なんでも乗りこなしてやる
「ね、ねえ福和内さん」
「どうしたのさ、羽楼院さん」
羽楼院カンナは、僕のクラスメイトだ。
絵が上手なんだよね、羨ましいけど。
僕や御庭外くんとも席が近いから、休み時間になれば何かと会話するようになった。
「昔の乗り物って言ったら、馬かなあ?」
時代にもよるけど、車とかが無い頃だったらそれもアリかもね。
「うーん、輿とか馬車とかもあるよね」
「あー、そうだよね。あれ、そのイラスト?」
「そうなの。今期の覇権アニメの剣闘鬼に出てくる、信哉様なの」
「へえ、やっぱり上手だねえ。僕もちょっと見たけど、丁度戦国時代って今の授業でやってるところだもんね。僕も気になっていたんだよなあ」
「やっぱり、秀志代との掛け合いが、もう、それはブフフ……ご馳走様ですぅ」
「そうなんだ、面白いんだね~」
だいぶ歴史との解釈が違っていたから、初めの五分で観るのをやめちゃったんだけどね。
「それでね、さっきの話なんだけど、福和内さんは乗り物って言ったら何が好きかな。
あのねあのね、時代はいつでもいいの。武将とのミスマッチも嬉しいから。
現代転生とか、はかどりまくりだものブフフ」
うーん、なんだろ。
「バイクとかあるよね。現代の鉄の馬なんってさ。僕は乗れないけど、後ろに乗せてくれたらそれはそれで気持ちいいかも」
「あー、いいわね~。でも描くにはオートバイは難しいわあ」
そっかあ。乗り物って言っても、後はゴーカートとか、自転車とか?
飛行機やバスみたいに、みんなで乗ってるってのもアリならいいけど、それはどうかなあ。
「フーッ、ファッファッファーッ!
聞いていれば乗り物がどうとか、隣でくだらぬ妄想に話を弾ませているなあ!」
「なんだよ御庭外くん。だったら君は戦国武将に合う乗り物ってなんだか言ってみてよ」
ちょっとあごに手を当てて考えている風を装う。
黙っていれば、結構様になるんだけどねえ。
「あれだな。
魔法の絨毯」
なんだよいきなりメルヘンかよ。ファンタジーかよ。
「魔法の絨毯って、あの空を飛ぶとかいう中東の話に出てきそうなやつかしら?」
「何を言うか腐れオタ女よ。魔法の絨毯と言えば、何もしなくても温かくなってくる、あの絨毯にきまっているだろう!」
「御庭外くん、それは電気カーペットじゃないの?」
「ふむ、一部の人間はそう言うかもしれないがな」
御庭外くんの一部ってどんだけ限定なんだよ。
電気カーペットを魔法の絨毯っていう奴の方が天然記念物並みの遭遇率だと思うよ。
「だいたい、乗り物じゃないでしょ」
「上に乗るだろうが」
「うーん、そうなんだけどさあ」
「まあまあ二人とも、仲がいいのは解ったから、ね」
別に喧嘩をしている訳じゃないけど、羽楼院さんにしてみれば僕と御庭外くんの会話が掛け合いに見えたりするのかなあ。
「御庭外くん、乗る物で動く物って言ったら、何をイメージする?」
「なんだ、動かなくてはならないのか。それならばこれしかないだろう」
「なになに?」
「エスカレーターだ。乗って動くし前に進む」
戦国武将がエスカレーターに乗るとか、もう海の近いイベント会場でコスプレして並んでる人みたいになっちゃうじゃん。
「あー、それ面白いかもー。
武将たちがエスカレーターに並んで乗っている絵なんて、シュールだわあ」
「あれ、羽楼院さんにはウケてる?」
「見たか福和内よ。この俺様に部分的とはいえども、ついてこられる者はいるのだよ。
フーッ、ファッファッファーッ!」
えー。そんなところで接点が生まれているとは思わなかったよ。
御庭外くんも御庭外くんだけど、羽楼院さんもなかなか普通の感覚じゃないみたいだねえ。
でも、二人が会話している姿はよくあるクラスメイトのバカ話みたいで、楽しそうに盛り上がってるところなんか普通の風景にも見えるね。
その中で繰り広げられている内容については、触れないようにしておくけどさ。
僕にはさっぱり理解できない単語が飛び交っているから。
きっと宇宙語ででも喋っているんだろうね。
「ねえ、次の授業は移動教室だけど……」
って、聞いてないからいいや。二人はこのまま放っておこうかなあ。
なんて思ってたら、案の定次の授業に遅れそうになって、鯉登さんが教室まで呼びに来ちゃって、僕まで一緒に怒られちゃった。
なんだか納得いかないなあ。
だけど、こんなことくらいよくあることだもんね。そういう意味じゃ、異常が日常なのかもしれないなあ。
やれやれ。




