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リル  作者: リル
3/3

letter..

『リル』


あたしは両親を知りません。

だから、名前の由来がどんなものかもわかりません。


きっとリル・キムのような、リル・バウワウのような‥『little』からきた『lil'』なんだろうと勝手に考えます。


ただ、あたしはただの『リル』であって、その後に続くものはありません。

だから、大人になった今でもあたしは、バウワウのようにはなれずに、一生『リル』のままなのです。



それでも、この名前が今は好きです。


時々考えます。

どんな人が考えたんだろう。

何を思いながらつけたんだろう。


それを考える時間、あたしは誰かの腕の中に抱かれています。


あたたかさはいつも人の腕の中にあります。どんな言葉でも決して埋められない心の隙間を、一瞬で埋めてくれるのは強く抱きしめてくれる腕だけです。


あたしは本当に大切なものに『大切だよ』という言葉をかけたりしません。何だか虚しくなるからです。


残念なことに、人は嘘をつくことができるのです。

動物のように、本能だけをふりまいて生きることはできません。


あたしは、人のあたたかさを、言葉ではなく身体だけで感じとるのです。


誰かの腕の中にいるあたしは、確かなあたたかさの中にいて幸せを感じます。



それはあたしにとって悲しい事実でした。


あたしには捨てられない手紙があります。


何度引越しをしても、身体ひとつとその手紙だけは捨てられずに存在しているのです。


【手紙】と言っても、可愛いレターセットの便箋と封筒ではありません。かっこいい縦書きの便箋に筆書きをされたものでもありません。

ボロボロのメモ用紙にボールペンの走り書きです。

それでも確かに、あたしへの【手紙】であって、単なる覚え書きのメモではないのです。


はるかに昔の話です。

あたしが幼稚園生の頃でしょうか。記憶は確かではありません。


幸せなことに物心がついた時には家族と呼べる存在の義理の母と父がいました。


沙世[さよ]と修[しゅう]には奈緒という娘がいます。つまり奈緒はあたしの義理の姉にあたります。


彼らはあたしに対してごく自然に接してくれました。

ごく自然に、あたしが【施設育ち】であることも話しました。あたしもごく自然にそれを受け止めました。例えば奈緒の写真を見ているとき、あたしが

「リルのも見たい」

と言えば、

「リルは施設にいたからここにはこれしかないのよ」

と、産まれてすぐに誰かの手の中に抱かれている一枚の写真を見せてくれました。


そこには確かにあたしを置いていったであろう母親の手元だけが写っていましたが、当時のあたしはその手に抱かれるあたたかさを感じとるのみで疑問や憎悪など抱えることはしませんでした。


ただ言われるままの事実を信じることしかしない人間でいられたのです。

ただただあたり前の誰にでもある日常のように、それらを捉えることができていたのです。


それはここで育ったあたしの才能でした。




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