落とした物は拾ってやる
「ちょっと御庭外くん、邪魔だから椅子に座りながらあぐらをかくのやめてよね!」
「フーッ、ファッファッファーッ!
メガネっ子委員長の鯉登よっ、この俺様の領土に踏み込もうとは大した度胸だなっ!」
あーあ、またやってるよあの二人。
そこへ軽い音を立てながら鉛筆が御庭外くんの机の下へ転がっていく。
無意識に鯉登さんが御庭外くんの机の下に手を伸ばす。
「言ったそばから領土を地下から侵犯しようとは、侮れんなぱっつんメガネよ!」
「あーはいはい、っと。この鉛筆、羽楼院さんのよね?」
鯉登さんは根っからのお節介なのかもしれないし、ただ単純に度を越した優しい女の子なのかもしれないけど、御庭外くんの脅しにも屈しないで鉛筆を拾ってあげた。
「あ、ありがとう、鯉登さん……」
おずおずと鉛筆を受け取る羽楼院さん。
いつもおどおどしているから、御庭外くんの机の下に手を伸ばすなんてことはできないんだろうね。
ましてや御庭外くんに鉛筆取ってなんて言えないんだろうなあ。
「あら、羽楼院さん絵がお上手ね」
鯉登さんが鉛筆を渡しながら羽楼院さんのノートを覗き込む。
「え、や……でも、ない……」
「へぇ、どれどれ僕にも見せてくれるかな」
羽楼院さんが軽くうなずくのを見て、僕もノートを見せてもらう。
「うわあ、ほんとにうまいねー」
「福和内さんもそう思うでしょ?」
僕の声に鯉登さんもうなずきながら答える。
「鯉登さんも福和内さんも、そんなじっと見ないで……」
「すっごいうまいよ、自信もっていいレベルだよー」
羽楼院さんは、えっととかあのとか言ってもじもじしているけど、僕なんて絵心がないからとっても羨ましい。
「羽楼院さんって、物持ちいいんだねえ」
「え、どうして?」
「だって、鉛筆こんなに小さくなるまで使ってるでしょ?」
あれ? 僕変なこと言ったかな。
羽楼院さんうつむいてもじもじしはじめちゃった。
「あの、ね。私あんまり、あれだし、もったいないから……」
見ると、商店街の福引きとかラジオ体操で町会からもらったやつとか、そんな鉛筆ばかり。
それに全部小さくなっちゃって。
買って、もらえてないのかな。
なんだか家庭の事情に踏み込んじゃったみたいで、気まずい……。
少しの沈黙。
そこに割って入るように、床で乾いた音がした。
「御庭外くん、鉛筆落としたよ?」
そこには、一ダース入りの鉛筆の箱が落ちていた。
「羽楼院よ、その箱を拾わせてやろう」
相変わらず横柄な態度に、言われた羽楼院さんじゃなくて鯉登さんが噛みついた。
「御庭外くん、その言い方はないでしょ! 拾ってくださいお願いします、でしょ!」
「相変わらず口やかましいな鯉登よ。お前は世話焼き女房かっ」
「なっ、にょ、女房って……ばっ、馬鹿を言うなっ!」
「もうしょうがないなあ」
羽楼院さんが鉛筆の箱を拾って御庭外くんに渡した。
「フーッ、ファッファッファーッ! よくやった、褒美を取らそう。羽楼院よ受け取るがいい」
そう言うと御庭外くんは鉛筆の箱から新品の鉛筆を三本抜き出して、それを羽楼院さんに手渡した。
「え、なんで?」
そりゃあ不思議だよね。
「無知であることは罪だなあ、羽楼院よ。
ここは常識人たるこの俺様が説明してやろう」
おいおい御庭外くん。君のどこが常識人なのか、そこを説明してほしいところだよ。
だいたいそこが一番非常識なんだぞ。
「いいか。落とし物を拾ったら持ち主は謝礼として何割かを拾った人に渡すのが習わしだ。
そんなことも知らないのか?
これだから近ごろの若いのは」
君も近ごろの若いのだろうが。
クラスメイトなんだから同い年なんだしさ。
「それはその、知っているけど。でもこれって……御庭外くん、いいの……?」
「不要なら捨てろ。礼を受け取られないとなれば、俺様の面子が丸つぶれだからなっ。
間違っても礼を無礼で返そうとするなよ!
フーッ、ファッファッファーッ!」
「ねえ福和内さん」
「なに、鯉登さん」
「御庭外くんって、時々面倒くさいことをするわよね」
「うーん、そうだね。御庭外くん自身も面倒くさい人だけどね」
うん。
ウザくて面倒くさくて。
「でも、悪気はないのよね。きっと」
「そうだね悪い奴じゃないんだけどなあ。疲れるでしょ」
「そうね、それもかなりね」
僕は御庭外くんと羽楼院さんのやりとりを見ながら、鯉登さんと内緒話をしていた。
まあ実際、御庭外くんって見ている分には飽きないかな。
こっちに火の粉が降りかかってこなければね。
ファンアートを貴様 二太郎様より頂戴しました。
私のキャラに対して人生初のファンアートでした(≧▽≦)
貴様 二太郎様、ありがとうございました!




