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第二話『大災害』

夜櫻さん達の〈大災害〉初日目です。




wildcats3様の『私家版 エルダー・テイルの歩き方 −ウェストランデ編−』より西武蔵坊レオ丸さんお名前を…


読んでいるだけの人様の『ある毒使いの死』よりレディ・イースタルさんのお名前と所属ギルド名を…



にゃあ様の『ログホラ二次外伝〜六傾姫の雫〜シリーズ』より桜童子にゃあさんとギルド〈工房ハナノナ〉メンバーのお名前を…


らっく様の『片翼の天使〜シブヤに舞い降りた道化師〜』より片翼の天使ギルファーさんを…


沙伊様の『アキバへの旅程』、『ザントリーフの戦線』より蒼月さんのお名前を…


ブラブル様の『フォーブリッジの街へ』よりユーミンちゃんとユウマ君をお借りしています。



尚、ブラブル様に許可を戴き…ユーミンちゃんとの会話シーン及びユウマ君との会話シーンを一部省略したりし、修正したりの編集をしつつ…掲載しております。

ブラブル様、ご協力ありがとうございます!!




それから…『招き猫クロ』氏の関西弁の方言に関して、wildcats3様から御指導して戴きました。

wildcats3様、ありがとうございました。






──あれ…?アタシ、いつの間に寝落ちしたっけ…?




徐々に覚醒する意識の中で、アタシは思わずそう考えていた。




「何なんだよ!これは!!」

「いや…、何これ……?」

「どうなってるんだ!責任者、出てこいよ!!」

「誰か……助けて……」

「嘘…嘘よ…!お願い!夢なら覚めてよ!!」



──意識が完全に覚醒すると、何故かアタシは路地裏に倒れていて…路地裏を少し出たその先には、見覚えのある騎士風や武者風の鎧兜や魔術師風のローブ姿,神官風や巫女・神主風の…ファンタジー系あるあるの服装をした…コスプレイヤー集団(?)が喚いたり、嘆いたり、泣き叫んだりしている。


ゆっくりと身体を起こし、路地裏から顔を少し出して辺りを軽く見渡すと…古びた廃ビル群にあっちこっちから伸びてきている蔓が力強く絡み付き、立派な大樹と融け込み合った風景は…何故か、見覚えのある場所だった。




──見覚えがあるのは当然だ。




そこは、〈エルダー・テイル〉で…アタシが慣れ親しみ、本拠地ホームグラウンドにしているプレイヤータウン─〈アキバの街〉だった。






◇◇◇






──ゆっくりと後退して、再び路地裏の最初に自分が倒れていた地点に戻ってくると…しばらく思考する。


(う〜ん…。アタシは確か、新拡張パック〈ノウアスフィアの開墾〉の導入を弁護士事務所で迎えていた筈なんだけど…)


今度は、チラリと視線だけを向けてみて…路地裏の出口から見える近場の人達の服装は、よく知る〈エルダー・テイル〉のプレイキャラの装備…そのものだ。




──しばらく考えた末、アタシはこう結論付けてみる。




「う〜ん…。うん、夢…かな?」

「…んな訳、ねぇだろうがぁぁぁあああああ!!!」

「うひゃあ!?」


背後からの突然の怒号に近いツッコミに、アタシは思わず驚いてしまう。

ゆっくりと後ろを振り向くと…そこには、鮮やかな緋色の耳と尻尾を垂れ下げさせてしゃがみ込んでいる…アタシの親しい友人の一人、〈狼牙族〉の〈盗剣士スワッシュバックラー〉のカンザキ君が居た。


「ザッキー!?

…って、何でしゃがみ込んでるの?

それに…ザッキー、狼の耳と尻尾が生えてるよ?」


アタシの指摘に、ザッキーは落ち込んだ溜め息を洩らしながら答える。


「……ちょっと、食事に関して残念な事実が判明してな…

後、その指摘…そっくりそのままお返しするぞ。

お前なんかは、耳がエルフ耳になってんぞ」


ザッキーの指摘を受けて、試しに耳を触ってみる。




──指先から伝わってきた感触は、アタシの耳がエルフ特有の長く尖った耳になっている事を伝えてきた。



「あっ、本当だ」


自分の耳がエルフ耳になっている事実を確認し終えた頃合いに…路地裏の入り口から三人の子供達が涙目で駆けて来て、三人同時にアタシの身体にしがみ付いてくる。


三人の子供達から数歩遅れる形でゆっくりと、とっしーが歩いて来ている。


更に、その後ろから楽しそうに鼻歌を歌いながら軽快にスキップでアル君がやって来ている。


そのアル君から少し遅れて…ポポちゃんとフーちゃんが、苦笑いを浮かべている。


二人のすぐ後ろを…いつもの冷静沈着でクールビューティーな雰囲気を纏ったみーちゃんと、普段とは全く違う…どんよりと暗い雰囲気と落ち込んだ表情のフェイ君が歩いて来ていた。





──アタシは、未だに泣きながらしがみ付いている三人の子供達─ミユキちゃん,シュウ君,アミちゃん─の各々の頭を優しく撫でながら…とっしーに声を掛ける。



「ありがとう、土方君。

わざわざ、アミちゃん達を捜してきて保護してくれたんでしょ?」

「はい。この非常時で、この混乱状況…どの様なトラブルに巻き込まれるか分かりませんから」


現実リアルでも頼れる兄貴分は、この状況でもブレる事無く…この状況に陥る直前まで面倒を見ていた新人三人の保護を最優先に行動していた様だ。


「ところで…アル君がやけにハイテンションっぽい様だけど?」

「「…それは…」」


異口同音に、ポポちゃんとフーちゃんが口を開こうとしたが…アル君本人がそれを遮る形で語ってくれた。


「所長!〈エルダー・テイル〉の世界ですよ!!

夢にまで見た、憧れの〈エルダー・テイル〉の世界にやって来たんですよ!!

しかも、自分自身はアルセント(キャラクター)になっているんですよ!!

『〈エルダー・テイル〉にキタァー( ゜∀゜)ー!!』ってなりませんか!!」

「なるかボケッ!!周りの雰囲気くうき読め!!」


荒い鼻息を出しながら…興奮気味に熱く語るアル君に、ザッキーが怒りながらツッコミを入れている。


「……アルセントの様子の理由は…まあ理解出来たよ。

で…フェイディットは、どうしたの?」


アル君の熱烈な熱意に…若干引きながらつつも、今度はフェイ君の暗い雰囲気と表情の理由を尋ねる。


「「それは……」」

「……悪夢です……」


言いにくそうな表情を浮かべるポポちゃんとフーちゃん。

フェイ君は、さっきからブツブツと『悪夢です』と呟き続けている。


アタシの疑問に答えてくれたのは、みーちゃんだった。


「所長。副所長は、この混乱した状況下で精神的にかなり不安定になっている様子です

後…先程、一通りの確認が終わり…かつてのメニュー画面を呼び出す場合は、額の辺りに意識を集中させて下さい。それで呼び出せます。

〈フレンド・リスト〉機能と〈ボイスチャット〉機能及び〈所持アイテム〉メニューは、正常に機能しています。

特技スキル〉メニューに関しては、流石に街中(プレイヤータウン内)なので自重しました。

ただ…〈GMコール〉と〈ログアウト〉ボタンは機能していない様です」


どうやらフェイディットは…この非常事態と呼べる状況に陥った事で、精神がかなり不安定な状態になってしまった様だ。



──後…流石は、みーちゃん。



ゲーム時代に使用していたメニュー画面の呼び出しや各メニューの確認等の…一通りの確認作業をアタシとの合流までに色々と済ませていた様だ。


「……最悪です……」


そのみーちゃんからの報告を受けて、フェイ君が更なるショックを受けたらしく…その場にしゃがみ込んでしまった。


「所長、これからどうしますか?」

「三佐さんからは〜、ギルドキャッスルに集合する様に連絡がきましたよ〜」


ポポちゃんが今後の行動についてを問い掛け、フーちゃんは自分の所属するギルドからの連絡事項を報告してくる。



──いつまでも、この混乱した状況下にアミちゃん達新人と精神的に不安定なフェイディットを置いとく訳にもいかないし…彼ら(彼女ら)の精神衛生上、良くないだろう。


…なら、取れる方針はただ一つ。




「とりあえず…まずは、落ち着ける安全な場所に移動しよっか?周りが凄く喧しいし」


アタシの発言に…何故か、とっしー,ザッキー,アル君,ポポちゃん,フーちゃん,みーちゃんの六人が一斉にずっこけていた……。






◇◇◇






──ザッキーの勧めで…アタシ達は一旦、〈放蕩者の記録デボーチェリ・ログ〉ギルドハウスへとやって来た。



ギルドハウスに到着すると、すぐにザッキーは用事があると言って街中へと消え行った。


アタシは振り向くと、ポポちゃん達へと話し掛けた。


「さて、安全な場所に到着したけど…

土方君,アルセント,蒲公英,フルート,瑞穂の五人は、これからギルドに合流して、以後アタシが呼び出さない限りはギルドを優先する事。

後、ギルドである程度知り得た情報は、毎日夕方の報告会で報告して共有する事。

とりあえずは…一旦ギルドに合流したら、合流した事とギルドの様子を簡単に報告してくれる?

今日の報告会は、しなくていいから。…以上、解散!」


アタシの指示に従って、とっしー達は各々の所属ギルドへの合流に向けて行動を開始する。


五人の後ろ姿をしばらく見送り…全員の後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認したアタシは、アミちゃん達とフェイ君を連れてギルドハウス内へと足を踏み入れた。




──現実化(この状況)になって、初めて足を踏み入れた〈放蕩者の記録〉のギルドハウス内部は…ゲーム時代に記憶しているそのままの様子だった。



「あっ、夜櫻姉さん。ギルドに何か用かな?」

「うん。初心者のアミちゃん達と、精神状態が不安定なフェイディットの保護をお願いしたいんだけど…朝霧は居る?」


このギルドのサブマスであり弟の幸村がアタシに気が付き、声を掛けてきたので簡単に用件を伝えたんだけ…幸村が少し困った様な表情をしながら答えた。


「朝霧姉さんはフィールドに出て、戦闘に関する情報収集を行っているよ」

「ええーっ!?ちょ!?何考えてるの!あの子は!!

幾ら、慣れ親しんだ〈エルダー・テイル〉の世界に酷似しているからって…ゲームの時と同じ様に死亡しても大神殿で復活出来るのかは不確かなんだよ!!

そんなハイリスクを負ってまで──」

「待って!待って!!大丈夫だから!夜櫻姉さん。

朝霧姉さんは一人で街の外に出た訳じゃなくて、ベルクさんやカンザキさん…アルトさん,キルリアさん,妲己さん達と一緒に行ってるからね」


ギルドマスターである妹の朝霧が…無謀にも単独でフィールドに出たと勘違いしたアタシは、思わず声を荒げてしまったけど…慌てて幸村が同行者がいる旨を告げた事で、ひと安心したアタシは…それ以上の追及はしなかった。



息子の謙信と、娘のヴィオラにアミちゃん,シュウ君,ミユキちゃんの初心者三人組を預け…精神状態が不安定なフェイ君は、現実リアルでは医者である息子のレイ=フォードに任せる。


──と言うか…精神的に不安定なフェイディットには、本来は精神の安定の為にカウンセリングを行う必要があるんだろうけど…現実リアルだったら事務方面要員であり、心理カウンセラーの資格習得に向けて現在猛勉強中の結香ちゃんが居たんだけど…此処に居ない以上、医者のレイに任せるしかない。




──四人の事を〈放蕩者の記録〉のギルドメンバー─娘と息子達─に預け、晴れてフリー状態となったアタシは…まずは、自分自身の状態を確認してみる。



このギルドに来る前に、耳だけは確認していたが…改めて再確認してみると、アタシの身に付けている装備は〈エルダー・テイル〉のゲーム内において自身の分身とも言えるアバター『夜櫻』が装備していたものであり、〈ダザネッグの魔法の鞄マジックバッグ〉より取り出した…クエスト〈背後より忍び寄る影〉のクリア報酬で入手した〈暁の明鏡あかつきのめいきょう〉という…本来は、一定確率で攻撃魔法を反射する装備用アイテムで顔を確認した時、そこに映った耳や髪色や髪型も記憶していた通りの『夜櫻』のものと違わなかった。


ただ…面差しは、エルフ特有の神秘的な美女顔では無く…現実リアルのアタシの面差しの雰囲気を残しつつ、それがより綺麗になって美少女顔─ヤバイ!ただでさえ童顔なのに…より若く見えるよ〜!!(泣)─になっていた。




──自分の現在の容姿に…若干ヘコみつつ、確認作業を終えたアタシは次に、各プレイヤータウンの状況を確認する事にした。



この状況が他のプレイヤータウンでも共通なのか…情報収集を行う為にメニュー画面を呼び出して〈フレンド・リスト〉を開く。




──まずは、〈神聖皇国ウェストランデ〉─現実世界での関西を含む西日本を指す─にある〈ミナミの街〉の状況を確認する事にする。



最初に〈フレンド・リスト〉から選んだのは、エルフの〈森呪遣いドルイド〉でありギルド〈グレンディット・リゾネス〉のギルドマスター『レディ・イースタル』さんだ。


『タル』君の名前をタップして、念話を掛ける。


しばらくの間、呼び出し音を鳴らすが…相手との念話は繋がらない。


(うん?応答が無いな〜)


気を取り直して…次に〈フレンド・リスト〉から選んだのは、人間ヒューマンの〈召喚術師サモナー〉であり…無所属の自由人『西武蔵坊レオ丸』さんだ。


『レオ』さんの名前をタップして、念話を掛ける。


しばらくの間、呼び出し音を鳴らすが…今度も相手との念話が繋がらない。


(あれ?こっちも…?何で繋がんないのぉ〜!?)


二連続で繋がらなかったので…三度目の正直として次に〈フレンド・リスト〉から選んだのは、猫人族の〈武士サムライ〉であり…ギルド〈西商会連盟〉のギルドマスター『招き猫クロ』さんだ。


『クロ』さんの名前をタップして、念話を掛ける。


数回の呼び出し音が鳴った後に、今度は無事に相手との念話が繋がる。


『まいどおおきに〜♪時は金なり〜♪

〈西商会連盟〉のギルマスであるワイ、招き猫クロになんの御用でっか〜♪』

「ごめんね、クロさん。

実は、〈ミナミ〉の現在の状況に関する情報が欲しくてね。

勿論、タダじゃなくて…〈アキバ〉の状況を教えるよ」

『その必要はありまへん。

ワイには、『カラシンはん』ちゅうツテがあるさかい…〈アキバ〉の情報はいりまへんで。

〈ミナミ〉の情報は、“昔からの馴染み”ちゅう事で…今回はタダで教えますー』

「ありがとうね!クロさん!!」


アタシがお礼を言うと、クロさんが話し始めた。


『〈ミナミ〉は、あんまし景気よくありまへん。

皆はん、混乱しとって…下手打つと暴動が起こらんとも限りまへんなぁ』

「うーん…。〈ミナミ〉も、あんまり良い状況じゃなさそうだね」


アタシのその言葉にクロさんも、複雑な心境を表した様な渋い感じの声で返答してきた。


『せやな。まあワイとしては、手近なもんを手の届く範囲内で保護しとるんやけどな』

「…商売の為じゃなくて?」

『ちゃうちゃう。純粋な善意や!

こないな状況下で、そないなボケかまさんといて!』

「アハハハハハ!ごめんごめん。

けど、昔から面倒見の良いクロさんらしい行動だね」

『まあ、ワイに出来るんはこないな事位やけどなぁ…』


そう力無く呟くクロさんに、アタシは力強く言葉を返す。


「何言ってるの!こんな状況下だからこそ!クロさんの様な存在は、凄く有り難いんだよ!!

それに、出来る限りで良いんだよ。人間、全ての人を助けるなんて事は無理なんだから」


アタシの言葉に励まされたのか…クロさんの声音に力が戻ってくる。


『『人間、全ての人を救うんは無理』か……。夜櫻はんの言う通りやな。

なら、これからもワイの力及ぶ範囲内で他人ひとを助けていきまっさ』

「うん。それが、今の“最善”だよ。

それじゃあ。また、〈ミナミ〉で何か変化があったら情報頂戴ね。

その時は、カラシン君が掴んでいない様な情報があったら対価として提供するよ。

今後、アタシは朝霧のギルドを拠点に活動する予定だからね」

『なんと!御前はんのギルドに居るんかいな!

…せやったら、カラシンはんから仕入れられへん情報が対価に相応しい位の情報提供させてもらいまっせー。ほな、さいなら』


そのやり取りを最後に、招き猫クロさんとの念話を終了した。




──次に、〈ナインテイル自治領〉─現実世界での九州を指す─にある〈ナカスの街〉の状況を確認する事にする。



〈フレンド・リスト〉から選んだのは、本来の種族は猫人族なんだけど…特殊な〈外観再決定ポーション〉でウサギのぬいぐるみの様な姿をした〈召喚術師〉であり…ギルド〈工房ハナノナ〉のギルドマスター『桜童子にゃあ』さんだ。


『にゃあ』さんの名前をタップして、念話を掛ける。


数回の呼び出し音が鳴った後に、相手との念話が繋がる。


『はいよ。久しぶりだね。〈剣速の姫侍〉夜櫻嬢』

「久しぶりだね。〈兎耳のエレメンタラー〉桜童子にゃあさん」


お互いに、二つ名を呼び合いながらの挨拶からにゃあさんとの念話での会話が始まる。


『で?おいらに何の用だい?』

「実は、他のプレイヤータウンの状況を確認したくてね。

にゃあさんは今、〈ナインテイル自治領〉にいるんでしょ?

良かったら、〈ナカス〉の状況を教えて欲しくてね」

『だったら、おいらもお願いがあるよ。

夜櫻嬢が知り得る限りの〈アキバ〉の状況を教えてくれないか?』

「OK!情報の等価交換だね!」


アタシが情報交換を了承した事で、交渉が成立。

まずは、にゃあさんが知り得た〈ナカス〉の状況を教えて貰う事になった。


『〈ナカス〉では、その場に座り込んで泣いている者や周りの〈冒険者〉や〈大地人〉に当たり散らしている者、半狂乱に喚いている者等が居て…大半がそんな感じに、かなり混沌とした状況らしい。

一部の者は、共に行動する者を見つけて集まったりしているそうだぞ。

…と言っても、おいらもハギ経緯で聞いた話なんだけどね』

「えっ?にゃあさんは〈ナカス〉には居ないの?」


にゃあさんの話を聞いて…アタシが当たり前に抱いた疑問を口にすると、にゃあさんが答えてくれた。


『おいらは今、〈工房ハナノナ〉の活動拠点にしていた〈サンライスフィルド〉に居るよ。

目を覚ました時に一緒に〈サンライスフィルド〉に居た〈工房ハナノナ〉のメンバーは、レン,ドリィ,ディルとおいらの四人だけだね。

ハギは〈ナカス〉に居て、リアとたんぽぽの二人とはまだ連絡が取れていない状況だね』

「うわぁ〜…、一部のギルメンと分断って…キツいわ〜。

サクラちゃんとあざみちゃんの安否は少し心配だけど…そこは、にゃあさん達がなんとかするだろうけど…遠い〈アキバ〉に居るアタシには何もしてあげられないね…」

『その気遣いだけでも、おいらには有り難いよ』


そう言葉を返すにゃあさんに…アタシは思わず笑みを浮かべる。




──ゲーム時代、〈ナインテイル〉で大規模戦闘レイドやクエストを受けた時や…補給や装備の修繕等で、アタシはにゃあさんを含めた〈工房ハナノナ〉のメンバー全員と面識はある。


それ故に、あざみちゃんとサクラちゃんの二人の安否は気になったんだけど…〈ナインテイル〉から遠い〈アキバ〉に居るアタシには何も出来ない




──いや、“アレ”を使えば一瞬で〈ナカス〉まで行けなくも無いが…“アレ”は現在の所持数が少ないから、もしもの“切り札”で温存しておいた方がいいだろう。




そう頭の中で素早く結論付けたアタシは、逆に〈アキバ〉の状況を話し出した。


「とりあえず、〈ナカス〉の状況は分かったよ。

今度は、こっち…〈アキバ〉の状況を話すね。

〈アキバ〉も、ハギ君の伝えてくれた〈ナカス〉とあまり変わらない状況だね。

一つ違うのは、こっちには大手ギルドが複数あるから…集まる為に行動を起こす人の数はそれなりに居たって事だね」

『成程。〈ナカス〉には大手ギルドはあまり無いから…そういう動きになるんだね』

「そういう事。後、〈都市間トランスポート・ゲート〉は機能停止して沈黙中…って、さっきまで行動を共にしていたカンザキ君経緯の情報も上がってるよ」

『…という事は、各プレイヤータウン間は完全に分断されちまったって事だね』

「……そうなるね」


そこまで話した上で、にゃあさんから“ある懸念”が挙がる。


『けど、たとえ大手ギルドが居た事で何等かの纏まりが出来たとしても…それで、何か別の弊害が出るんじゃないのかな?』

「頭の良い…アタシの自慢の妹も、多分そういう事態を既に予測していると思うよ。

今後の事は、こっちはこっちでなんとかするし…にゃあさんはにゃあさんで、〈工房ハナノナ〉のメンバーを守る為の立ち振舞いを含めて考えた方が良いと思うよ?」

『はっはっは。ご忠告、受け取っとくよー。

夜櫻嬢も、大事な人達を守る為に頑張んなきゃだぞぅ』

「りょーかい。……それじゃあ。情報、ありがとうね」

『こちらこそ、貴重な情報、ありがとなー』


そう挨拶を交わし、桜童子にゃあさんとの念話を切った。




──次に、〈アキバの街〉からそう離れていない〈シブヤの街〉の状況を確認する事にする。



〈フレンド・リスト〉から選んだのは、人間の〈盗剣士〉である『片翼の天使ギルファー』さんだ。


『ギル』さんの名前をタップして、念話を掛ける。


数回の呼び出し音が鳴った後に、相手との念話が繋がる。


『さて、夜櫻。一体、私に何の用かな?』

「ギルさん、突然ごめんね。

実は、〈シブヤ〉の現在の状況が知りたくて連絡したの」

『ふむ、〈シブヤ〉の現状か…

多くの〈冒険者〉の〈魂の輝きスピリチュアル・カラー〉は現在、輝きに翳りが出ている』


こんな状況でも、相変わらずの徹底したロールプレイっぷりに…内心感心しつつも、アタシはギルさんの言わんとしている事を理解する。


「あ〜、〈シブヤ〉も同じか〜…。そっちは、ギルドが無い分…暴動が起こる確率が高そうだね」

『それについては、私に一つ“考え”がある』


ギルさんのその言葉を聞き、アタシはすぐにギルさんの“考え”が理解出来た。


「明確な“悪役”と“正義の味方”という“役者”を用意する…って事かな?」

『流石は、夜櫻。

広大な天空や雄大な大海の様な〈魂の輝きスピリチュアル・カラー〉の持ち主なだけはある』

「ある程度の洞察力や状況分析能力がある人なら思い付く事だよ。

それに…、明確な“悪役”と“正義の味方”という存在が居れば、現在の無秩序状態からは確実に解消される訳だからね。

〈シブヤ〉の置かれている現状では、その方法が一番の最適解でしょ?」

『確かに。貴女のその聡明さには、いつも感嘆の念を抱かずにはいられないな』


そう誉めてくるギルさんに、アタシは笑って言葉を返す。


「アハハハハ。アタシとしては、君がこれから徹底して演じる“道化師”っぷりに感心するけどね」

『…と言うと?』

「君、さっき言った“悪役”と“正義の味方”の役割では無く…それらの筋書きを描き演じる“道化師ピエロ”役に徹するつもりでしょ?

サブ職業が〈道化師〉だからって…わざわざ“道化”を演じるなんて普通は考えないじゃない。

そういう意味では、敢えてその役割を選んだ君の勇気と決断を誉め称えるよ」

『成程。全てを理解した上での貴女なりの称賛か。

有り難く受け取らせてもらうよ』


ギルさんのそのやり取りの辺りで、アタシとしては用件が終了しているので…挨拶へと話を持っていく。


「それじゃあ。もし、アタシの力が必要になったら何時でも連絡してね。まあ、今のところは必要無いだろうけどね」

『心遣い、感謝する。

出来れば、貴女の手を煩わせる事態にならない様に努力するとしよう。

──なぁに、こっちはこっちで上手くやるさ』


そのやり取りを最後に、片翼の天使ギルファーさんとの念話を終了した。




──最後に、〈エッゾ帝国〉─現実世界での北海道を指す─にある〈ススキノの街〉の状況を確認する事にする。



〈フレンド・リスト〉から選んだのは、猫人族の〈盗剣士〉であり…元〈放蕩者の茶会デボーチェリ・ティーパーティー〉のメンバーにして、ギルド〈猫まんま〉に所属していたけど…現在は無所属である『にゃん太』さんだ。


『にゃん』さんの名前をタップして、念話を掛ける。


数回の呼び出し音が鳴った後に、相手との念話が繋がる。


『お久しぶりですにゃあ、夜櫻っち』

「お久しぶりだね、にゃんさん。

二年前からは、“イン”が不定期になりがちだったけど…今回、バッチリ巻き込まれたみたいだね」


アタシの言葉を聞いて…念話越しに、にゃんさんからは苦笑混じりの声音が聞こえてくる。


『たまたま…ですにゃ。ところで、夜櫻っち。

我が輩に何の用ですかにゃあ?』

「うん。〈ススキノ〉の状況を教えて欲しいんだけどね」


アタシの頼み事に…少し間を置いて、にゃんさんは話し始めた。


『多くのプレイヤーは、我が輩達よりも若者ですにゃ。

その為、今の現状を受け止められない多くの人達は嘆き悲しみに暮れたり、周りに当たり散らしたりしていましたにゃ』

「う〜ん…。何処も同じ状況だね…」

『…と言うと、〈アキバ〉〈ミナミ〉〈ナカス〉〈シブヤ〉の四つのプレイヤータウンも同じ状況ですかにゃ?』


にゃんさんの問い掛けに、アタシは誤魔化す事をせず…自分の知り得た情報を伝えた。


「うん。〈アキバ〉でも〈ミナミ〉でも〈ナカス〉でも〈シブヤ〉でも…大半の人が嘆いたり、泣き崩れたり、当たり散らしたりしてたって」

『…成程にゃあ。我が輩達の様に状況を受け止め、行動しているのは極少数なのですかにゃ』

「うん。大規模なギルドのある〈アキバ〉や〈ミナミ〉は、暴動が起こる確率は大分低いけど……

今後は、自暴自棄になった者や欲望に忠実になった者達による“PKプレイヤーキラー”や“PK紛いの強盗”が横行する可能性を全く否定出来ないんだよね…」

『我が輩の居る〈ススキノ〉は、ゲーム時代に評判が悪かったギルドやプレイヤーがいますからにゃあ……

“PK”等の発生確率は、かなり高そうですにゃ』


にゃんさんの述べた懸念に、アタシは「確かに」と心の中で頷いた。



──〈ススキノ〉を拠点としているギルドの中に〈ブリガンティア〉というギルドがあり…ゲーム時代にプレイヤーの間でも、かなり評判は悪いギルドだったと記憶している。



その事を考え、アタシはにゃんさんへと声を掛ける。


「…とりあえず。にゃんさん、“PK”には要注意だよ?

後、自己防衛の為に今後は戦闘訓練を行っておいた方が良いと思うの」

『ご忠告、感謝しますにゃ。安全第一、命を大事にして戦闘訓練も行いますにゃあ』


にゃんさんとのそのやり取りで用件が済んだアタシは、挨拶をして念話を終了する事にした。


「それじゃあ、にゃんさん。もし何か困った時は、いつでもアタシの事を呼んで。

鷲獅子グリフォン〉をかっ飛ばしてでも、〈転送石〉を使用してでも駆け付けるからね!」

『お気持ちは嬉しいのですがにゃあ……夜櫻っちはまず、身近の大事な人達を守り…助ける事を優先して下さいにゃ。

我が輩の様に…遠方に居る知人を手助けするのは、その後ですにゃ』

「りょーかい。けど、にゃんさん。

本当にどうしようもなくて、アタシが力になれそうな時は遠慮なく声掛けてね?」

『その時は、そうしますにゃ。

まあ、夜櫻っちの手を煩わせる事態だけは避けたいですにゃ』

「アハハハハ。それじゃあ、お元気で。

何かあったら、連絡宜しくね!」

『夜櫻っちこそ、無理しないで下さいにゃ』


そのやり取りを最後に、にゃんさんとの念話を終了した。






◇◇◇






──各プレイヤータウンの一通りの現状確認が終わり…アタシは軽く息を吐いた。



(思った通り…各プレイヤータウンは、かなりの混乱状況だね。

現在、自我を取り戻して何かしらの行動をしている者の中にも、自己中心な考えの人も居るだろうし…まだまだ一波乱ありそうだね)



──そう考えると、自由に動き回れる今のアタシの立ち位置は…何か問題が起こった時に柔軟に対処出来るという事でもある。



(いざって時は、アタシはアタシの考えで動くか…)


そう自分の中で自己完結していると…突然、アタシの耳に鈴の様な音色の念話の呼び出し音が鳴り響いた。


「……ん?誰だろう?」


疑問に思いながらも、アタシはすぐにメニュー画面を呼び出してみる。



──すると、そこには…約二週間前にパーティー戦の基本戦術を教え込んだ初心者パーティーのメンバーの一人、猫人族で〈暗殺者アサシン〉の『ユーミン』ちゃんの名前が表示されていた。



アタシは、すぐに念話メニューの『つなぐ』をタップした。


少しして、ユーミンちゃんことユーちゃんが口を開いた。


『夜櫻さん、ユーミンです。今、お時間がありますか?』

「大丈夫だよ、ユーちゃん。ユーちゃんはどうかな?」

『私も大丈夫です。夜櫻さんに聞きたい事があります。いいですか?』



どうやらユーちゃんは、アタシに何等かの用事がある様だ。

アタシはユーちゃんが話し易い様に先を促す。


「いいよ。何かな?」

『今、〈アキバ〉の雰囲気はなんだか暗い感じがします。

その為、私を含めた6人が所属出来るギルドを紹介してくれませんか?』


ユーちゃんの用事は、『自分達6人を保護してくれるギルドを紹介して欲しい』というものだった。


アタシの頭の中では、すぐに『〈放蕩者の記録デボーチェリ・ログ〉に紹介するのが最適解だ』という結論にまで達していた。


それに…ユーちゃんの声音が、いつもと違う…



──これは…以前のパーティー戦の戦術で思い悩んでいた時の声音と同じだ!



その事に思い至ったアタシは、ユーちゃんに対して…こう言葉を掛けた。


「そういう事なら協力するよ。当てがあるからね。

でも、ユーちゃんが何か悩んでいる感じの声の出し方なんだけど…何かあったかな?」

『夜櫻さんにはお見通しですね。正直にお話しします』


アタシのその言葉に、ユーちゃんは自分達の抱えている“ある問題”を語り始めた。


『実は…いつもパーティーを組んでいた子の1人が〈シブヤ〉にいます。

私を含めたパーティー全員が、その子を助けようとしていますが…まだ、情報が充分に集まっていません。

夜櫻さん、ここ〈アキバ〉から〈シブヤ〉までの最短距離で行ける道はありますか?

また、その道にはモンスターが出現しますか?

もし、出現するのなら…どの位のレベルのモンスターが出ますか?』



──ユーちゃんが語り出した相談事は、パーティーメンバーの1人が〈シブヤ〉に取り残された事。

〈アキバ〉から〈シブヤ〉への最短ルートと、モンスターの出現の有無に…そのレベル帯の情報提供だった。



アタシはユーちゃん達が無謀な真似をしない為にも、釘を刺す意味で正確な情報(ゲーム時代の…だけど)を話す事にした。


「そんな事になってたんだね。

…さてと。質問が三つあるから、各々別に答えるね。

〈アキバ〉から〈シブヤ〉までの最短距離ルートで行ける方法はあるよ。

確か、元の世界で言うところの…山手線沿いを回っていく方法で最短距離ルートを行けた筈だよ。

それで、モンスターの出現と出現するモンスターのレベルなんだけど…モンスターは出現して、レベル帯は18から30まで幅広いから…今のパーティー平均レベルが27位は無いと、突破するのは難しいと思うな」

『…そうですか。今の私達のパーティー平均レベルは約24だから…もう少し上げないと無理ですね…』


残念そうな声音でそう呟くユーちゃん。



──けど、仕方がないんだよね。



今の現状では、ゲーム時代と同じく“死亡しても、死亡罰則デスペナルティとして何割かの経験値を喪失ロストして死亡する直前…最後に立ち寄った街の大神殿で復活する”とは限らない。



──それに…もし、ゲーム時代と同じく大神殿で復活するとしても…本当に何割かの経験値を喪失ロストだけで済むんだろうか?

死亡には、何かしらの問題リスクが生じるのでは無いのか?



そういう疑念や問題リスクがある限り…レベルの低いユーちゃん達に無理をさせず、危険リスク回避に努めてもらいたい。


一度面倒を見たが故に、可愛い愛弟子達の身を案じての忠告を述べた。


「そうなんだ。ユーちゃん、無理はせずに助けに行くんだよ?

それと、ギルドの件はアタシが必ず見つけておくから…心配しないでね?」

『ありがとうございます。それでは失礼します』


そう言って、ユーちゃんから念話が切られる。



「…フー」と、一旦息をゆっくりと吐き出していると…唐突に、ユーちゃんからの再念話要請が表示された。



──何でも、ユーちゃんはユー君─本当は“ユウマ”君という名前で、ユーちゃんのお兄ちゃん─から『今の状況に関する情報を聞いて欲しい』と頼まれていたのに…うっかりと失念していたんだって。



ユーちゃんって、意外とうっかりさんだったんだね。



──ユーちゃん、スッゴク可愛いよぉ〜♪






◇◇◇






──ユーちゃんとの念話でのやり取りを終え…時刻は、お昼を少し過ぎた位だろうか?



今後、このギルドにお世話になる予定とはいえ…まだ“予定”であり“確定”では無いので、流石に図々しくお昼ご飯を要求するのは大人としてどうだろうか…?



そう思ったアタシは、〈ダザネッグの魔法の鞄マジック・バッグ〉内にある調理用素材アイテムと“とある装備アイテム”を使って自分用の昼食を調理する事にした。



〈放蕩者の記録〉のギルドハウスに備え付けられた厨房は、大きなホテルや大型料理店に有りそうな立派なキッチンであり…丁度、このギルドに所属している〈料理人〉の一人であり、娘の天音が簡単にだが…大量のホットケーキを焼いている。




──アタシも、早速〈魔法の鞄〉から素材アイテムの…まるまる1斤タイプの食パン、ハム、トマト、レタス、バターを順番に取り出してキッチン台の上に並べ、お気に入りの〈夜桜の和装〉が汚れない様に…昔、現実リアル事情で辞めた友人の一人から譲り受けたフリフリの〈新妻のエプロンドレス〉を身に付けて…パンカット用のナイフで、サンドイッチ用のサイズに食パンを次々にカットしていく。



次に、トマトを野菜カット用の包丁で…ハムを肉類カット用の包丁でサンドイッチの具材用としてカットしていき、レタスは手で丁度良いサイズに千切っていく。



一通りのサンドイッチを作る為の準備が整い…「さて、サンドイッチを作るぞ!」と意気込んでいると…突然、2番目の息子で人間ヒューマンの〈武士〉である謙信の「ぎゃあぁぁぁあああああ!!何だこれはぁぁぁあああああ!!?」という絶叫が聞こえてくる。



それを聞いた天音は、冷静に“コンロの火を一旦消す”という行動を行ってから謙信の元へとパタパタと駆けていく。



そのままサンドイッチ作りを続けていると…しばらくして、厨房へと戻ってきた天音が焼き終わったホットケーキの乗った皿を持ってから、再び厨房を出ていく。



その天音が取った一連の行動を眺めながら…アタシは首を傾げつつも、サンドイッチを完成させて皿に綺麗に盛り付ける。




──完成したサンドイッチを盛り付けた皿を抱えて…食堂ホールへとやって来たアタシは、嬉しそうに誰かに念話を掛ける天音と何故か渋い表情をした謙信、〈放蕩者の記録〉のギルメンの弥生ちゃんとウララちゃんの姿があった。



「ん?皆、どうしたの?謙信。アンタも、何を絶叫してるのよ?」


アタシの問い掛けに、渋い表情のままで謙信が答えた。


「母さん。実は、〈大地人〉から購入したり〈料理人〉の作成コマンドで作られた食材アイテムは…味の無い湿気った煎餅の様な妙な食感の物体だったんだ。

天音がさっき持ってきたホットケーキは、普通の味や食感だったんだけどな」

「後、サブ職業が〈料理人〉の人しか料理は作れないみたいです」


謙信の説明の後、天音が更に追加情報をくれた。


「え?アタシも、サンドイッチを作れたよ?」

「「「「……え?」」」」


アタシのその発言に一瞬、一同がすっとんきょうな声を異口同音に発する。


「え?…だから、『〈新妻のエプロンドレス〉を身に付けたから、アタシにもサンドイッチを作れたよ?』…って言ったんだよ?」

「「「「……え?」」」」


再度、一同から異口同音のすっとんきょうな声が上がる。


「あれ?〈新妻のエプロンドレス〉を知らない?

『装備した者の一時的なレベル低下と引き替えに、〈料理人〉の中級レベルと同等のスキルが使用可能となるアイテム』だよ?」


アタシのその説明に…天音と謙信はすぐに理解したが、弥生ちゃんとウララちゃんは未だに疑問顔だった。

それを見て苦笑いを浮かべた謙信は、二人に分かりやすい様に〈新妻のエプロンドレス〉に関するアイテム解説を始めた。






「──つまり、“この装備を身に付ければ、中級の〈料理人〉と同じ位の料理は作れる”…って事ですか?」


謙信の分かりやすく丁寧なアイテム解説で、ようやく〈新妻のエプロンドレス〉の特性を理解した弥生ちゃんがそう呟く。


「ああ。母さんがサンドイッチを作れたところを鑑みると…どうやらサブが〈料理人〉でなくても、〈新妻のエプロンドレス〉を装備すれば料理を作れるみたいだな」



──ちなみにアタシはというと…その光景を眺めながら、サンドイッチをモグモグと次々に口に運んで食べ続けている最中だ。


その傍には、サンドイッチを作った時に一緒に淹れたブラックコーヒーの注がれたコーヒーカップ一式も添えてある。




──謙信の推察が正しければ、〈新妻のエプロンドレス〉を装備する事で料理が作れる様になった。

実際、アタシは作る事に成功した訳だから…確定で良いかもしれない。


けど、少し視点を変えたら…一時的に生産系サブ職のスキルが使える装備系アイテムを使用すれば、他の生産サブ職でも同じ事が可能という事でもある。



(う〜ん。ある程度落ち着いた頃に、ギルド会館の個人倉庫内に預けてある同種系統の装備アイテムでも試してみよう…かな?)



──無論。それらも、辞めていった友人達が譲ってくれたものだけどね!






◇◇◇






──あの後…もう一度、〈新妻のエプロンドレス〉を装備して色んな料理…というか、調理法を試してみる。

また、手持ち(マジッグバッグ内)の〈天縫の裁縫師の裁縫エプロン〉を装備して…桜の花のアプリケットを手で縫い付けたり、街着用の和服を作ってみたり等と……色々と検証してみた。




結果として…〈新妻のエプロンドレス〉を装備した状態では、簡単に『切る,焼く,炒める,煮る,蒸す』事は出来たけど…かなり手の込んだ調理法は出来なかった。

つまり、現実リアルでも難易度の高かった料理の類いは〈新妻のエプロンドレス〉を装備しながらの調理でも全滅だった。



〈天縫の裁縫師の裁縫エプロン〉装備状態での裁縫は、(〈魔法級〉までの)布鎧や革鎧の修理・修繕,アプリケットの縫い付け…服の製作に関しては、普段着に着れそうな和服位は作れたけど…レースやフリルをふんだんに使ったメイド服やゴスロリ服,繊細な刺繍等の類いについては失敗した。



(どうやら…生産系の装備アイテムを装備しての生産にも、限界はあるみたいだね)



色々と検証を重ね、その検証から得られた結果を鑑みて…そう結論付けたアタシは一旦、アミちゃん達初心者三人組とフェイ君の各々の様子を見に行く事にした。






──アミちゃん達は、〈放蕩者の記録〉のギルメンの中でも現実リアルの年齢及びレベルが近い初心者の子達と和気藹々と楽しそうな雰囲気を纏いながら会話をしていた。



どうやら、アミちゃん達はすっかりこのギルドの雰囲気に精神的に落ち着き、ギルメンに心を許して打ち解けた様だ。



これで少なくとも、アミちゃん達はこのギルドに安心感を抱いただろう。



それに…朝霧─あの子の事だから、アミちゃん達の事を快く受け入れてくれるだろうし…いざという時は、このギルドにあの子達を入会させてもらうという選択肢もある。




──そんな事を思考しながら…アタシはその場を後にして、今度はフェイ君の様子を見に行く為に移動を始めた。






◇◇◇






──結果として…フェイディットの精神状態は、かなり悪いらしい。



レイから聞いた話では、このギルドに心理カウンセラーの資格を得る為に勉強中の中堅レベルのギルメン─詳しい話を聞く為に直接対面した時、その人物が事務所メンバーの一人であり、アルセントの恋人である高崎結香ちゃん…キャラネームはユイカと言うらしい…だと知った時は、本当に驚いた─の話では、精神的に不安定であるのは当然だが…場合によっては、鬱病にまで悪化してもおかしくないとの事だった。



……思った以上にフェイディットの精神状態が悪かった事に、アタシは困惑する事になった。



「取り敢えず…ユイカさんと協力してフェイディットさんの精神状態に注意しつつ、綿密なメンタルケアに務めます」

「まだ心理カウセラーの勉強中の身である私一人では、繊細なメンタルケアはとても荷が重過ぎましたが…このギルドには、現役のお医者さんであるレイさんがいらっしゃいますからね。

医者のレイさんと協力して、副所長のメンタルケアを精一杯頑張ります」

「それは有難いけど…レイもユイカちゃんも、無理だけは禁物だからね?」


その言葉に、二人は力強く頷いてくれたので…フェイディットの事を改めて二人に頼んだ。






◇◇◇






──色々とやっている内に、時間帯は夕方近くになり…戦闘訓練兼情報収集に出ていたあーちゃんがギルドハウスに戻ってきた。




あーちゃんが戻った事をゆっきーがわざわざ知らせてくれたので…アタシは、すぐにあーちゃんの居るであろうギルマスの執務室へとやって来た。






「──成程。つまり、初心者の三人組と精神状態が不安定なフェイディットを我がギルドで預かって欲しい…と」

「うん。それに、約二週間前に面倒を見ていた六人組のパーティーをこのギルドに所属させて欲しいの。……駄目かな?」


アタシの申し出に、何故かあーちゃんは苦笑いを浮かべる。


「いつも思うのだが……姉さん、自分より他人の事を優先させ過ぎだろう。

確かに、レイとユイカの二人からの報告を聞く限りでは…フェイディットにはしっかりとした精神ケアが必要なのは素人目でも充分に理解出来るし、ギルド加入の件に関しても…本人達が強く望めば、此方はいつでも受け入れる用意はある。

それらの件を纏めて引き受けるのは、私としても吝かでは無いのだが……」

「アミちゃん達新人の当分の身の安全。

精神が不安定なフェイディットへの細やかなメンタルケア。

ユウマ君達初心者パーティーのギルド加入の件。

アタシから見たら、こっちの案件の方が断然優先順位は高いでしょ?

それに…アタシ自身の事をあーちゃんに頼まないのは、自分の事は大抵自分自身でなんとか出来ると考えてるから。

アミちゃん達とフェイディットの事やユウマ君達のギルド加入の件とかを頼む上に、アタシ自身の事まで頼むのは流石に図々し過ぎでしょ?」

「姉さんは本当に困った時…一人では、もうどうしようもない状況に陥らない限りは、絶対に私や弟の幸村を頼ろうとしないからな…」

「アタシは、二人の“お姉ちゃん”だからね!

お姉ちゃんが、なにも努力をしないで真っ先に妹や弟に頼るなんて…おかしいでしょ?」


アタシのその言葉に、あーちゃんが再び苦笑いを浮かべる。


「姉さんらしいと言えば、姉さんらしいが。

……とは言え、流石にこの状況で姉さんを放っておくのは、私や幸村の心情としては寧ろ…今後の心配の種になりそうだ。

実は、現在のギルメンのログイン状況を確認させたが…約五割弱位がオンラインといった状況で、ギルドハウス内の部屋数には充分な余裕がある。

無所属の者をもう一人抱え込んだ位でも、何の問題も起こらない程には充分な余裕があるんだ」


朝霧のその言葉からは、身内としてでは無く…ギルドマスターとして、この非常時に無所属の者を保護する為の用意がある…という事を暗に匂わせる発言だった。




──アタシとしては、最終手段に古巣の〈D.D.D〉…もといクラスティ君に『今後、ギルド活動に全面協力する事』を交換条件に世話になる事も視野に入れていた訳だから…この申し出は“渡りに船”である。



「それじゃあ、ここは素直にあーちゃんのお言葉に甘えるとして…何か協力が必要なら手伝うよ?一応、衣食住を保障してもらえる訳だしね」


アタシのその言葉に、朝霧は「…フッ」と笑みを浮かべる。



「…なら、明日は情報収集してもらえないか?

私自身にも、様々なツテはあるのだが…情報は多角的な視野で集めたいからな。

姉さんは、私が思い付かない様な視点で見たり,聞いたり,考えたりをする人だからな」

「成程。独自の考え方やアプローチの仕方をするアタシの視点からの情報も欲しい訳か……。良いよ。その位、御安い御用だよ」


アタシの快い返事に朝霧は、安堵の溜め息を洩らす。










──さて、明日からも色々と忙しくなりそうだ。






そんな事を思考しながらも…アタシは早速、頭の中で明日の予定を素早く組み立て始めるのだった……






◇◇◇






──アタシ用に用意された部屋の外─窓から外を覗いてみると…〈アキバの街〉の上空は、夕焼けのオレンジ色,青空の水色,夜色の藍色の三色の織り成す綺麗なコンストラストに彩られていた。



徐々に夜の戸張が降りて行く…その綺麗な空の色彩のゆっくりとした移り変わり行く光景にしばらく魅入っていたが、すぐに部屋の内部に〈魔法の鞄〉から家具類を次々と取り出し、手早く配置していく。




畳に和ダンス,座布団やお布団等…和風の家具類を配置する際に、内装の見た目や家具同士の調和に細かく気を配りつつ、テキパキと手際良く室内のコーディネートを済ませていき…しばらくして、アタシ好みの落ち着いた和風コーデの部屋が無事完成した。




──その見事な出来栄えに、アタシが充分な満足感に浸っていた時…今日一日で何度も聞いた事で聞き慣れてしまった念話の呼び出し音が突然、頭の中に鳴り響いた。




メニュー画面を呼び出して相手を確認してみると…念話を掛けてきた相手は、昼前に念話を掛けてきたユーちゃんのお兄ちゃんであり、あの六人パーティーのリーダーでもある…猫人族で〈守護戦士ガーディアン〉の『ユウマ』君だった。




アタシはすぐに、『つなぐ』を選択してユー君との念話を繋ぐ。




──念話が繋がると同時に、約二週間ぶりになるユー君の声が聞こえてきた。




『もしもし。夜櫻師匠ですか?こちらはユウマです』

「そうだよ、ユー君」


ユー君の言葉に、アタシはすぐに返事を返す。



──しかし、約二週間前…たった四日間という短い期間だけの関わりでしかないけど、アタシにはユー君の人となりはおおよそ理解出来ている。


そして…彼がただの世間話の為に念話を掛けた訳じゃない事位、アタシにはすぐに解っていた。



「でも、暗くなり始めたこんな時間帯にわざわざ念話をしてきたって事は…“何かある”とアタシは感じたけど…どうかな?」

『流石、師匠ですね。実は、お願いしたい事があります。…良いですか?』


そう言って問い掛けてくるユー君に、アタシは快い返事を返す。


「良いよ、ユー君。…アタシで良ければ」

『ありがとうございます、師匠。

…寧ろ、師匠しかいません。今考えている方法を使用出来る人が師匠だけしか、僕には浮かびませんでした。

…だから、“最後の賭け”なんです。お願いします!師匠!!』

「…えっ?」



──ユー君の、唐突な『最後の賭け』宣言に…一瞬、アタシの思考は完全に停止フリーズしてしまった(苦笑)




停止フリーズしてしまったアタシの思考を…再び起動させて正気に戻したのは、ユー君の次の言葉だった。



『師匠らしくないですね、『えっ?』って。

…確か、師匠は〈鷲獅子グリフォン〉を所有していましたよね?』


ユー君のその問い掛けで…正気に戻ったアタシは、すぐに答える。


「ユー君、確かにアタシは〈鷲獅子グリフォン〉を呼ぶ為の『召喚笛』を所有しているよ。

でも、アタシに“して欲しい事”って何なの?ユー君」

『師匠…実は、〈マイハマの都〉から〈シブヤの街〉までの道の様子を調査して欲しいんです。

特に、海岸線沿いを〈鷲獅子グリフォン〉を使って調査して欲しいんです。師匠』



──そう告げた時のユウマ君の声音は、初めて会った頃に自分達なりのパーティー戦に行き詰まりを感じ、手練れのアタシ達にパーティー戦の基本戦術の指南を乞うてきた時に聞いた声音に近い…何処か祈る様な感じの声音だった。



そんなユー君の声音を聞いたアタシの答えは…既に決まっていた。


「そういう事なんだね、ユー君。

…分かった。その件は、アタシがしっかりと引き受けたよ。

…で?いつ頃出発するのかな?ユー君」


アタシからのその問い掛けに…ユー君は少しの間考えた。


『…いつ頃ですか?師匠。う〜ん…。明日の朝七時に、北門から出発するというのはどうでしょうか?師匠。

…それと、ビートも同行させて良いですか?師匠』

「うん。その時間に出発だね?ユー君。

それと、ビー君を同行させるのも構わないよ。

その代わり…と言ってはなんだけど、アタシの方も同行させたい人が居るんだけど…どうかな?

それで、ビー君の同行を申し出た件については…多分、ビー君のサブ職業〈鳥使いバードマスター〉が大きな鍵を握っていると、アタシは予想したみたんだけど…どうかな?ユー君」


アタシの推察に…ユー君は、感心した様な声音で返事を返してくる。


『…流石、師匠。

相変わらず、勘が冴えていますね。

その通りです。ビートのサブ職業〈鳥使い〉は、『メイン職業の〈召喚術師サモナー〉や〈森呪遣いドルイド〉と同様にモンスターと契約して召喚出来るサブ職業の一種』でしたよね?師匠。

それと…『〈召喚術師〉と同様に、〈幻獣憑依ソウル・ポゼッション〉を使用出来る唯一のサブ職業でもある』と言えば、聡明な師匠の事ですから…すぐに理解出来ますよね?

それと、師匠側の同行者の件ですが……良いですよ。師匠』


そうユー君が返事を返してきた。




──ユー君の言う通り、アタシには…ユー君達が、現実化した事で汎用性が大きく広がった〈幻獣憑依ソウル・ポゼッション〉をフル活用して情報収集を行っていた事位、すぐに推察出来た。




けど…料理の味に関する天音の発見は、たまたま普段通りに日常的な習慣で“手作業”で調理を行った為に偶然気が付いた訳なんだけど…〈幻獣憑依〉を活用した情報収集なんて、ユー君はよく思い付いたなぁ〜…と、内心で感心していた。



(初心者故に…〈エルダー・テイル〉がゲームだった頃の常識に囚われず、柔軟な発想で現実化した事による特技スキルの新たなる特性に気が付いたのか…

ユー君が聡明だったが故に…多角的な発想で気が付いたのか……ユー君には、本当にびっくりさせられるなぁ〜)




──そんな事を頭の片隅で思考しつつ…アタシは、ユー君との会話を続ける。



「ありがとう!ユー君!!それと…ユー君がそんな事を話し出せば、アタシにもすぐに理解出来るよ。

ビー君に、調査と偵察を兼ねながら〈幻獣憑依〉を使用させてた事位…はね?そうでしょ?ユー君」

『そうです、師匠』


アタシのその推察に、ユー君はそう返事を返した後…会話を一旦区切る様な感じに間を少し置いてから、会話を続けた。


『それと、今から話す事は…いつもパーティーを組んでいる皆には、まだ言っていないのですが…〈アキバ文書館〉で、ヤマトの歴史が書かれた書物を見たところ……ある事実を知りました。

師匠、その事を聞きますか?』



──ユー君が、これから語り始めようと考えている内容は…どうやらユーちゃん達にはまだ伝えていないくて、わざわざアタシにその内容を聞くかを問い掛けてくる位だし……余程の重大な事実を伝える程の内容らしい。




──アタシは既に、衣食住を保障してもらう対価として…多角的な視点での情報収集を行う事を朝霧と約束している。




『断る』…なんて選択肢は、最初っからアタシの中には存在していない。


「ユー君、その話を是非聞かせてくれないかな?

どんな事実が分かったの?」

『勿論です、師匠。

その書物には…《今から350年前には、〈人間ヒューマン〉,〈エルフ〉,〈ドワーフ〉,〈アルヴ〉の四種族の国があったそうです。

特に、〈アルヴ族〉は魔法に長けていたそうですが…他の三種族とは争いが絶えなかったそうです。

そうした中で…〈アルヴ族〉の国は、他の三種族の手によって滅びたそうです。

しかし…生き残っていた〈アルヴ族〉の中から現れた、六人の女性達による〈アルヴ族〉の国を復興する為の戦いが起こったそうですが…結局、他の三種族によって全員が捕らえられ…処刑されたそうです》』




──ユー君の口から語られた内容は……〈ハーフ・アルヴ〉という種族の説明文フレーバーテキストに書かれている『既に滅亡した種族である〈アルヴ族〉の特徴を色濃く残す種族』という設定の…“〈アルヴ族〉”に関する背景バックボーンを伝えるものだった。




──その内容を聞いた時、アタシは…『多くの〈冒険者〉に、この〈セルデシア(世界)〉が“ただ、ゲームが現実化しただけの世界”…なんて、甘い考えを完全に打ち壊し、“酷似した異世界”なのだという残酷な現実を突き付け…それを知った大半の者が、深い絶望を抱かせたり…自暴自棄を起こしたりする可能性が考えられる程度には衝撃的な事実だろうなぁ〜』等と、何処か他人事の様に思っていた。




──ちなみに…六人の〈アルヴ族〉の女性達─後に、とある〈古来種〉から“六傾姫ルークィンジェ”と呼ぶのだと聞いた─の存在に関する話は、約20年近く〈エルダー・テイル〉を長くプレイした経歴を持つアタシでも…一度も聞いた事は無かったし、〈エルダー・テイル〉に関する基本知識を思い返してみても…全く覚えは無かった。






──更に、ユー君が語り続けるヤマトの歴史は…その50年後に〈亜人間〉が出現する様になった─これも、とある〈古来種〉から聞いた話では…〈六傾姫〉が最期に遺した呪いとも、〈アルヴ族〉の最後に駆使した〈世界級〉の大規模儀式魔法によって発動した第一の〈森羅転変ワールド・フラクション〉によるものだと…〈大地人〉の間では語られているらしい─事や…〈亜人間〉に対抗する為に、〈アルヴ〉族の秘技を利用して〈猫人族〉,〈狼牙族〉,〈狐尾族〉,〈法儀族〉の四種族を造り出した事を語る…更なる衝撃を与えるものだった。



次に語られたのは…240年前に〈冒険者〉という存在が出現─こちらも、とある〈古来種〉から〈世界級〉の大規模な神聖魔法によって発動した第二の〈森羅転変ワールド・フラクション〉によるものだと…〈大地人〉の間では語られているらしい─し始めたという内容だった。




──この時点まで聞き続けたヤマトの歴史は、最早…“香り付けフレーバー”なんて軽いものでは無く、“背骨バックボーン”と呼ぶに相応しい程に、重みあるものであった。




『──《その頃の〈冒険者〉は、“出て来ては居なくなる存在だった”》…と、書かれていました。

どう思います?師匠。

僕は、“出て来ては居なくなる”というは…〈ログイン〉と〈ログアウト〉の事を指しているのだと思います』


最後に語られた〈冒険者〉に関する事で…そう締めたユー君の推察を聞きながらも、アタシは同時にこうも考えていた。



──〈冒険者〉が現れ始めた240年前である事─〈エルダー・テイル〉では…ゲーム内の時間が、現実の12倍速で進む事─を考えると…約20年前は、〈エルダー・テイル〉オープンβが開始された時期と一致する。



その事をユー君に伝えると、最初は否定していたが…聡明なユー君はすぐに“〈エルダー・テイル〉内の時間が、現実の12倍速で進んでいた事”を思い出し、『240年前の〈冒険者〉の初出現時期=〈エルダー・テイル〉オープンβの開始時期』が重なる事に気が付いた。




──うんうん。やっぱりユー君は…聡明だし、理解力が凄く高いね。




アタシは、そう心の中でユー君の賢さを誉めていた。






◇◇◇






──ようやく、ユー君から全ての話を聞き終えて…最初に考えたのは、『今の混乱状況が続き、未だに落ち着かない〈アキバの街〉で迂闊に話せば…間違いなく大暴動が起きかねない内容だろう』…と、考えた後にフェイディットや朝霧だったら思わず頭を抱えたい衝動に駆られるだろうなぁ〜…という、やっぱり何処か他人事の様な感想だった。




ユー君は、比較的最近─と言っても、約一ヶ月近くはプレイしてはいるが─始めたばかりの初心者なので、あまり抵抗感無くこの内容を受け止めているが…廃人と呼ばれても差し支えない位の古参プレイヤーには受け入れ難い内容だと思う。




──まあ、アタシは『ただゲームの世界が現実化した』…なんて甘い考えをそもそも抱いていないし、妹のあーちゃん─朝霧は、最悪パターンとして『酷似した異世界に転移した』という可能性すら視野に入れて行動してそうだから…この話を割りとすんなりと受け止められるだろう。




……とは言え。ユー君達をいらぬトラブルから守る為にも、〈アキバの街〉で自暴自棄になった〈冒険者プレイヤー〉による暴動を回避する為にも…この事は他言無用にした方がいいだろうね。




──そう結論付けたアタシは、ユー君に“忠告”という名の助言をする事にした。



「それと、ユー君。…この事実は暫くの間、伏せておいた方がいいかもしれないよ」

『…その方がいいかもしれませんね、師匠』


ユー君は、アタシが伝えたい事を即座に汲み取り…承諾の意思を伝えてくれた。




──承諾してくれたユー君は、すぐに再度用件の事に話を戻した。




『それと〈鷲獅子グリフォン〉の件は宜しくお願いします、師匠。

それから、救出に行くのはミーシャの妹のナーシャです』

「分かったよ、ユー君。

…そういえば、蒼君達には連絡した?

ユー君、もししてないのなら…必ず一回はして上げてね。

こんな状況だから、きっと喜ぶと思うよ?」


アタシはユー君の言葉に返事を返した上で、蒼君達に一度は連絡する様に促す。



──此処に出てきた“蒼君”とは…〈D.D.D〉に所属している〈狼牙族〉で〈武士サムライ〉の蒼月君。

アタシにとっては、〈D.D.D〉に在籍している可愛い後輩達の一人でもある。




『…蒼月達か。今度、時間があれば念話してみます』


ユー君は、すぐに了承の返事を返してくれた。

その上で、話題を変えてくる。


『…話は変わるんですが、昼間に『私達六人が所属できるギルドを探して欲しい』とユーミンが念話した筈ですが…どうなりましたか?師匠』


新たな話題は、昼間にユーちゃんから頼まれた『ギルド探し』の件だった。




──無論、アタシはこの件を忘れてはいない。


夕方にあーちゃんがギルドに戻って来た後、アミちゃん達の件と一緒に相談済みであり…あーちゃんからは、「本人達が強く望めば、此方はいつでも受け入れる用意はある」という喜ばしい返事を貰っている。




アタシは、すぐにその事をユー君へと伝えた。


「その件だったら、もう解決しているよ、ユー君。

放蕩者の記録デボーチェリ・ログ〉というギルドを知ってる?ユー君」

『…〈放蕩者の記録デボーチェリ・ログ〉ですか?

あっ!思い出した。確か、師匠の妹さんがギルドマスターを務めているギルドの筈ですよね?師匠。

名前は“朝霧”さんで…有名な〈冒険者〉の一人だって、師匠が言っていましたね。

そんなギルドに僕達六人が加入出来るなんて…夢の様です。

でも、ギルドに加入するのはナーシャを救出してからになりそうですが…師匠』

「そうした方がアタシも良いと思うよ、ユー君。

何かあったら連絡してね。またね!ユー君!!」

『師匠も、何かあったら連絡して下さい。

ありがとうございました、師匠。失礼します』


社交辞令の様な挨拶を済ませ、ユー君との念話をそのまま終了させる。




──ユー君との念話が終了してから…すぐに、アタシは素早く〈フレンドリスト〉を呼び出して『シーク=エンス』と表示された名前をタップした。



しばらくの呼び出し音の後、すぐに相手との念話が繋がる。


『どうしましたか?咲良』

「突然ごめんなさい、賢君。

ちょっと聞きたい事と、頼みたい事があって…」

『“聞きたい事と頼みたい事”…?

何ですか?それは?』


賢君は、アタシが話し易い様にゆっくりと促してくれる。

賢君のこういう然り気無く優しいところが、夫婦になった後のアタシの弱い部分をいつも支えてくれ…助けてくれている。



その事を心の中で感謝しつつも…アタシは本題に入った。


「まず、聞きたい事だけど…賢君は今、何処に居るの?」

『現在地ですか…?

…最初は、宿屋の部屋ゾーンを借りるつもりでしたが…蒼牙そうがの勧めで、アキバの〈蒼き狼の牙〉のギルドハウスでお世話になってます』



──どうやら、賢君は蒼牙君の計らいで〈蒼き狼の牙〉のギルドハウスに泊まらせてもらっているらしい。



「(…って事は、一緒に行動は可能だね)

賢君、実はね…約二週間前に出会ったユウマ君達の事を覚えてる?」

『ええ、覚えています。

特に、ユウマ君は将来化ける可能性がある新人でしたからね』

「うん。そのユウマ君からね、ナーシャちゃんだけがシブヤに離されちゃったらしくてね…その救出の為に助っ人をお願いされたの。

…で、それで〈鷲獅子グリフォン〉を必要としているらしいんだけど…」

『何か問題でもあるんですか?』


流石、賢君。アタシの言葉から何かを察してくれたみたいだ。


「うん。本来だったら、いつも行動を共にしているフェイディットに頼むところなんだけど…彼、今は精神的に不安定なの。

流石にそんな精神状態のフェイディットには無理強い出来ないから…同じ様に〈鷲獅子グリフォンの召喚笛〉を持っている賢君に白羽の矢が立ったって訳」

『成程、理解出来ました。

今のところ、私には明日以降の予定は特にありませんし…咲良直々の頼みですからね、引き受けますよ』


賢君は、アタシの頼み事を快く引き受けてくれた。


「ありがとう!賢君!!

明日の予定なんだけど…朝霧から頼み事で、まず先に情報収集する用事を済ませる必要があるの。

それに、今の状態での戦闘にも慣れる必要もあるだろうから…明日の六時に、〈ブリッジ・オールエイジス〉に集合でいいかな?」

『戦闘訓練ですか?

私も、この状況でのリスクを考えて…敢えて今日出来た事は、蒼牙に特別に戦闘行為許可を貰った上でギルドハウス内で『シーク=エンス』の身体能力把握と軽く武器を振り回した程度でしたしね。

いつかする必要があるなら、早いに越した事はありません。

明日の六時に〈ブリッジ・オールエイジス〉に集合ですね?分かりました』

「ありがとう、賢君!それじゃあ…また明日」

『ええ、また明日。良い夢路を。咲良』




──賢君が承諾してくれたので…念話を切って、明日に備えて早めに就寝する事にした。




(明日も…朝から忙しくなりそう…

ユー君達…どんな感じかな…?

ナーちゃんを…無事に…助け…られると…良いなぁ…)










──その思考を最後に、アタシはそのまま就寝し…慌ただしい〈大災害〉初日を終えた。

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