんぞ腐れオタ女」
「ブフフ~。これよこれ」
羽楼院さんが見せてくれたスマホの画面には。
「お菓子問屋のネット通販……」
確かに商品そのものは二九九円になってるし、プレミア会員とかで送料無料の当日配送になっている。
これに費やされた運送会社の労力とかは、きちんと報われているのだろうか心配になってくるよ。
遠足のお菓子にそこまでするか~。
その根性もっと他に生かせばいいのにね。
「これだけあれば、いっぱい交換できるし、わらしべ長者も夢じゃないわ」
単価が単価だからなあ。知らずに交換する人もかわいそう、なのかな。
「それで、御庭外くん……うわっ」
御庭外くんの姿を見て羽楼院さんがのけぞる。
「フーッ、ファッファッファーッ!
見るがいい、この俺様を飾る宝石の数々をっ!」
御庭外くんの十本の指にはそれぞれ色とりどりの指輪がはめられている。
そしれその台座には大きくてカラフルな。
「宝石キャンディ……」
これって舐めている内に手がべとべとになっちゃうし、一個一個がおっきいからなかなか食べきれないっていう出オチみたいなアメじゃん。
一個三〇円だから、確かに一〇個で三〇〇円か。
「ふ、福和内さん、お菓子交換しようよ」
「そうだね、そうしよう。僕はね、えっとコンポタ味をあげるよ」
「じゃあ私はこのチョコ入りマシュマロね」
「おい、この俺様の宝石とチェンジしてやってもいいんだぞ」
「え、いいよ遠慮しとくよ。だってそれもう全部君がべろべろしたんだろ?」
「だがまだこれだけ大きいぞ、どうだ」
「どうだって言われたってヤダよ」
「じゃあひと舐めでも」
「あ、もしかして、なくならないからどうしようかって思ってたりする?」
「そ、そのようなことは、断じてない。一切ない。俺様に誓ってないぞーぺろぺろぺろ」
おー、御庭外くんの高速ぺろぺろが始まった。
十本まとめてぺろぺろしてる。
これはこれで……。
笑える。
変な奴。
「よーし、学校に帰るぞー。みんな荷物持ってー」
クラス委員長の鯉登さんがみんなに声をかける。
「ほら御庭外くん、いつまでおやつタイムしているのよ。早く帰る支度しなさいよ」
「えーい、黙らんかこのぱっつんメガネぺろぺろぺろ」
「気色悪い。人を呼ぶのにぺろぺろ言うな。それにその言い方やめてよね!」
鯉登さんの肘打ちが御庭外くんの横腹を打つ。
御庭外くんは潰れたカエルみたいなうめき声を上げながらも、ぺろぺろは止まらない。
ある意味尊敬に値……しないよ。
「福和内さん、それは?」
羽楼院さんは僕が後ろ手に持ったレジ袋を見て、なんか得心顔。
仕方ないなあ。御庭外くんがにっちもさっちもいかなくなったら、このレジ袋にいったん宝石たちを入れたらいいよ。
「ぺろぺろぺろ……」
でももうちょっと、指にはめたキャンディを一所懸命どうにかしようとする御庭外くんを見ていようかな。




