旅立ちは道連れ
だめだ、自分の生きる気力はアニメと漫画とゲームしかない……
――私と一緒に死んでよ――
目の前にいる黒髪の美少女は、どこか壊れた人だった。
現実離れしていたのは容姿だけでなく、中身のほうもそれにともなっているのだった。
「どうせ、死ぬつもりなんでしょう?」
顔を覗き込まれる。
顔が近い。
彼女の、長く垂れた横髪が静電気で僕の服に張り付く。
僕は目を反らしながら答えた。
「う、えー……あーそうだけど……」
「ふふっ」
彼女は少し意地悪気に微笑んだ。
しまった、そう思った時にはもう遅い。
僕は自ら死を選ぶことを口にしてしまった。
彼女の手の上で転がされているような気がして、良い気持ちはしなかった。
傍から見れば、ただの若者のカップルだが、話の内容はそんな華やかなものではない。
「ねぇ、一緒に死のうよ」
その魅惑的な笑顔に、僕は少し惑わされそうになる。
多分、狙ってやっているのだろう。何とも話しづらい。
「ねぇー聞いてる?」
あー聞こえない。
「おーい」
何にも聞こえない。
そう、これは夢だ。幻想だ。
僕が、会って間もない同世代の異性に心中を申し込む様な美少女に、
違う意味で言い寄られているなんてことは有り得ない。
「ねーねー聞いてよー」
死が近づいてきて、精神が、脳が逝かれてしまったのか。
体が揺れている、新幹線が発進したのだろう。
あとどのくらいで着くのだろうか?
「えい」
可愛らしい声と共に、首が左に向き直させられる。
考えるよりもさきに、体が動く。
接近してくるそれを、親指を開いた右手で押さえつけた。
「………」
僕の、文字通り目の前には、可憐な顔が眼を瞑っていた。
「んー……あ、復活した?」
頬を掴まれて尖った口でそう言われた。
ため息すら出なかった。
「あ、今失礼なこと考えたでしょ?」
「いいや、考えてないです」
今から考えようとしていたところだ。
(ったく、この変態が)
心の中で悪態をつく。
「かっこいいよね」
イケメン君でも乗っているのか?
「誰が?」
僕は彼女の目線を追い、通路に目をやった。
向かいの席には、里帰りだと思われる親子が二人が座っていた。
「………」
僕は無言で訊いた。
彼女は実に当たり前のように言った。
「もちろん、君が。」
「はぁ……」
「どうしたの?あ、今の私に惚れちゃった?」
誰かコイツを黙らせてくれ。
「どこで降りるんです?」
早く隣からいなくなってくれ。
眺めるのには良いが、コミュニケーションなどをとる気はない。
「誰が?」
「…………」
目の前の変態は、先ほど名乗っていたような気がする。
が、サラッと聞き流したために僕の記憶に留まっていなかった。
「君はどこで降りるの?」
「名前で呼んで?」
「は?(威圧)」
しまった。つい素が出てしまった。
だが、変態相手に後悔もくそもない。
案の定、
「ひどい、もう忘れちゃったの?」
僕は通して冷たく当たることを決意した。
「あ、聞いてなかった」
「じゃあもう一回言うよ?」
言わんでいい。
「私の名前は――
♪~♪~♪♪~♪――
ジャストなタイミングで、車内アナウンスが流れた。
『次は、神戸――
「神戸が苗字か」
「違うよぉ、今のはアナウンス!」
「珍しい名前だね」
「だから~、あーもう」
「あ、降りる準備しなくていいの?」
「まだ降りないもん」
僕は目線を再び本に戻しているので、彼女がどんな行動をとっているのかは、分からない。
分かりたくもない。
「そ」
「それだけ?」
「え?うん」
「さっき聞きかけてたじゃん」
「うん、もういいや」
本に集中させてくれ。
「私は言いたいんだけど」
「言ったら?」
「どうせまた聞き流すんでしょ?」
「もちろん」
君と話すよりも本を読んで居たい。
「むぅ……もっかいさっきのやろっかな~?」
さっきのとは、あのセクハラ紛いのことだろう。
「次はグーで止める、全力でだ。覚悟しとけ」
「……意地悪」
「で、結局どこで降りるの?」
「あ、聞きたいんだ。私の事気になるの?」
ティッシュペーパーを丸めて口の中に突っ込んでやろうかと思った。
「私はね、終点で降りるよ」
「そう」
「素っ気ないね、嫌い?」
「別に」
冷静を装っていたが、内心は穏やかではなかった。
何故なら、僕も終点で降りるからだ。
「そう」
それから次の駅を出発するまで――約10分間、彼女は口を開かなかった。
あれ、このキャラの名前なんだっけ?
最近は多いです。