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甘く誘う冬の悪魔  作者: まっちゃ
第二週 濁る吐息に溶ける華
9/32

2/9 溶けて零れた愛

図書室の窓際は、昼でも少し冷える。

雪宮悠はページをめくりながら、外に残る雪の輪郭をぼんやりと目で追っていた。溶けかけた白は、形を保とうとしているのか、ただ遅れているだけなのか、判別がつかない。

「やっぱり、ここにいた」

声をかけられるより先に、気配で分かった。

紅羽灯は、悠の向かいの椅子に当たり前みたいに腰を下ろす。幼い頃から変わらない距離感だった。

「相変わらず静かなとこ好きだよね」

「灯が騒がしいだけだろ」

そう返すと、灯は不満そうに眉を寄せてから、すぐに笑った。

その笑顔に、理由もなく肩の力が抜ける。考えなくていい関係、というのは、こういうものだった。

「はい、これ。昨日作りすぎたやつ」

差し出された小さな袋の中には、クッキーが入っていた。

受け取った瞬間、甘い匂いが指先に残る。悠は礼を言って一枚かじる。素直な甘さで、余計な後味はなかった。


「どう?」

「……うまい」

それだけで灯は満足そうに頷く。

褒め言葉を引き出すための沈黙も、探るような視線もない。ただ結果だけを受け取って、次へ進む。その気楽さが、少しだけ心地よかった。

「昔さ、悠が風邪ひいたときも、こうやってお菓子持ってきたよね」

「覚えてない」

「ひど。私はちゃんと覚えてるのに」

灯はそう言って笑う。

覚えていることと、覚えられていること。その差に、悠は一瞬だけ言葉を失う。だが、その違和感は、すぐに別の感覚に押し流された。


――霜原なら、なんて言うだろう。


ふと浮かんだ考えに、悠は小さく首を振る。比べる必要なんてない。灯は灯で、こおりはこおりだ。

そう思おうとした時点で、すでに線を引いていることに気づかないまま。

放課後、昇降口まで並んで歩く。

灯は今日あったどうでもいい話をしていて、悠はそれに相槌を打つだけだった。会話は滞らず、沈黙も苦しくない。

「じゃ、またね」

「ああ」

手を振る灯を見送ってから、悠は一人、校門を出る。

胸の奥に残っているのは、確かに温度のあるものだった。安心、と呼んでもいい。けれど、それがどこから来た温度なのかを、確かめる気にはなれなかった。

溶けて零れたのは、灯の気持ちだったのか。

それとも、選ばれなかった何かだったのか。


雪はまだ、完全には消えていない。

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