旅立ち 詐偽
僕が8月15日に死ぬことは、ほぼ確定事項となった。
死おりを作り終えた僕に、最後の関門が待ち構えていた。
それは、「親を騙すこと」
毎年夏休みには父親に会いに行く習慣があるので、その点は大丈夫だ。
しかし、今年は初の試みをしなければならない。
去年まで僕は、母親の付添で父親へ会いに行っていたのだ。
最近は物騒だから、ということで同伴されていた。
僕が父親とあっている間母は、旧友と再会している。
カフェめぐりもしたらしい。
羨ましい限りだ。
母には母の目的がある。
だが今年はそうもいかない。
何せ、父親と話をした数日後に死のうというのだ。
流石に気が引けた。
そして期末テストの最終日。
夕飯時に打ち明けた。
すっかり日が暮れてからの食事。
最近できたハンバーグレストランで、注文の品が届いた後。
プラスチックの箱に入った、同素材の箸を取りながら。
「あ、そうそう。今年の夏さぁ―――」
川の水が高いところから低いところに流れていくように。
自然体で。
「父さんとこ行くのさ、一人で行きたいんだけど」
僕は母に、「今年は一人で行きたい」という旨を伝えた。
手が、微かに震えていた。
ばれるのが怖いのか。
それとも、こんな嘘をつかないといけないことに悲しんでいるのか。
僕にはもう、分からなかった。
人生最後の大嘘。
母は嘘に気付く素振りもなく、
「そっか、一人で行きたいか。大人になったね」
笑顔でそう返した。
「もう今年で17だし、当たり前だよ」
何も感じなかったと言えば、嘘になる。
危うく目から汗が出るところだった。
でももう、後戻りはできない。
心の中で謝罪する。
こんな嘘つきの息子で、ゴメン。
両脇に座っている、他の2組の親子を視界の端に移しながら、
親子で将来のことを話し合った。
言葉を交わすたび、心臓のあたりがすぅっと冷たくなるのを感じた。
表情を崩さずに談笑することは、僕にとってとても容易い。
嘘がうまいのは、僕の長所の一つだ。
びっ〇りド〇キーのハンバーグって、色薄いのに味がしっかりしてるのが不思議でたまらない。