2/8 蝋に灯る哀
こんにちは、まっちゃです。1日1話企画、ついに2週目。28日まで、頑張っていきます。
朝の教室は、いつもより少しだけ暖かかった。
暖房の設定が上がったのか、それとも人が多いからか。理由は分からない。ただ、吐く息が白くならないだけで、今日は楽だと思えた。
席に着いて、雪宮悠は鞄を足元に置く。
窓の外には、まだ溶けきらない雪が残っていた。日陰に押し込められた白は、時間を止められたみたいに動かない。
「おはよ」
声は、斜め後ろからだった。
「……おはよう」
振り返ると、そこにいたのは紅羽灯だった。
少し赤みのある髪が、朝の光を受けて柔らかく見える。派手というほどじゃない。でも、教室の中で自然と視線が向く人だった。
「今日、寒くない?」
そう言いながら、灯は自分の手を軽くこすっている。
その仕草が、寒さを訴えているのか、それともただの癖なのかは分からない。
「……大丈夫」
短く答えると、灯は「そっか」と笑った。
それ以上、何かを聞いてくることはない。
授業中、ストーブの音が微かに響いていた。
暖かいはずなのに、指先は少し冷たい。悠はペンを握り直し、ノートに視線を落とす。文字を追っているはずなのに、内容はあまり頭に残らなかった。
昼休み、灯は悠の机の横に立った。
「今日さ、放課後ちょっと残らない?」
誘いというより、確認に近い言い方だった。
「どうして?」
「ううん。ちょっと、話したいだけ」
その「だけ」が、どのくらいの重さなのか分からない。
でも、断る理由も思いつかなかった。
「……いいよ」
そう答えた瞬間、灯の表情が少しだけ緩んだ気がした。
ほんの一瞬で、見間違いかもしれない程度の変化。
放課後の教室は、人が減ると一気に静かになる。
夕方の光が机の角を照らし、影を長く伸ばしていた。
灯は窓際の席に腰掛け、足を軽く揺らしている。
「なんかさ、最近疲れてない?」
唐突な問いだった。
「……普通だよ」
そう答えると、灯は「そっか」と頷いた。
それ以上、踏み込んでくることはない。ただ、同じ空間にいる。それだけ。
話題は取り留めもなかった。
授業のこと、寒さのこと、昨日見たテレビの話。どれも浅く、どれもすぐに終わる。
気づけば、窓の外は薄暗くなっていた。
「あ、もうこんな時間だ」
灯がそう言って立ち上がる。
「引き止めてごめんね」
「……ううん」
謝られるほどのことでもない。
むしろ、時間が早く過ぎた気がしていた。
昇降口で靴を履き替えながら、灯がこちらを見る。
「また、話そうね」
「……うん、灯」
名前を呼んだ瞬間、自分でも少し驚いた。
でも、灯は気にした様子もなく、「うん」と笑っただけだった。
外に出ると、空気はやっぱり冷たい。
昼間の暖かさが嘘みたいに、頬がひりつく。
帰り道、足元の雪は溶けかけて、ぐずぐずと音を立てた。
白はもう白じゃなく、透明に近い色をしている。
家に着くころには、体の芯まで冷えていた。
マグカップを棚から取り出し、しばらくそれを見つめる。
今日は、何を飲もうか。
そう考えて――結局、何も作らなかった。
部屋の明かりが、静かに灯る。
それは暖かくて、でも、長くは続かない光だった。
蝋に灯る哀は、まだ形を持たない。
今更ながら、軽く登場人物の読み方を。
・主人公 雪宮 悠 (ゆきみや ゆう)
・クラスメイト 霜原 こおり (しもはら こおり)
紅羽 灯 (くれは あかり)
です。今後とも、彼ら彼女らをよろしくお願いします。




