歳上彼女との付き合い方
それは土曜日――十七時半のこと。
「しゅうくんしゅうくん聞いて聞いて聞いて聞いて!」
帰宅早々、ピンク色のオーラを纏った我が馬鹿妹が、十五センチほど浮きながらリビングへ突入してきた。
「落ち着け」
「あのね、私ね、こんどりょうくんとデートに行くの! どこだと思う? ねぇねぇどこだと思う?」
「知らねえよ」
「なんとディ○ニーランドなんだよ? 初の本格デートがディズニー○ンド! 羨ましい? ねぇねぇ羨ましい?」
「ぶっ殺すぞ」
ピーンポーンとインターフォンが来客を告げる。
「あ、りょうくんだ! 今からぷちデートするの忘れてた!」
以前からなにかと煩かった二卵性双生児の片割れこと馬鹿妹・弥生は、数日前に幼馴染みの亮哉と付き合うようになってから、煩さが倍になった。
年数にして約十七年。赤ん坊の頃から現在(高三)に至るまでの恋が数日前に成就したのだ。弥生が喜ぶのは解るし、嬉しいのも解る。
今まで端から見ていた俺は「お前ら両思いなんだから速くくっつけよ」とヤキモキしていたが、くっついたらくっついたで「速く別れろ」と思ってしまった。
そう思っても仕方がないだろ?
弥生は毎日あのテンションで暇さえあれば俺に絡んでくるのだ。
弥生が玄関に出て、大きなはしゃぎ声で「中に入って待ってて、私、着替えてくるから!」と『りょうくん』に告げている。
弥生が階段を駆け上る足音と同時に、『りょうくん』が玄関からリビングへ姿を現すと、勝手知ったる他人の家とばかりに俺の隣へ腰を下ろした。
「修平なにしてんの?」
俺は携帯ゲーム機器を見せながら「モンハン」と返した。
「おぉ良いなぁ、僕は売り切れで買えなかったんだよなぁ」
「……だからあれほど予約しろと」
ゲームトークに花を咲かせていると、漸く制服から私服に着替えた弥生が、リビングへ飛び込んできた。
「りょうくんお待たせ! 映画館行こ映画館!」
「亮哉お土産ヨロシクな」
「お土産? 修平はなにが良いの?」
「しゅうくんは冷凍庫にあるたこ焼きでも食べてなよ。あ、そだ。『お父さんもお母さんも今日は泊まりで仕事するからご飯はテキトーに食べなさい』だってさ。さ、行こうりょうくん!」
俺と『りょうくん』の会話が終了していないにも関わらず、一人で捲し立てた弥生は彼氏を玄関へ強引に連れ出して行く。
「あ、ちょ、弥生押さないでくれよ」
一連を見てもらったことでも解るだろうが、基本的に『りょうくん』はウザくない。ウザいのは弥生だ。
「はぁ……滅べリア充」
呟くと同時に携帯電話が着信を告げる。着信音から『りょうくん』だと察した。
携帯ゲーム機器をスリープ状態にした俺は「なんだよ?」と気怠るげに対応する。
『伝言を忘れてたから、言うよ?』
「は? 主語がねえよ主語が」
『姉ちゃんからの伝言。修平聞きたいだろ?』
彼の「姉ちゃん」と言うと、大学三回生の睦月さんしかいない。
睦月さんに弱い俺は、ただ舌打ちで返すだけ。
電話口の『りょうくん』は気分を害した風もなく続ける。
『「今日はうちへご飯を食べにいらっしゃい」だってさ。ま、頑張れ』
「両親が家を空けている状態と睦月さんの手料理か。なにからなにまで仕組まれている気がするのは気のせいか?」
嘆息混じりに俺は返答した。
『姉ちゃんは修平が好きだし、修平は姉ちゃんが好きなんだろ? なんで二人は付き合わないんだよ?』
「そっくりそのままそのセリフを一週間前のお前と弥生に返すわ」
そこへ『りょうくん』の傍に居るであろう弥生が『ね〜ね〜りょうくん』と小声で彼に話しかける気配がした。
咄嗟に『りょうくん』は通話口を押さえるが『これでしゅうくんと睦月ちゃんは上手く行くかな?』と言った策士・馬鹿妹の声が駄々漏れだった。
「お前ら馬鹿だろ」
『うわ、修平に聞こえちゃったよ弥生』
『あちゃ〜』
「お前ら馬鹿だろ」
『え〜と、そんな訳だから頑張ってねしゅうくん!』
『頑張れ修平!』
「滅べバカップル」
ブッと通話が切れた。
「……睦月さんにはなにか理由を作って行けないことを伝えよう」
弥生と弥生に毒された『りょうくん』のことだ、恐らく、睦月さん宅に赴けば、おじさんやおばさんは居らず、飯時の間、睦月さんとのマンツーマン的状況を強制的に作り出しているに違いない。
あくまでも俺は、睦月さんと一定の距離感を保ちたいのだ。
嘘の口上を思いつき、彼女に電話を掛けた。
好都合なことに留守電サービスに繋がり、他所へ遊びに行く旨をメッセージとして残し、携帯電話の電源をオフにしておく。
あとは急いで家中の戸締まり&鍵掛け&カーテンを締めて回り、仄かな明かりしか発さないスタンドと複数の菓子パン&飲料水を用意して、誰にも邪魔されないゲームの再開準備環境を整えた。
ゲームのスイッチを入れつつ、ふと、物思いにふける。
俺は物心ついた時から三歳年上の睦月さんのことが好きだった。恐らく彼女も俺を憎からず思っているはずだが、どちらからも恋人関係を持とう、と持ち掛けたことはない。
駆け引きをしていると言うよりも、今の状態、俗に言う「友達以上恋人未満」の関係が、睦月さんはどうだか知らないが、俺自身は心地よく、気に入っているのだ。
思考にふけっていた俺の鼓膜を、微かな物音が捉えた。
玄関から鍵を開ける音がする。意外と速く弥生が帰宅したようだ。
「お邪魔しま〜す」
「……なんだと?」
自宅に帰宅した人間は、普通「ただいま」と挨拶をするはずだ。
「聞き間違いじゃなけりゃ……」
「睦月さんですよ修平くん」
黒髪セミロングを後頭部で弛く縛った女性が、白いカーディガンに黒いロングスカートの出で立ちで佇んでいた。
「なんでここに……?」
「弥生ちゃんがね、鍵を私に預けてくれたの」
弥生のやつめ。
「俺は睦月さんに留守電を入れたハズなんだけど」
「聞いたわよ」と睦月さん。
「でも私を出し抜こうなんてまだまだね。何年お隣さんをやってると思ってるの? 修平くんの行動パターンなんてお見通しなんだから」
言外に単純馬鹿と言われた気がしたが、気のせいか。
「で、なにしに来たんスか?」
「一緒に夕飯食べようって、りょうに託けてたんだけど、聞いてない? 聞いていたから留守電に『行けない』って嘘ついたんだよね?」
「……さぁ?」
保身の為に惚けてみると、睦月さんがそれはそれは恐ろしい笑みを浮かべた。
「……りょうのやつ、帰ったらフルボッコね」
亮哉嘘ついてごめん。
「で、俺を誘いに来たのは良いんスけど、帰って貰って良いッスか?」
俺が言うや、ムスッとする睦月さん。
「修平くんて最近付き合い悪いよね。どうしてかしら?」
「どうしてでしょうね?」
僅かに睦月さんの眼光が鋭くなった――気がする。
「もしかして、彼女ができた、とか?」
「凄い発想ッスね」
「そうよね、そうよね。修平くんに彼女ができる訳ないわよね」
「笑顔で生きる気力を奪うのはやめて下さい」
「修平くんに彼女ができるくらいなら私にも彼氏ができるわよね」
「人を見下すなんて嫌なお姉さんだなぁ」
意地悪な笑みを浮かべた睦月さんが、俺に手を差し伸べて、「行きましょう」とソファーに座っていた俺を引っ張りあげる。
「自宅でたこ焼きを食べるんで、帰ってくれませんか?」
なんとなく、今、睦月さんと二人きりにはなりたくない気分なのでそう言ってみた。
「今日は腕によりをかけてグラタンを作ったの。食べて食べて」
「俺の意見は無視ですかそうですか」
睦月さんに手を引かれた俺は、一路、睦月さん&亮哉宅に移動する。
一瞥した携帯電話の液晶ディスプレイは十九時過ぎを知らせてくれた。
「で、おばさんとおじさんは?」
室内を見渡せども、俺と睦月さん以外に人の気配を感じない。
「三泊四日の海外旅行よ。私がプレゼントしたの」
明日、明後日と帰って来ないの、と睦月さんは微笑んだ。
うちの両親どころか睦月さんの両親も居ないとは……。
「なにその包囲網」
「包囲網って?」
「もしくは檻の中」
「檻の中って?」
「気にしないで下さい」
どちらもまな板の上の鯉には変わりないからな。
「立ち話もなんだし、ほら座って」
玄関からダイニングに通されて、四人用木材製ダイニングテーブル前まで連れて行かれる。
何気なく手を握り合っているが、俺は脳内でテンパっていて、軽い目眩と、ちょっとした呼吸の乱れをおこしていた。
テーブル前にある椅子を引かれて、座るよう促される。
座って間もなく、目の前に香ばしい匂いを放つナン(?)とグラタンが滑り込んできた。
対面に睦月さんが座る。
「なんでナン?」
「なんとなくナン」
「あぁ、そう」
これ深く追及したらダメなケースか。
こんな応酬を繰り返しながらも食事は進み、完食したところで、俺は席を立つ。
「あ、待って待って、まだデザートがあるから帰らないで」
対面から俺の傍らに急いでやってきた睦月さんが、俺を押し留めた。
「いやご馳走して貰っただけじゃ悪いんで、皿を洗おうかと……」
「そんなことはりょうくんが帰ってきたらするから良いのよ」
そうか、亮哉は家中ヒエラルキー最下位か。
睦月さんは「ほら座って」と俺を椅子へ押し戻して、俺が帰宅しないことを確認すると、冷蔵庫から「マンゴープリンンン」と大山のぶ代(旧ドラ○もん)の声真似をしながら、それを取り出して、俺の目前に置いた。
「これ、ラベル部分に『亮哉』って書いてあって、そっちのラベルには『弥生』って書いてあるんスけど気のせいッスか?」
「え? りょうくんの物は姉の物なのよ?」
ぺりぺりとマンゴープリンの蓋を剥がして、既に食べ始めている睦月さんがそう宣われた。
亮哉すまん、と内心で詫びつつ、俺もぺりぺりする。
「いただきま〜す」
んまんま。これ、普通に美味い。
いくらだろう? とぺりぺりした蓋を手に取る。
八五○円と書いてあった。美味い訳だ。
これを食べたら帰ろう、とマンゴープリンをゆっくり堪能していたところ、空気を先読みしたのか、睦月さんが「ちょっと答えて欲しいんだけど」と本題であろう口火を切る。
「修平くんは、私のこと好きだよね?」
「ええ、まあ」
ストレートな質問が肝臓や肺を抉り、噎せ返りそうになるが、どうにか平静な声音で返せた。
「それもかなり好きな方だよね?」
「そうッスね」
「だよね」
満面の笑顔で「私のこと好きだよね?」と火蓋を切って落とした睦月さんだったが、「だよね」と言い終えた頃には、表情が一転していた。
眉間にシワを寄せ、唇を尖らせ、子供のように拗ね始めたのだ。
「だったらさ」と俺の瞳を睨み付ける睦月さん。
「いつまで、私はお姉さん役を演じれば良いのかな?」
見つめてくる睦月さんの瞳は、俺の一挙一動を見逃さないとばかりに、瞬き一つしない。
「いつまで、待ってたら振り向いてくれるのかな?」
状況が口を挟むことを許さない。
目の据わった睦月さんが続ける。
「私、これでもかなりアプローチしてると思うんだけど、そこのところはどう思ってるの?」
俺の為に食事を作り、呼び出してまで聞きたかった本題は、これか。
ならば、真面目に答えよう。
「今の距離感が心地好いんスよ」
「それで?」
次を促されるが、俺は言葉を用意していない。
結果、数秒思考してからこう返した。
「俺としては仮に付き合って、喧嘩とかして別れるくらいなら、このまま付き合わないで、『友達以上恋人未満』の関係で居る方が、ベストだと思うんスよ」
好きだからこそ、睦月さんとは付き合わない。
言外にそう伝える。
「ふ〜ん」
睦月さんが唇を尖らせたままそっぽを向く。
どうやら回答が、お気に召さなかったご様子だ。
ともすれば、睦月さんはなにかを思い付いたのだろう。ニッコリと笑み、こちらに振り向いて口を開く。
「も、もし、もしだよ? もし仮に、なにかの拍子で……」
「仮定用語多いッスね」
「黙って聞いて」
椅子から乗り出して、両の頬をぐいーーーーっと引っ張られる。
「も、もしね、わ、私に彼氏ができたらどうする?」
若干鼻息の荒くなった睦月さんに軽く引く。
「仮に、睦月さんに彼氏ができたら? そうだな、睦月さんと彼氏の邪魔をするのは忍びないから、亮哉を俺ん家に呼ぶ頻度が増えるんじゃないッスか?」
「なんで? なんでそんな、変な気を使うの? 普通に来れば良いじゃない!」
俺の頬から両手を放した睦月さんが、ダイニングテーブルを両手で叩いた。
「なに怒ってんスか? 仮の話でしょ?」
「あ、うん、そうね。仮の話よね」
冷静さを取り戻した睦月さんが、椅子に腰を下ろして、気恥ずかしそうに頬を掻く。
俺は続ける。
「あ、あと睦月さんに彼氏ができたら祝福します」
「しゅ、祝福するんだ……」
睦月さんが目を見開き驚愕を露にする。
「結婚式には呼んでくださいね」
「よ、呼んであげるわよ! 修平くんの一人や二人!」
「俺を増やさないで下さい」
俺の話を聞いてか聞かずか、睦月さんが「じゃあ、ぎゃ、逆にね?」と告げる。
「逆にだよ? もしも、もしもだよ? 修平くんに彼女ができたら、私と合う頻度は減るのかな?」
「それは、まぁ、彼女を優先するようになるから、そうなるんじゃないッスかね?」
途端――
「そんなのイヤだ!」
ダイニングテーブルが先程よりも大きな音を立てる。
睦月さんが渾身の力込めて叩いたのだ。
「イヤだイヤだイヤだイヤだ! 私が! 睦月以外が! 彼女とか考えられない!」
睦月さんが駄々っ子に豹変した。
「嫌われたくなくて! 頼られたくて! 鬱陶しく思われないように! いつか振り向いてもらえるように! 頑張って頑張って頑張って頑張って隣の優しいお姉さんを演じてきたのに! どこかの誰かに修平くん取られるのはイヤだ!」
駄々っ子とはなんか違う気がしてきた。
「――ねえ修平くん」
喚いていた睦月さんが急に冷静な声音で俺を呼んだ。
「は、はい」
ダイニングテーブルに乗った睦月さんが怒濤の勢いで迫ってきて、俺は椅子から無様にずり落ちる。見下ろされる。
「修平くんは誰かと今付き合ってるんだよね? じゃないと説明つかないよ? 睦月がアプローチしまくってるのに一切靡かないんだもん。誰かと付き合ってること以外考えられないよね? ねえ誰なの? どこのどいつなの? 睦月に教えて? その泥棒猫許さないから。え、誰か言えないの? どうして? もしかして庇うの? 私から庇うの? ねえその付き合ってる子は睦月より年下? 睦月より若い? ねえどうして視線を逸らすの? 当たってるの? ねえ睦月を見ないの? 睦月を嫌いなの? 顔も見たくないの? その女が好きなの? 睦月を好きって言ったことは嘘なの? 睦月に嘘つくの? ねえ答えてよ!」
睦月さんの異常な豹変ぶりに腰が抜けて立てない俺。
「お、俺が誰とも付き合ってないのは睦月さんが一番知ってるじゃないッスか」
フローリングの上で、上体を起こした仰向け体勢のまま、ズリズリとバックする。
「なんで逃げるの? どうして睦月から離れようとするの? 睦月の傍に居たくないの? 傍に居ることが苦痛なの? 付き合ってる彼女の傍が良いの? 睦月より彼女の傍が良いの? そんなのイヤだ! イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ――」
睦月さんが絶叫しながら動けない俺に馬乗りになる。
殺される。誰か助けてくれ。
その時――
「ただいまぁ」
「お邪魔しま〜す」
玄関からよく聞き知った男女の声音が、扉の開閉音とともに響いてきた。
亮哉と弥生だ! 助かった!
「僕、弥生の為にマンゴープリンを買っ――」
暢気な亮哉が、弥生とともにダイニングへ踏み込んできた――と同時に二人と俺は目が合う。
驚いた様子の睦月さんも、絶叫を停止させて二人に振り向いている。
「あわ、あわわわっ、む、睦月ちゃん、超大胆だよ!」と弥生。
「し、失礼しました!」と亮哉。
二人は回れ右をしてダイニングを去り、数秒後に、玄関の開閉音が聞こえた。
「ちょ!? なんでどっか行くんだよ二人とも! 俺を助けろよ!」
慌てふためく俺を他所に、睦月さんの冷静な声音が図上から降り注ぐ。
「あ〜……弥生ちゃんもりょうも、この体勢を勘違いしたのね」
睦月さんに言われて気がついた。
俺と睦月さんの状態は、セックス体位の一つ、騎乗位だったのだ。
睦月さんが俺から急いで飛び退く。
「ご、ごめんなさい。その、と、取り乱しちゃって」
ペタンと座り込んで恥ずかしそうに俯く睦月さん。
「いや、なんか、うん。睦月さんの子供っぽい(?)一面が見れて、俺はホッとした」
睦月さんが顔を上げて驚く。
「そ、そう?」
「俺の中では睦月さんが完璧な人間だったんだ。だから、ダメな部分もあるんだなって思えて、なんかホッとした」
睦月さんが首を横に振る。
「睦月はコホン――私は完璧じゃないよ。今まで『なんでもできて頼りになるお姉さん』を演じていただけで、修平くんに良いように思われたかっただけなんだから」
それがさっき、なにかの弾みで、貯まっていた感情をぶちまけてしまったのかも知れない。
直感だが、弾みと言うかきっかけは、亮哉と弥生が付き合い始めたことだと思う。
恐らく、あいつらに触発された俺が、睦月さん以外の誰かと付き合うかも知れない、と強迫観念に襲われたのだろう。
追及は容易いが、やめておくのが優しさな気がする。
とりあえず、今一度、睦月さんの思いに目を向けてみる。
俺のことで、あそこまで一心不乱になるとは、正直思いもしなかった。
あんなに思われていたとは、男冥利に尽きるってやつだろうか。
今までなにかとはぐらかして来たが、俺も睦月さんのあの思いに応えなければクズな気がする、と自分に言い聞かせて、思いのたけを吐露する。
「これからは、これからは、さ。睦月さんが甘えたい時や睦月さんが泣きたい時は、俺がずっと傍に居る」
「え……?」と睦月さんが惚ける。
「だからもう、頑張ってお姉さんを演じなくて良いし、少しずつ俺を頼ってくれるようになると嬉しいな」
「そ、それって、どう言う意味?」
期待を込めた眼差しで、睦月さんが俺をみつめる。
見つめられた俺は、睦月さんを見つめ返して、頷いた。
「俺とちゅき合って欲しい」
「よ、喜んでちゅき合わせて下さい」
一番大切なところで噛んでしまった。死にたい。
「ふふ、ちゅき合ってだって」
「やり直しをお願いします」
「やだ」と呟いた睦月さんが、頬を赤く染めながら瞳を閉じる。俺も合わせて瞳を閉じると、睦月さんの唇と俺の唇が触れ合い、睦月さんの舌が侵入してきて、マンゴープリンの味がした。
「ところでダーリンの修平くん」と唇を啄んでくる睦月さん。
「私のダメな部分て、どこ?」
「俺を好きな部分だよ」
「もぉバカ」
※このあと睦月さんが全力で修平くんを美味しくいただきました。