その謎を解いてやる
「御庭外くんっ」
御庭外くんに話しかけてきた命知らず、じゃなくてクラスメイトは、クラス委員長の鯉登メイ。
クラスでも容姿端麗、成績優秀、ロングの黒髪は前髪ぱっつんで、細い縁のメガネが印象的な、ちょっとかわいい女の子だ。
「どうしたのさ、鯉登さん」
「ああ、福和内さんもいたのね。ほらこれ」
鯉登さんが取り出したのは、この間やった試験の……。
「御庭外くんの解答用紙?」
「そうよ。廊下に落ちてたの」
うーん、見事に中の上。平均点より若干上な程度の点数が並んでいる。
「気をつけなさいよね、御庭外くん」
「ふん、礼は言わんぞ。この俺様は過去にはこだわらない。過ぎ去ったことに一喜一憂するのは愚者の行いだ」
そう言って受け取った解答用紙をぐしゃぐしゃにするのは愚者の行いじゃないのかい、御庭外くん。
「あきれたわね。間違ったところを見直して何が駄目だったのかを確認しないと、期末でもまた同じようなところで間違えるわよ」
「そう言うがな、鯉登よ」
「なによ」
「俺様は過ちなどしていないのだ」
「はあ?」
怪訝そうな顔で鯉登さんが御庭外くんの解答用紙をひったくって広げた。
「これのどこが正解なのよ。間違いだらけじゃない」
確かに。
数学の計算問題も、一問目は当たっているけど二問目以降がバツになっている。
「俺様は移り気を許さん」
「だから何よ」
「このエックスというやつは、一問目では六と言っていたにもかかわらず、二問目では十だという。
そのようなコロコロ変わる信念の無い奴は認めん」
ああ、だから二問目もエックスを六として計算したのか。
計算も答えもぐちゃぐちゃだけど。
「じゃあこれは何? 花粉症の原因と思われるものを書けってやつ」
どれどれ……。
「ぶっ、国策の過ち?」
「正解はスギとかヒノキの花粉でしょ。どういうことよこれ」
「フーッ、ファッファッファーッ! 愚か、愚かだなあ!
いいだろう、よく聞け優等生を気取る委員長よ。
花粉症の原因?
そんなものは高度成長期に住宅不足を補うため植林を奨励していたところで、鉄筋コンクリートや外国からの安い建材の輸入で木材が使われなくなったが、それを政策変更しなかった為政者どもが諸悪の根源なのだ!」
いやいや、それは国会答弁で野党議員が言うような話だから。
学校のテストで出るような問題じゃないし、それが正解だとしたら先生の政治信条を試験に反映させたとして問題があるから。
「じゅ、授業でやった内容以外の解答なんて、正解になるわけないじゃない!」
「それこそ狭い見識にとらわれた者の考えだ。くだらない枠組みにはとどまる理由もないっ!」
ああ、鯉登さんの顔が赤くなっていく。
心なしか手も震えて。
「な、ならこれはいったい何なのよ。この文章問題の答えは」
「それこそ愚問。俺様の答えが真実を伝えている」
「ちょっと鯉登さん、借りるね。えっと、どれどれ……。
花子は痛みと恐怖を隠しながら、太郎に一言、ありがとうとだけ伝えて事切れた。
この時の作者の心情を述べよ」
確かこれは、有名な小説のラストあたりで主人公を助けたヒロインが死んじゃうシーンだったんだよね。
「えっと、確か僕は作者も悲しさを抑えながら花子の太郎を想う気持ちを伝えたかった、とか書いたかな」
「福和内さんもそうでしょ。私もそうなのよ」
「作者の心情だろう? そのようなものは推して知るべしだ」
御庭外くんの解答用紙には、作者の心情として次の一文が記されていた。
これを書き終えたら寝よう。それにもっと原稿料上がらないかな。
今回からは、以前の出だしと締めを踏襲しないで書きました。
それでも楽しんでもらえたらうれしいです。




