経済を回してやる
「あーっ! また椅子の上にあぐらかいて」
休憩時間。御庭外くんの方を見ると、確かに椅子の上であぐらをかいていた。
「それがどうした、クラス委員長の鯉登よ」
「どうしたもこうしたもないでしょ、御庭外くん!
行儀悪いし、何より汚いじゃないの!」
鯉登さんが御庭外くんの上履きを指差す。
まあそうだよね、上履きを履いたまま椅子の上にあぐらをかいてちゃ、汚いって言われるよね。
「フーッ、ファッファッファーッ!
この俺様の履く物がけがれているとでもいうのか鯉登よっ!
この、洗いたて新品のような上履きを」
「何が洗いたてよ。その上履きで体育館やトイレに行ったりしているんでしょ!
福和内さんも何か言ってやってよ!」
ええっ、こっちにいきなり振るかな。
あぐらをかきながら腕を組んで、御庭外くんが意地悪そうに笑っている。
ああ、鯉登さんが御庭外くんに火を付けちゃったかなあ。
「視野狭窄、無知蒙昧、荒唐無稽、焼肉定食とはおまえのことだ、このぱっつん前髪メガネっ娘委員長よっ」
なんだか最後の方はおかしなことになっているぞ。
「なっ、なっ、なんですってえ! 誰が焼肉定食よっ!」
って、鯉登さん突っ込むところそこじゃないでしょ。
「この上履きは椅子の上であぐらをかく用に使っているのだ」
「えっ、じゃあ……」
あ、なるほど。
確かにちょっと薄汚れた上履きが、机の下に揃えて置いてある。
え?
「なんで上履きが二足あるのよ!」
「解らん奴だなあ。だから言っているだろう、今履いている上履きは椅子であぐらをかく用だと」
「そんなわけないでしょ!」
確かにそんなわけなかったんだよね。
あの時は週明けだったかな。
上履きを持ってくるの忘れたとか言って、購買に行って新しい上履きを買ってきたんだっけ。
それで教室戻ってきたら、先週末に持って帰るのを忘れた上履きが袋に入って机の脇にぶら下がっていたってわけで。
「上履き忘れたのを忘れちゃったんだろ」
僕が聞いても、慌てるそぶりも見せなかったんだよね。
「この俺様が忘れ物をするわけがないだろう。
仮にあったとしても、それはあえて不要な記憶を忘却の彼方へ投げ捨てただけであって意図的に置いていったのだ。
だからほら、こうして経済を回して国力を高めるために一役買ったというわけだな。
フーッ、ファッファッファーッ!」
なーんて言っていたけど、国の経済はいいけどそんなことしていたら家計が火の車で回らなくなっちゃうっていうの。
実際、その週は小遣いがないっていうから僕がお弁当を少し分けてあげたりしたじゃないか。
確かにそういう意味じゃ、上履きとして使っていない上履きなんだから、きれいきたないで言えばきれいなんだろうけどさ。
授業開始のチャイムが鳴った。
鯉登さんはしぶしぶ自分の席に戻っていく。
御庭外くんは、ああ。
きちんと履き替えているんだ。教室用の上履きに。
律儀というか、まめというか。
そんなのだったら、椅子の上であぐらなんてかかなければいいのにね。




