すぐさま終わらせてやる
「それじゃあ宿題を回収します。後ろの席の人はどんどん前の人に渡していってくださーい」
朝のホームルームの前に、クラス委員長の鯉登さんが宿題を集める。
うちのクラスの日課みたいなもので、前の日に出されていた宿題を朝に集めているんだ。
提出しないと成績に影響があるっていうんで、宿題が出た次の日は遅刻する人も減るという効果もあるみたい。
いつものように、椅子の上であぐらをかいていた御庭外くんが腕を組んでふんぞり返っていた。
「あれ、御庭外くん、宿題提出した?」
「福和内よ、問題はない」
「御庭外くんはちゃんとやってきたの? 宿題」
御庭外くんが宿題を提出するそぶりも見せないからさ、鯉登さんが心配して御庭外くんに声をかけてきたよ。
「フーッ、ファッファッファーッ!
宿題? そのようなもの、この俺様がやるわけないだろう!
そもそも学校とはなんだ、ぱっつんメガネよ!」
黒髪ロングの前髪ぱっつんで細ぶちメガネをしている鯉登さんに喧嘩を売っちゃったな。
「がっ、学校は勉強をするところよっ! それがなんだっていうのよ!」
ほらね。
「愚者は愚者なりに理解しているじゃないか。
その言葉を認めよう。確かに学校は勉強をする場所だ。
だから勉強は学校でするものだ。
家に持って帰ったら負けだっ! 宿題は勉学に負けた奴がやるものだっ!
フーッ、ファッファッファーッ!」
自宅学習真っ向否定だよ。
サービス残業嫌いなサラリーマンみたいなことを言っているよ。
そのくせプライベートじゃゴロゴロしているかテレビを観ているかくらいなんだから、大人になった姿を想像できちゃうくらいだよ。
「そんなこと、成績が真ん中くらいのあんたが言ったところでなんだっていうのよっ!
未提出だって先生に言っちゃうから!」
「フーッ、ファッファッファーッ! 試験の得点だけが高い愚か者だとは思ったが、真実を知らないとはお前の目はボタンで出来ているぬいぐるみより物が見えないようだなっ」
「なっ、なんですってぇ!」
「まあ待ってよ鯉登さん」
「福和内さん、手を離してっ」
「ほら、御庭外くんもそんな乱暴なこと言わないで、きちんと謝ろうよ」
「ふふん、何を恐れる福和内よ。俺様の正しさは教壇の中で証明されるだろうよ」
そこまで言うのなら。
僕は教室の前に行くと、教壇の中を確認してみた。
「あ」
そこには御庭外くんの分がしっかり置かれていた。
「御庭外くん、なんで宿題やってないなんて言うのさ。ちゃんとやっているじゃないか」
「まだ解らないか福和内よ。こんなもの、帰りのホームルームまでに終わらせていれば持って帰る必要もないだろう。
フーッ、ファッファッファーッ!」
ああ、そういうことか。
確かに宿題でも居残りでもなく、提出もできているから文句のつけようもない、か。
「そういえば、昨日カバン持ってくるの忘れていたみたいだけど、今日はちゃんと持ってきてる?」
「ふむ、そのような過去のことなど覚えていないな。この俺様がカバンを忘れるなど、ネットの検索で出てきたとでもいうのか、ん?」
出るわけないだろ、そんなこと。
でも、だから持って帰れなかった……。
「そんなこと、ないか」
「ん? どうした福和内よ」
「んん、なんでもない」
教室のドアが開き、担任の先生が入ってくる。
「よーし、ホームルーム始めるぞー。みんな席に着けー」
鯉登さんが先生に宿題の束を提出すると、御庭外くんを一瞬にらんで席に着いた。
御庭外くんは何食わぬ顔で椅子に座っている。
なんだかんだで、いつも通りだなあ。
今日は宿題が出たら、帰りの時間までに終わらせてみようかな?




